「魔法なんて無い」

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そう語り、幕を開けたのが「不可解弐Q3-魔法の無い世界-」の最終公演だった。



バーチャルシンガー花譜による2ndワンマンライブは「不可解弐 REBUILDING」と題されていた。

新型コロナウイルス感染症の影響を受けて急きょバーチャルライブ形式へと切り替えて行われた「不可解弐Q1」「不可解弐Q2」を再構築し、その完結編となる「不可解弐Q3」までが、この6月11日・12日の2日間にわたって豊洲PITで行われた。

事前に募ったクラウドファンディングの金額は、最終的に、目標3000万円を大きく上回る8260万円を集めるに至った。この公演にどれだけの期待が寄せられていたかを、その数字は端的に示している

豊洲PITに詰めかけた2日間で2000人以上ものファン、そして全編無料配信されたYouTube Liveを通して「不可解弐Q3-魔法の無い世界-」を体験した数万人は、何を目撃したのか。



魔法の無い世界で 花譜「不可解弐Q3」の幕開け

静まり返る東京の街並み、マスクを着ける少女。新型コロナウイルス感染症の拡大により変わってしまった世界を憂うような実写映像と共に流れる花譜の語りから「不可解弐Q3-魔法の無い世界-」が始まる。

魔法の無い世界 夢なんて叶うわけない 魔法なんて無い

淡々とした語り口で誰もが抱える漠然とした不安をあえて明確にし、ライブタイトルにもなぞらえてこの世界の残酷さに相対すると、「わたしはかふ うたをうたう うたがすきだから」そう結んで次のシーンへ。

フードをかぶった花譜が佇んでいたのは、荒涼とした世界。崩れた遺跡、遠くに見える山々が、そこが現実とはかけ離れた場所であることだけを確かにするが、真意をつかもうとする我々の思考を煙に巻くように、少女はゆっくりと歩き出す。

ふと立ち止まり大きく手を広げると、衣装が変化。Q3のための新衣装「青雀黑」だ。戦闘準備はバッチリと言わんばかりに覚悟がにじむ黒の装束に着替えると、荘厳なOPから連なる本編の幕開けを飾ったのは『Re:HEROINES』。

スタートから全開の歌声はあまりにパワフルで、目の前の小さな少女から発せられているとは信じがたいほどの迫力だが、これぞ花譜の真骨頂。2日間に及ぶライブの締めくくりを最高のものにするべく、一気にボルテージを上げていく。

「ラスト公演、盛り上がっていきましょう!」と煽って『魔女』へ突入。早くも最強アンセムドロップにもう反応が追い付かないオーディエンスだが、さらに荒々しく振り回すかのように感情の奔流を歌に乗せる。



かぶっていたフードを取り払いすでにクライマックスの様相だが、息つく間もなく『戸惑いテレパシー』へ。

眩暈がするほどにカラフルだった先ほどとうって変わって、最小限の照明の中にリアルタイムタイピングされているかのように歌詞が浮き上がり、千変万化の演出に彩られながら伸びやかに歌声を響かせていく。



はやおなじみのたどたどしくも愛おしいMCでは「改めまして、花譜です。」と簡単に挨拶を済ませると、「燃え尽きるつもり」と宣誓して彼女なりのやり方でオーディエンスを煽る。そう告げられては、こちらとしてももちろん灰すら残す気はない。その意志の共鳴がフロアを突き破りかねない大きな拍手となって響く。

最初のオリジナル曲として発表され、ライブの定番としても成長した『』では、ライブのたびに更新されてきた最高のパフォーマンスをさらに上書きしてみせるような熱唱を繰り広げる。

「解いて」の歌詞と共に絡まった言葉たちが解けていく演出が、楽曲の世界観をより強固にすると、間髪入れずに『メルの黄昏』から『痛みを』と繋げ、180度雰囲気の違う楽曲たちを抜群の表現力で描いてみせる。

