TVアニメの常識を覆すような美麗な映像、息を飲むアクション、練り込まれたストーリー、心に響く歌の数々などで視聴者の心をつかんだオリジナルアニメVivy -Fluorite Eye’s Song-」(以下、「Vivy」)が、先日最終話を迎えた。

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AIの「歌姫」ヴィヴィの百年の旅――「ヴィヴィと共に歴史を修正し、100年後に起こるAIと人間との戦争を止めること」を使命としたAI・マツモトと出会って描き直した物語。そのラストの展開は、驚きと感動にうち震えた人も多いのではないだろうか。

 

本作は、先に原案小説「Vivy prototype」を書いてからアニメ制作を進める手法をとっており、シリーズ構成・脚本の長月達平さんと梅原英司さんが原案小説の執筆を手がけている。そこで今回は、まさに物語を作り上げた人物である2人にインタビュー。全話放送後だから言える制作裏話も満載で、エピソードごとに作品を振り返っていただいた。

 

Starting Point「『Vivy』の誕生」

 

――具体的な内容についてお聞きする前に、まずは「Vivy」の企画がスタートしたきっかけからお聞かせください。WIT STUDIOさんからお話が来たとのことで。

 

梅原 そうですね。WIT STUDIOの和田さん(代表取締役社長・和田丈嗣さん)から声をかけていただき、僕が「Re:ゼロから始める異世界生活」(以下、リゼロ)で一緒だった長月さんにお声がけをしたのがきっかけです。

 

長月 その時は「新作アニメを一緒にやりましょう」ではなく、「相談があります」と居酒屋に呼び出されたので、普通に騙されましたね(笑)。

 

梅原 騙しました(笑)。

 

長月 その場に和田さんもいらっしゃって、「AIと歌モノで、長月さんだったらどういう話をやります?」と聞かれたので、「俺だったら、こういう感じ、こういう感じ……」と話したんです。それで、「またこういう会を設けていいですか?」と言われて、いつの間にか中核にいました(笑)。

 

 

――AIと歌をテーマにした作品といっても、アイデアはいろいろあったと思うんです。YouTubeで配信されている「Vivy -Fluorite Eye’s Radio- Audio Side」にゲスト出演された際、もともとは“宇宙モノ”だったとの発言もあって驚きました。

 

長月 そうなんです。最初は宇宙モノでした。異星人に地球の文化を届けるための“ゴールデンレコード”(※)の役割を果たすAIとして、宇宙に打ち上げられたキャラクター・ヴィヴィの話がいいんじゃないかと。ヴィヴィがいろいろな星を巡って、いろいろな経験をしていく――その話の骨子自体は今もブレずに、“星を巡る”から“時代を巡る”にシフトした感じですね。

 

※地球の生命や文化を伝えるために音や画像などさまざまな情報を収録して、惑星探査機ボイジャーとともに打ち上げられたレコード

 

梅原 数か月か半年ぐらいかかって、歴史修正のために100年の旅をする話になりました。

 

長月 各シスターズ(歌姫AI)のエピソードはある程度固まっていたので、宇宙でやろうと思っていたエピソードをそのまま地球に持ってきて、地球ナイズした結果が今の話になっています。

  

――歌をテーマにして宇宙船に乗って……となると、ほかの有名な作品が思い浮かぶ人もいるのではと。

 

梅原 全然思い浮かんでいいと思いますよ(笑)。

 

長月 これは俺の作り方の割り切りでもあるんですけど、自分にオリジナリティがあるとは思っていないんですよ。AIモノならAIモノ、宇宙モノなら宇宙モノで、自分の好きな要素を全部詰め込もうという体でやっています。「これは俺がゼロから作ったんだ!」という感覚は全くないので、皆さんが感じたのは全部合っていると思います(笑)。

 

――ちなみに、お2人とも“シリーズ構成・脚本”となっていますが、役割分担などはあるのでしょうか?

 

長月 原案小説を書くうえでは、サンライズのエピソードを俺が担当してメタルフロートのエピソードは梅原さんが担当、という感じに分かれてはいますけど、全体のプロットは完全に共同で作っています。ヴィヴィが100年かけてこういう旅をします、各エピソードではシスターズと触れ合ってこういう話をします、結末はこうなって起承転結はこうなります、とふたりでもんでいった感じですね。

  

1st. Singularity Point「マツモトとの出会い 〜 相川議員の死の阻止」

 

 

――では、各エピソードについてお聞きしたいと思います。最初はヴィヴィとマツモトが出会う第1話、第2話。こちらは同じ週に放送されました。

 

長月 このエピソードは、連続して放送するために調整してくださった皆さんのおかげで話題になったと思っています。第1話と第2話の内容を1話分でやるのは不可能だったのですが、かと言って2週に引き継いだ場合に第1話のラストの引きで次も見ようとなるかは怪しくて……。

 

梅原 そのせいで、全13話になりましたからね(笑)。

 

長月 そうそう。もともとは12話の予定だったんです。結果的に1話増やして13話にしていただいたんですけど、その原因となったのがここなんですよね。

 

梅原 長月さんが「最初に、“クリフハンガー”(今後への引き)としてモモカが飛行機で死ぬところまでは絶対にやったほうがいい」とおっしゃって。その通りだと思ったんです。でも、100年後の未来で戦争が起こって、マツモトがやってきて、相川議員を助けて、モモカが事故死する……それを20数分でやるのは絶対に無理だと。それで2話に増えたんです。

 

 

長月 最後の飛行機の墜落は、たぶん俺が言い出したと思うんですけど。

 

梅原 それは長月さんです。声を大にして長月さんのせいだと言えます(笑)。

 

