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「スカイライン開発中止」公式に否定も……

text:Yoichiro Watanabe(渡辺陽一郎)
editor:Taro Ueno(上野太朗)

スカイラインの開発を中止」という報道が、2021年6月12日に流れた。

【画像】かつてのセダンの名門【今、日産で買えるセダンは?】 全43枚

日産は即座に否定したが、スカイラインを始めとするセダンの売れ行きが下がっていることは事実だ。

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日産スカイライン    田村 翔

1990年頃までのセダンは、乗用車販売の主役だったが、今は国内の新車販売台数に占める割合は7%程度だ。販売比率が最も高いのは38%を占める軽自動車で、次は25%のコンパクトカーになる。セダンは7%だから圧倒的に少ない。

スカイラインの販売面における最盛期は、意外に早く1973年に訪れた。

前年に発売された4代目(通称ケンメリ)スカイラインが、1年間で15万7598台登録されている。

セダン、2ドアハードトップ、ワゴン、バンなど複数のボディを用意した効果もあるが、1か月の平均が1万3133台だ。

当時のスカイラインは、今のノートやヤリスSUVヤリス・クロスを除く)などのコンパクトカーを上まわり、スペーシアと同等に売れていた。

しかも1973年当時の国内販売規模は、1年間に400万台少々だから、今よりも少なかった。

小さな市場規模の中で、スカイラインは1年間に15万台以上/1か月平均で1万3000台以上を売っていたから、物凄い人気車であった。

一方、2021年におけるスカイラインの登録台数は、1か月平均で約400台だ。今の売れ行きは、最盛期だった1973年の3%に過ぎない。

セダン販売1位のクラウンですら苦戦

セダンの売れ行きは、スカイラインに限らず伸び悩んでいる。

日本国内で最も多く売られているセダンは、今はクラウンだが、2021年の1か月平均は約2100台だ。

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トヨタ・クラウン

クラウンは、最盛期の1990年には、1年間に20万台以上/1か月平均でも約1万7000台を登録していた。この売れ行きは、現在の国内販売1位となるNボックスに迫る。

当時のクラウンは複数のボディを用意して、超絶的な売れ行きだった。

今のクラウンセダンの最多販売車種でありながら、1990年に比べるとわずか12%だ。セダンの2位はカローラセダンだが、ワゴンのツーリングなどを除くと、2021年の1か月平均は1300台程度になる。

日産のセダンは、スカイラインが前述の約400台、フーガは60台、シーマは10台だ。シルフィは2020年に生産を終えて、今は少数の在庫を販売している。

ホンダアコードが1か月に約270台で、レジェンドは30台前後だ。シビックセダンは販売を終えた。

レジェンドも狭山工場の閉鎖に伴い、オデッセイやクラリティとあわせて販売を終えることが決まっている。

このほかマツダ3は設計が比較的新しいが、売れ筋はファストバックで、セダンの登録台数は1か月平均にすると約470台だ。

以上のように、セダンの売れ行きは全般的に低調だ。

三菱/スズキ/ダイハツは、少数のOEM車を除くとセダンを扱っていない。今のセダンは、販売面ではマイナーなカテゴリーになった。

主役から陥落したセダン 躍進のSUV

セダンはなぜマイナーな存在になったのか。

最も大きな理由は、クルマが実用指向を強めたことだ。

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トヨタ・ハリアー(今や普通車のラインナップの中心はSUVに)

セダンの外観は、エンジンルームの後部に居住空間が備わり、さらにその後ろ側に背の低いトランクスペース(荷室)を繋げている。

過去を振り返ると、1930年頃までの乗用車は、今のミニバンに似たスタイルだった(クライスラーPTクルーザーを見ると、昔のクルマがミニバンだったと分かる)。

この時にはボディの後部に荷台を装着して荷物を積んだが、流線形のトレンドに沿って荷台がボディに組み込まれ、居住空間の部分だけ背の高いセダンスタイルが確立された。

つまりセダンはデザイン重視だから、空間効率は低い。外観のカッコ良さよりも広さを大切にするなら、居住空間と荷室を一体化した方が都合が良い。

そこで第二次世界大戦後は、ワゴン(ステーションワゴン)が人気を高め、今はさらに天井を持ち上げたSUVが世界的に流行している。

日本ではSUVとあわせて、1990年代の中盤から普及を開始したミニバンも堅調に売れている。

その結果、国内の新車市場における販売構成比は、ミニバン、SUVともにそれぞれ約14%となった。そこに先に述べた軽自動車の38%、コンパクトカーの25%、セダンの7%、わずかなワゴンとクーペを加えると国内市場は完結する。

このようにしてセダンの需要は、実用重視のSUVやミニバンに奪われた。

安全面で利点 セダンの価値を見直す

以上のようにセダンの販売状況は、すべてのメーカーについて悲観的だ。

日産は「スカイラインの開発を中止」という報道を否定したものの、セダンの売れ行きは低迷している。日産の決算発表記者会見のエンディングに流れた映像を見ても、セダンは登場していない。

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レクサスセダンラインナップ

今は各メーカーとも、燃費規制を含めて環境性能を向上させるため、電動化技術に力を入れる。自動運転に向けた開発も急務だ。

その一方でクルマの動力性能やデザインの進化は成熟段階を迎え、以前のように1回のフルモデルチェンジにより、クルマづくりが劇的に変わることはない。

これに伴ってフルモデルチェンジの周期も長くなり、車両本体の開発費用は抑えて、環境技術や自動運転技術に集中させている。

そしてSUVは、環境技術を向上させる電動化と相性が良い。

セダンやワゴンに比べて天井が高く、床下にリチウムイオン電池を搭載しても、十分な室内高を確保できるからだ。LサイズのSUVになると、広い荷室が備わり、3列目のシートを装着することもできる。

このようにSUVは、電動化から多人数乗車まで多種多様のニーズに対応できるから、流行真っ盛りのカテゴリーになった。世界中のメーカーがSUVに開発を集中させるのも納得できる。

SUVの魅力は、2000年頃までは悪路走破力の高さと野性的な外観だったが、今はワゴン風の広い室内と電動化への対応力となった。

ただしセダンが全面的に人気を失ったわけではない。メルセデス・ベンツBMWアウディなどの欧州車は、SUVを充実させる一方で、セダン定期的に刷新させている。

その理由は、欧州では日常的に高速走行の機会が多く、安全確保のために優れた走行安定性と疲れにくい運転感覚が求められるからだ。

SUVの全高は大半が1550mm以上だが、セダンは1500mmを下まわる。低重心で、後席とトランクスペースの間には骨格や隔壁があるから、ボディ剛性も高めやすい。ノイズも小さく、ドライバーの疲労を抑えられる。

このように高速道路を安全に走り、万一の危険回避も確実におこなうには、SUVやミニバンよりもセダンが優れている。

日本車でもレクサス・ブランドは、セダンのIS、ES、LSを用意するが、エンジンのバリエーションなど開発の綿密さという意味では、メルセデス・ベンツなどの欧州車が充実している。

今後のクルマづくりにSUVが適しているのは理解できるが、セダンの価値もあらためて見直したい。危険を避ける能力を含めて、安全性が高いことは、ユーザーに大きなメリットをもたらすからだ。


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