特に『糸』については思い出も多いようで、当時から考えるとこうしてリアルライブが開催できるようにまでなった全てのことが「奇跡だと思う」と感慨深そうにMCで語った。



そんな奇跡の旅路を確かめるように、つづく『アンサ』では一つ一つの音を噛みしめるように歌う花譜と情感たっぷりのギターソロハーモニーが美しく響く。

誰かにとっての居場所に

戸惑いや痛み、そして許しを奏でる『心臓と絡繰』、音の重なりが美しい『quiz』と次々に表情を変える難度の高い楽曲たちもなんのそのと楽しそうに歌い上げる。



さらに『夜が降り止む前に』へと繋ぎ、ファーストワンマンを再現するような流れでオーディエンスを沸かせた。

私の歌も、誰かにとって居場所のようなものになってたら、すごく嬉しい

彼女がステージ上から目にしているであろう光景が、すでにその思いが成就していることの証明になっていることはもはや言うまでもないが、そう伝えたくても言葉を発せない現地の観測者(花譜ファンの総称)たちの代わりに、配信のコメント欄には思い思いの言葉で感謝を伝える様子が見られた。

続く『忘れてしまえ』は活動休止直前にリリースされた楽曲。少しばかりの寂しさも滲むが、そこからの活動再開、その後の大躍進を振り返って思い浮かぶ様々な感情が、バックに映るMVで描かれる夕暮れの街の景色に溶けていく。

ガラッと雰囲気を変えて披露されたのは『花女』。手紙を読むような淡々とした語りに段々感情が乗っていくグラデーションを見事に表現してみせる姿に、アーティストとして歩んできた確かな道のりを感じさせる。

そして、事前に披露することが発表されていた新曲『例えば』。




挿入歌となった映画『映画大好きポンポさん』の本編映像も交えたMVがバックに映し出され、作品ともリンクした創作にかける危ういまでの情熱を描いた疾走感のあるロックナンバーを歌い上げる姿はまさに絶唱。

儚くも美しく、荒々しいからこそ気高い歌姫の姿にもう一瞬たりとも目が離せなくなっていく。

映画大好きポンポさん』を観に行くようしっかり宣伝も交えてMCを終えると、ここからはダンサーを呼び込んでのダンスナンバーの連打へ。



私論理』は重低音が印象的かつダンサブルなリミックスになっており、ファンキーなビートがフロアの景色を一気に変えていく。軽快に踊るダンサーに囲まれて、「HEY!」と声を張り上げるのに明らかに慣れていない彼女の様子がなんとも可愛らしい。



つづく『未確認少女進行形』では、歌詞がネオンのように描き出されダンスと見事に調和する。つかみどころのない不思議な少女との物語を軽やかに歌い上げ、サビでは手を振って会場と心を一つにした。

早々と駆け抜けたダンスタイムのフィナーレは『モンタージュ』。抑えきれない激情を高らかに歌う様子に合わせて、ダンサーたちも熱量を上げていく。歌とダンスの表現の壁を越えた熱きユニゾンに煽られてフロアのテンションもマックスまで導かれる。



そして「最後じゃないけど最後の曲!」というあまり耳にしないタイプの珍しいコールから披露されたのは『危ノーマル』。ダンスタイムを過去にするように速度とキレを増すダンサーに負けじと、まるで今始まったかのようにエネルギッシュな歌声をぶつける花譜。

拳を振り上げあふれる感情を体いっぱいで表現し、観測者たちの心臓を一つ残らずわしづかむと、「みんなありがとう」と穏やかに告げ、ちいさく手を振ってステージの奥へ消えていった。





「何人がこの曲に救われたんだろう?」

小休憩を挟み、後半は今までのライブでも考察と議論を巻き起こしてきたパート『御伽噺』からスタート。フロアを取り囲むように上下左右あらゆるところから聞こえてくる言葉たちの中には、「最後の戦争」といった物々しいものも含まれており、再び多くの謎を振りまいては観測者たちの思考回路を刺激する。

やがて小さく聞こえていた心臓の鼓動音が大きくなっていくと共に、これまで辿ってきた歴史が走馬灯のように映し出されていく。最後に辿り着いたのは、公演の最初に披露された映像で花譜が座っていた謎の世界。ただあの印象的な色彩は失われ、モノクロながらも幻想的な景色に見とれていると光の中から制服姿の花譜があらわれる。

雷鳴のようなロックサウンドが轟くと共に赤い光が彼女を包むと、クラウドファンディングの大成功によって用意された、新たな特殊歌唱用形態「金鶏 -KINKEI-」が降臨。



新形態による最初の歌唱曲として選ばれたのは、2年前の活動再開に際してつくられた楽曲『雛鳥』だ。ここからの新たな始まりを表明するのにこれ以上相応しい曲はないが、鍵盤の音色が印象的に聴こえる新たなアレンジに。

