先月、約1年かけて議論した法務省の「性犯罪に関する刑事法検討会」が終了した。私は、多くの性被害の相談や公判を経験した被害者側の代理人という立場で、委員として16回にわたる検討会に出席し、意見を述べた。

 そこで検討された論点のひとつに「性的(性交)同意年齢の引き上げ」がある。私は16歳に引き上げるべきとの意見を述べた。

検討会でも明確に引き上げに反対する委員がいた

「性的同意年齢」とは、一般的に「性的な行為に同意する能力があると認められる年齢」と言われ、現在の刑法では13歳と定められている。

 この論点について、立憲民主党の本多平直衆院議員が「50歳近くの自分が14歳の子と性交したら、たとえ同意があっても捕まることになる。それはおかしい」と発言したと報道された。世論から猛反発を浴び、本多議員は謝罪に追い込まれた。

 しかし、世論に反発されたから謝罪して終わり、では根本的な解決にはならない。実は、検討会でも明確に引き上げに反対する委員、慎重意見を述べる委員がいた。「真摯な恋愛は保護されなければならない」「13歳や14歳でも真の同意はあり得る」という趣旨の主張である。

実父から受けたわいせつ行為を警察は「立件できない」

 ある事件を紹介する。

 A子さん(当時13歳)は、幼少時に両親が離婚し、母親と同居していた。A子さんは実父と面会していた時期もあったが、実父が面会時に幼いA子さんを怒鳴ったため、中断されていた。しかし、A子さんが13歳の時、実父から会社のイベントに誘われ、たくさんの人がいるなら、と思って参加したところ、帰りに自宅まで送ってもらう車の中で、わいせつ行為を受けた。実父からキスされ、胸を直接舐められ、陰部を直接触られ、実父の男性器も見せられた、というものだった。

 A子さんの様子がおかしいことに気づいた母親が、事件のことを知り、警察に届け出た。A子さんは警察から事情聴取を受け、具体的な被害状況を説明したうえで、「自分に何が起こっているのか分からず、その時は怖くて動けなかった」と説明した。

 ところが、警察からは、「車から逃げようとすれば逃げられたはず。抵抗していない」と言われ、強制わいせつ罪は成立しないと言われた。また、青少年保護育成条例違反についても、「相手がそんな事実はない、と言ったら終わり。立件できない」と言われたという。実父は離婚して別居し、養育費も払っていないので「現に監護する者」にも当たらず、監護者わいせつ罪にもならなかった。

 しかし、実父の加害行為が悪質だったこと、A子さんの証言がしっかりしていたことなどから警察が条例違反容疑で在宅での捜査に踏み切ったところ、実父は加害行為を認めた。

「二度と会わない」ことを条件に示談

 それでも、証拠が薄いと判断されたのか、検察官から示談を勧められた。A子さんの一番の望みは「二度と実父と会わない」こと。起訴されて刑事事件になったとしても、「二度と会わない」という判決は、法律上出せない。母親は、A子さんの希望が一番大事だと考え、「二度と会わない」ことを条件に示談に応じた。その結果、不起訴処分となった。

 現在A子さんは高校生であるが、進学先を選択する際、「女子校」であることを最重視した。高校側にも事情を説明して、男性教師との接触を最低限にするよう配慮してもらっている。まだ高校生なのに、「結婚はしない」「子どもを産むつもりはない」「恋愛も無理」と話しているという。

「暴行・脅迫」はどう判断される? 現行法の問題点

 現在の刑法では、13歳未満の者に対しては、暴行・脅迫がなくても強制性交等罪・強制わいせつ罪が成立する。つまり、12歳までの子に対しては、同意能力がないので、性交やわいせつ行為がなされれば罪に問われる。

 一方で、被害者が13歳であれば、大人と同様に「反抗を著しく困難にさせる程度の暴行・脅迫」がなければ刑法の罪に問われない(別途、児童福祉法や青少年保護育成条例違反に該当する場合はあるが、前者は成立範囲が狭く、後者は刑が軽すぎて実態に合っていないので、本稿では考慮しない)。

 その際、「反抗を著しく困難にさせる程度の暴行・脅迫」があったかどうかの具体的な判断基準として、判例は「被害者の年令、性別、素行、経歴等やそれがなされた時間、場所の四囲の環境その他具体的事情と相伴って、被害者の抵抗を不能にし又はこれを著しく困難ならしめるもの」としている。つまり、「暴行・脅迫」の判断にあたり、「被害者の年齢」も考慮され、年齢が低いことは「反抗を著しく困難にされた」と認定されやすい要素ではある。しかし、数多くの要素のうちのひとつに過ぎないし、実務的にも特段に重視されているという実感はない。

 実際、A子さんは13歳なので同意能力があるとされ、「暴行・脅迫がない」ことを理由に、強制わいせつ罪には問えなかったのだ。

 同様の状況に置かれた時、突然のことで何をされているのか分からず、怖くて逃げることもできず、体が固まる「フリーズ(凍り付き)」を起こしてしまうことは、科学的・実証的に明らかになっている。成人女性にもよくみられる症状であり、16歳未満の子が成人からの性的行為から逃れる言動ができるとは到底思われない。しかし、現行法では、暴行・脅迫がないと、加害者を刑法犯には問えない。

