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地球や月の軌道を変えることによる悪影響は?
 気候変動対策として「地球か月の軌道を変えたらどうだろう?」森林局や土地管理局に対しそう提案したのは、アメリカ共和党のルイ・ゴーマート下院議員だ。

 この発言の意図は、地球を太陽から遠ざけることで、温暖化する世界の気温を下げられないか確認することだった。

 地球の平均気温が上昇しているのは事実だ。このまま何も対策を講じなければさらに温暖化は深刻なものとなる。生態系に悪影響を及ぼすだけでなく、現在の文明を維持できなくなってしまう可能性すら示唆されている。

 ならば多少大掛かりでも地球を太陽から遠ざけて涼しくしてしまえばいい。というのがゴーマート下院議員の考えだ。

 だが本当にそんなことが可能なのか? もし可能だったとして、地球の環境にどんな影響があるだろうか?

【地球の太陽から遠ざければ気温は下がる】

 地球の温度について理解するには、太陽から届くエネルギーと地球から放射されるエネルギーバランス(放射平衡)を知る必要がある。ベロイトカレッジの惑星天文学者ブリット・シャリングハウゼン氏はこれを次のような等式で表している。

 なおTeqは地球の温度、T☉は太陽の温度、R☉は太陽の半径、Xは地球から太陽までの距離、Aは地球のアルベド(反射率)だ。

 地球を涼しくするには、等式の右側の変数をうまい具合にいじってやればいい。だが現実には太陽の温度や半径を変えることはできない。熱を反射してくれるアルベドの値を変えることもできない。

 となると残るのは、Xを大きするという手段だ。すなわちゴーマート議員が提案したように地球の軌道をずらして、太陽から遠ざければいいということになる。
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地球の軌道を動かすためには莫大なエネルギーが必要

 シャリングハウゼン氏の計算によるならば、地球の気温を3度下げて、これまでと近未来の気温上昇分を相殺するには、地球を現在の位置からさらに300万km太陽から遠ざければいいという。

 地球の重さは5.972 × 1024kg。それを300万km動かすためには、5 × 1031ジュールエネルギーが必要になる。

 世界の年間発電量は1019ジュールほど。つまり目的達成のために必要なエネルギーの0.0000000000002%に過ぎない。ということで、すでにこの時点で地球を動かすという目標が野心的すぎることがわかる。

 現実的にそれが実行可能かどうか置いておくとして、どうやればそれだけのエネルギーを地球に加えることができるだろうか?
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核爆弾10億発で小惑星の一部を吹き飛ばす方法

 その1つとして、核爆弾を使うという方法があるようだ。これは科学者が小惑星を動かすために提案している方法でもある。核爆発によって小惑星の一部を吹き飛ばすと、ロケット噴射のような推進力が発生するので、天体が動くという理屈だ。

 だが、この方法で地球を必要なだけ動かすのはかなり骨が折れそうだ。アドラープラネタリウムのゲザ・ギュク氏によると、500年間にわたり毎秒核爆弾を爆発させねばならないからだ。そうやって10億発ほども爆発させたのち、ようやく300万km動かすことができる。

 こうしてどうにか目標を達成できたとしても、そのせいで困ったことになる。それは爆発自体が地球を熱してしまうことだ。本来の目的は地球を冷却することなのに、かえって熱くなってしまうのでは本末転倒だ。
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小惑星でフライバイする方法

 もう少し過激さを抑えた方法として、小惑星や彗星といった天体のエネルギーを利用するアイデアも紹介されている。

 NASAの探査機などが惑星をフライバイ(接近通過)してその軌道エネルギーを拝借するのと同じやり方だ。

 だがこれも地球を動かすには力が足りない。理論天体物理学イーサン・シーゲル氏によれば、小惑星帯の総質量は地球の0.05~0.06%しかないのだという。そのために小惑星帯の質量をすべて利用してフライバイを実行したとしても、必要な距離の4分の1程度しか地球は動かない。

 しかもこの場合、たった1つでも小惑星が地球に衝突してしまえば、かつて恐竜を絶滅させたような大惨事を引き起こしかねない。温暖化を防ぐために人類が絶滅したのでは(人類的には)まずいだろう。
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月と地球の重力を切り離す方法

 地球には月という相棒がいる。それは素晴らしい絆かもしれないが、互いを縛り付けてもいる。人類存亡の危機にその絆を優先するわけにもいくまい。

 ここは断腸の思いで、月と地球の重力的なつながりを断ち切って、パチンコのように地球を飛ばしてみたらどうだろうか?

 だが、これをやる方法は今のところないし、やはり大惨事を引き起こしかねないとシーゲル氏。月がなくなり潮汐が大幅に低下するばかりか、夜は暗く、昼間は短くなり、しかも自転軸が不安定になるために季節の予測がきわめて難しくなる。

月を削って月の軌道を変える方法

 ならば次善の策として、月の軌道を変えてみるのはどうだろう? グラスゴー大学のロケット工学者マッテオ・セリオッティ氏によれば、月の公転軌道半径を10%大きくするだけで、長期的には地球の軌道が変化するらしい。

 そのためには月を削ってやればいい。たとえば全米にある風力発電タービンを集めて、100ギガワットのレーザーを月目掛けて照射してみる。だがこの方法で必要なだけ月を削るには300兆年かかってしまう。

 月の土をスペースXファルコンヘビーで宇宙へと運び出してみたらどうだろう? そのために必要になる打ち上げ回数はざっと70京回だ。

 ここで思い出さねばならないのは、人類が宇宙を目指して以来、打ち上げられたロケットの数はわずか7万780台ということだ。しかも、その半数は地球の大気すら脱出できなかった。

 多少過激でもいいのならば、最初に述べた核爆弾を利用する方法があるようだ。
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地球や月の軌道を変えるには数百万年かかる

 温暖化の影響を相殺するには、地球の軌道を大きく変えねばならない。そのために、どんなやり方であっても、おそらくは数百万年はかかってしまうとギュク氏は言う。

 そのような壮大な計画など、これまでどんな文明も立案したことがない。それどころか、ほんの数千年を持ち堪えることができた文明すら人類史には登場していないのだ。

地球や月の軌道を変えたところで根本的な問題は未解決

 最後に、地球と太陽の距離を変えたところで根本的な問題は何も変わっていない点をシーゲル氏は指摘する。今までのやり方を続ける限り、いずれ地球の気温は上がる。ならばその都度地球の軌道を変え続けるというのだろうか?

 こうした諸々のことを考えると、壮大な計画を立てて温暖化一気に解決するよりも、今できることを着実に行っていくほうがどうやら手っ取り早くすみそうだ。

References:Did Rep. Gohmert Suggest Changing the Moon's Orbit To Fight Climate Change? | Snopes.com / A Modest Proposal: Let's Change Earth's Orbit - Scientific American/ written by hiroching / edited by parumo

 
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