バックに流れる制服姿とステージに立つ煌びやかな衣装の対比が、確かな歴史と成長を感じさせた。

余韻に浸る間も与えられず、次の曲のタイトルがスッと彼女の隣に綴られた。『命に嫌われている』。

何人がこの曲に救われたのか? 想像もつかない」彼女がそう語るように、命の儚さと残酷さ、そして美しさに極限まで迫るこの曲は、花譜の楽曲の一切を手がけるカンザキイオリさんの言わずと知れた代表曲で、彼女だけでなく多くのアーティストによって歌い継がれる名曲だ。

楽曲そのものが放つ強大な力を唯一無二の歌声で増幅させて今ここにしかありえないハーモニーをつくり出す。命を削るような歌唱が、それぞれの胸の内へ確かに突き刺さり、声を震わせて放たれた最後の言葉生きろ」には思わず鳥肌が立ってしまうほど。特別歌唱形態の本領発揮と言わんばかりであった。

原点回帰」を掲げたワンマンの舞台裏



ここまでの重厚な雰囲気を吹き飛ばすように、次なるMCで「変身しましたー」と嬉しそうに衣装を見せびらかす花譜。

改めて感謝を述べると、2日間3公演にわたった「不可解弐REBUILDING」を振り返る。

「不可解弐REBUILDING」はこれまで開催されてきた2ndワンマンライブ「不可解弐」の完結編として位置づけられたライブ。

前日および同日昼に開催された「Q1:RE」と「Q2:RE」は以前の公演を再構築したものとなっており、レーベルメイトから外部のアーティストまで様々なゲストを交えたライブが繰り広げられた。

そして完全新作たる本公演「Q3」には、歌を全部一人でやり切ることがコンセプトとして掲げられていたと明かされる。「原点回帰」をテーマに、すべての始まりたる花譜の歌声を全面に押し出すために全てが構成されていたのだ。

答え合わせをしたところで繰り出されたのは『過去を喰らう』。原点回帰を表明した直後に初期からの名曲にして、1,000万回以上の再生数を誇る大アンセムを放つ構成の大胆さに、全員もれなく度肝を抜かれる。

これ以上なくキャッチーでストレートなロックナンバーを歌唱する花譜もいつになく高まっているようで、とげとげしく攻撃力を増したフードを振り回しながら、さらに切れ味を増す歌声でオーディエンスの感情を切り裂いていく。

荒々しいバンドサウンドから突如として荘厳なホーンが鳴り響くと、さらなる新曲『海に化ける』へ。

歌詞やコード進行といった随所に『過去を喰らう』との連環を感じさせる楽曲で、何も考えずに新曲の音色に浸りたいという本能と、少しでも考察を深めたいという理性とが、贅沢な二律背反を繰り広げる。



「我らは不可解 されどむざむざに」

頭も心も虜にされたところでまだまだ休みは与えられず、ライブタイトルを冠したテーマソング『不可解』に突入。

最小限の演出の中、歌姫による歌唱が際立ち、原点回帰とはこういうことだとさらなる答えを見せつけた。

だがサプライズはまだまだ終わらない。印象的なイントロから新曲『未観測』。プロジェクト全体のテーマとしてこれでもかと常識を打ち壊してきた彼女たちだが、満足することなく新たな境地へ挑み続けることを、歌唱で、姿勢で表明してみせる。

我らは不可解 されどむざむざに 死にはせぬ

一見彼女には似合わないような泥臭く仰々しい表現が、確かに血の通った言葉として胸に響く

サプライズを与え続けた新曲盛り沢山パートをやりきって流石に嬉しいのかぴょんと跳ねて、『未観測』は『不可解』の続編にあたる曲と種明かし。みんなでぐちゃぐちゃになりながらも進み続け、最後には笑顔になる感じというイメージも共有してくれた。

ここまでですでに大満足のボリュームだが、「ラストスパートに差しかかる前に着替えてきます」と衝撃の告白。まだラストスパートじゃなかったのかという驚きと喜びに打ち震えていると、はやばやと制服姿に着替えて再登場。