女の子だけがリスク一方的に負わされている

 そもそも13歳~15歳の子に、性的な行為をするかどうかについて、適切に同意する能力があるといえるのだろうか。小学校中学校の学習指導要領では、妊娠に至る過程について教えてはならないとされているから、性について正確な知識はゼロに近い。

 女の子だけが妊娠や中絶・低年齢による出産のリスク一方的に負わされ、性感染症による将来の不妊など、人生に関わる事項について多大なダメージを受ける。その年ごろの子は一人で産婦人科に行くことも難しいから、妊娠の事実を誰にも言えないまま臨月を迎え、一人で産んで新生児を遺棄し、犯罪者となるケースさえある。

 特に相手が成人の場合は、同意の前提となる両者の対等性がない。「グルーミング」と言われる手なずけ行為、誘導等によって恋愛だと誤信させたり、自己肯定感が低い子の承認欲求をうまく利用し、未熟さに付け込んだ性的搾取が横行している。「真摯な恋愛」「真の同意」というマジックワードが独り歩きして、多くの未成年者が性的被害を受けながら、「暴行・脅迫がない」「加害者が同意があると誤信した」等という理由で、事件化されずにいる。

 真摯な恋愛であるなら、せめて相手が義務教育子どもである間は、性的行為を伴わない交際をすべきだ。仮に子どもの方からアプローチされたとしても、だ。性的関係を拒否したことで関係が崩れるようであれば、その程度の一時的な感情に過ぎなかったということではないか。

16歳未満同士の場合は「保護の対象」とすべき

 一方で、同意年齢を16歳とした場合に、16歳未満同士の恋愛関係に基づく性的行為を処罰すべきなのか、という問題がある。

 16歳未満同士であっても、妊娠や中絶、性感染症の危険等については、一方が成人の場合と同様である。しかし、中学生同士だと、双方ともに性的行為についての正確な知識がないうえ、特に性交については、親のネグレクトや非行が原因になっているケースが多い。したがって、成人からの性的搾取とは次元が異なることから、刑罰の対象とせず、「保護の対象」として免責されるべきと考える。

 参考となるのが、18歳未満の者に対する性交等を処罰する青少年保護育成条例だ。47都道府県のうち、43都道府県に何らかの免責条項がある(なお、4つの県には免責条項はないが、運用で事実上免責されている)。

「同意年齢」ではなく「性的保護年齢」

 刑法でも、処罰対象から除く工夫をすればよい。これに対しては、「刑事手続きに乗せること自体が不適切」という意見もある。しかし、その背景にネグレクトや非行があることからすれば、むしろ警察や児相がその事実を把握し、家庭環境を調整すべく積極的に介入すべきではないか。それに、刑法にも、犯罪となり得るが処罰対象から外す規定は、犯人蔵匿罪と証拠隠滅罪に親族の場合の特例(105条)、親族間の窃盗に関する親族相盗例(244条)があるのだ。

 以上からすれば、そもそも「同意年齢」というネーミング自体が適切ではないと言えるから、「性的保護年齢」と言い換えることを提案する。そうすれば、「13歳でも真に同意能力がある子はいる」等という空疎な議論は不要となるし、「同意があったと勘違いした」等という加害者の弁解も排除できる。

 私が、「性的保護年齢」を16歳とすべきと考える理由は、せめて義務教育子どもたちは、無条件に大人からの性的搾取から守られるべきと考えるからだ。

犯罪になるかどうかの線引き

 さらに、強制性交等罪と強制わいせつ罪とで、年齢に差をつけるべきではない、と考えている。強制性交等罪と強制わいせつ罪の区別は曖昧なケースも多い。子どもに対して性交までは難しくても、わいせつ行為なら出来るという大人はたくさんいる。A子さんの事例は、かなり悪質な性加害であるが、行為態様は強制性交等罪ではない。全裸にして性的部位を舐めたり陰部に指を入れたりしても、現行法では強制わいせつ罪にしかならない。若年者の保護という観点からすれば、両罪の年齢に差を設けるべきではない。15歳同士のカップルのキスは、免責により犯罪となることを避けられるはずだ。

 犯罪になるかどうかの線引きはとても重要だ。その線引きが曖昧だと、いつ自分の日常的行為が犯罪になるか分からず、行動の自由自体を奪うことになりかねないからだ。裁判官によって、有罪と無罪が分かれるようなことはあってはならない。だから、刑法の条文は、分かりやすい文言でなければならない。

 とすれば、年齢ほど明確な基準はない。解釈の余地がないのだから。

刑法子どもを守る視点で改正すべき

 先日、過去のわいせつ行為を理由に教員の免許再交付を拒めるようにする児童生徒性暴力防止法が、国会で成立した。「教師と生徒の真摯な恋愛はあり得る」「教師と生徒の結婚は少なくない」「生徒から新任教師への働きかけも多い」という反対論を乗り越え、生徒を全面的に保護することに舵を切ったのだ。

 刑法も、子どもを守る視点で改正する必要がある。子どもは無条件に守られるべきだ。この国は、子どもをどう守っていくのか。子どもに「性行為の自由」を保障し、大人と同様の責任を負わせるのが国として正しい姿とは到底思えない。

(上谷 さくら

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