まだ高校生だという彼女の「わたしの等身大の歌、聞いてください」という言葉から始まったのは、まさしく等身大の彼女だからこそ歌い得る『帰り路』。

私の良さってなんだろう そう思い悩む時にはもう すでに誰かの生活の一部花譜「帰り路」


ゆっくりと家路を辿る様子に重ねて、背景にはこれまでの楽曲MVが映し出されていく。思い描く風景は違っても、それぞれが自らの日常に情景を重ね、静かに聞き入る。

2日間のステージを支えた心強いバンドメンバーを紹介すると、「本当に本当に最後の曲です。私の大事な歌」と告げて『そして花になる』を披露。

人知の及ばぬ神々しいまでのステージングを繰り広げてきた彼女が、「私は普通の人」と歌っては、どこにでもいる普通の少女像を描き出す。



彼女が歌を歌う理由、花譜が生まれ歩くその意味が込められたこの曲は、今日という特別な日のフィナーレに、続いてきた「不可解弐」の完結にこれ以上なく最適で、宣言通り燃え尽きるほどの情熱を込める様に、一瞬たりとも見逃せないと意識が研ぎ澄まされる。

最後は小さく飛び跳ねて大団円を飾ると、改めてライブを開催できたこと、歌を歌えることに感謝を述べる。

好きな歌を好きなように歌わせてくれて、ありがとう。
あなたの生活の一部にしてくれて、ありがとう。
花譜を観測してくれて、ありがとう。
これからも、ずっとずっと歌ってたいです


2日間にわたる3公演を完遂してなお、自分はちっぽけでなんの力もないと自信なさげに語る少女が、ハッキリと口にした願望。他のなにを置いても譲れない歌への思いを最後に言葉でも表す。

毎日がすごくつまらなかったとしても
もし生きる意味がわからなくても
たとえ魔法が無くても
魔法が無い世界に
魔法のような出来事を届けたい。

魔法はみんなの心の中にあります。 
みんなのつくる魔法 それが不可解


あり触れた答えだと感じるだろうか、簡易な言葉と笑うだろうか。今夜の一部始終を見届けた我々は決してそうは思わない。

ここまで辿り着いてくれてありがとう みんな本当に愛してる

言い慣れていない愛の言葉と共に何度も何度も伝えてきた感謝を最後に改めて述べると、あたたかい拍手に包まれて幕は下りた。

EDでは失ってしまった日常の景色が再び映し出される。魔法の無い世界、いまだ希望の光すら差し込まない世界。だがそんな世界であっても、愛すべき世界であることを我々は知っている

彼女の歌が繋いでくれた一つひとつの思いが造り出した奇跡のような一夜、今まさに味わった感動の数々が、なにより確かな理由で意味で解なのだ

不確な世界で、たった一つ、確かなこと



最後にはKAMITSUBAKI STUDIO神椿スタジオ)からの新たなQとして、所属アーティストたちによるユニット・V.W.Pの1stアルバム『運命』の制作と、新プロジェクト「SHINSEKAI」の発表、そしてまだ終わらない不可解のその先、「不可解参」の開催が告知された。

今回のライブに寄せたメッセージのなかでプロデューサーPIEDPIPERはこう語っていた。

世界の何処にでもいる普通の女の子の「可能性の拡張」の続きを、是非お楽しみ下さい。花譜2nd ONE-MAN LIVE「不可解弐REBUILDING」公式サイトより


これだけの衝撃と感動を巻き起こしてなお、まだ可能性の拡張は終わらないらしい。彼女たちが切り開く常識破りの旅路のなかでひとつ確かなことがあるとすれば、我々はその可能性の拡張に魅了され、観測し続けるということだろう

※記事初出時、誤った記述がございましたのでお詫びして訂正いたします

「不可解弐Q3-魔法の無い世界-」セットリスト

なお、「Q1:RE」および「Q2:RE」は、6月20日(日)までアーカイブを有料で配信中(外部リンク)。

「Q3」も、後日有料での再放送が予定されている(放送時期未定)。




第1部


1
Re:HEROINES


2
魔女


3
戸惑いテレパシー


4



5



6
痛みを


7
アンサ


8
心臓と絡繰


9
quiz


10
夜が降り止む前に


11
忘れてしまえ


12
花女


13
例えば


14
私論理(Sosuke Oikawa Remix)


15
未確認少女進行形(Hideya Kojima Remix)


16
モンタージュ(Sosuke Oikawa Remix


17
危ノーマル(Sosuke Oikawa Remix)



第2部



御伽噺Remix


18
雛鳥


19
命に嫌われている(prayer ver.)


20
過去を喰らう


21
海に化ける


22
不可解


23
未観測


24
帰り路


25
そして花になる





「不可解弐Q3-魔法の無い世界-」フォトライブラリー











































































































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花譜「不可解弐Q3」ライブレポ 辿り着いた「たとえ魔法が無くても」の解