長月 作品性を表現するうえで、あれは絶対にやらなきゃいけない展開だというのは、全体プロットを練っている時から思っていました。そこでマツモトがすごく冷たいことを言って終わるのがベストだと。でも、そのためには前段階としてモモカと触れ合っていなきゃいけないので、1話に収めるのはどうしても無理だったんです。

  
――正直、え? モモカもう死ぬの? と思いましたが、あのショックヴィヴィの旅の出発点になったところもありますからね。

 

長月 マツモトが「ここから、あなたの100年の旅が始まるんです」と言っていた通りですね。あまりAIにいい印象を持っていない相川議員は助けるのに、AIにものすごくよくしてくれる友達のモモカは助けられない。このことは、今後ヴィヴィがやっていかなきゃいけない旅のいいところと悪いところの両取りみたいに、うまく表現できたと思っていて。会心の第1話と第2話です。

 

梅原 これはもう長月さん節ですね。

 

 

2nd. Singularity Point「宇宙ホテル“サンライズ”の落下阻止」

 

 

――ここからは各歌姫AIとのエピソードがオムニバス形式で展開されます。第3話、第4話はエステラエリザベスが登場した、宇宙ホテル“サンライズ”のエピソード。こちらはどのように作られたのでしょうか?

 

長月 「Vivy」はもともと宇宙モノだったと話しましたけど、宇宙モノのテイストをそのまま残しているのが、このエピソードです。ただ、本当は(アニメで描かれた)倍ぐらいの話数がかかる内容なんですね。アニメでは大きく扱われていないですけど、原案小説ではルクレールが裏切るに至った“エステラオーナーを殺したんじゃないか疑惑”を解き明かすミステリーパートがあるんです。

 

梅原 ありますね。

 

長月 そのあたりをバッサリ落として、エステラエリザベスの話に終始する方向にシフトしました。尺の問題もありますし、ミステリーパートはアニメで見せるには地味なのでやっても仕方ないかなと。でも、アクション要素も含めてそれでよかったですし、個人的にはうまくアニメ化できたと思います。

  

 

――エンディングの曲が第3話ではエステラひとりで、第4話ではエリザベスと2人で歌ったのも素敵でした。曲の使い方や、どんな曲にするかは、お2人はどの程度関わっているのでしょうか?

 

長月 どういう曲にするかは神前(暁)さんたちにお任せしていましたが、曲がかかるシーンはこちらでイメージして設定していました。このエピソードなら、第3話エステラがひとりで歌っていた歌を、第4話ではエステラエリザベスが2人で作業しながら救命ポッドにいるお客たちに歌を届ける。やはり歌は大事に扱わなきゃいけないし、各エピソードのクライマックスや一番印象的なシーンで使っていこうと思いましたから。

  

 

――エステラの笑顔や言葉もすごく印象的で。しかも、このエピソードだけでなく、今後に繋がっているのが深いなと思いましたね。

 

長月 そうですね。(メインの)物語を縦軸、オムニバス的な各エピソードを横軸として、各エピソードでヴィヴィが与えられた使命を果たす上で必要なことを得ていく、という組み立てになっています。

 

第3話と第4話だったら、エステラと話したことで、少なくともエステラにとって“心を込める”とはどういうことなのかの答えを得て、ヴィヴィも経験する。それを踏まえて第5話、第6話であのような目に遭い、さらに、それを踏まえて第7話〜第9話があるわけです。ヴィヴィはその中で、「忘れないで」と言われながら旅をしてきたんだろうなと思い、各エピソードで必ず「忘れないで」のような言葉が出てくるんですね。

 

梅原 第4話ではエステラが「忘れないでね」と言い、オフィーリアのエピソードでは垣谷が「忘れるな。……お前の存在が、不幸にした人間がいたことを」と言うんです。グレイスのエピソードでも言わせたかったんですけど、グレイスは喋れないので、表情でわかるだろうと(笑)。

 

長月 ここは最後に「忘れる」ことも含めて経験を積まなきゃいけないところであり、各キャラクターと出会って得た経験値を忘れないように進んでいく話は意識的に作っていきました。

 

 

3rd. Singularity Point「人工島・メタルフロートの停止」

 

 

――第5話と第6話は、グレイスが登場したメタルフロートのエピソードです。

 

梅原 このエピソード、原案小説だと冴木は死なないんですよ(笑)。アニメではあのような終わり方になりましたが、もともとは死なない話なんです。ただ、長月さんと相談して、アニメでは彼に命を絶ってもらわないとどうにもならない、となって。第5話、第6話を作るうえで原案小説と一番違っていて、個人的に一番印象深かったのは冴木の扱いですね。

  

――次のエピソードでのヴィヴィの状態を考えると、かなりの衝撃を与えないといけないですからね。

 

梅原 そうなんです。この出来事でヴィヴィが引きこもらないといけないですから。でも、あんなすごい絵になるとは想像していなくて、完成した映像を見て「これはもうヴィヴィは出てこないだろ」と思ったんですよね(笑)。

  

 

――「Vivy」は第1話から絵が驚くほどきれいでアクションもすごいと感じていましたが、このエピソードでのアクションは本当に圧巻でした。

 

梅原 第6話は特にすごかったですよね。

  

――歌が流れる中で、戦闘機形態のマツモトとヴィヴィが突っ込んでいくのもめちゃめちゃ格好よくて。

  

梅原 バトル的には、第6話と第9話のカロリーが高くなるのは全体の構成を組んだ時からわかっていました。第9話は作画でがんばってもらって、この第6話は3Dのカメラワークでがんばってもらう感じでしたね。

  

――ちょっと気になったのですが、脚本に戦闘シーンである旨は当然書いてあるわけですよね。具体的なアクションや見せ方などはどの程度イメージしているのですか?

 

梅原 そこは脚本家さんによっても違うと思います。有名な作品で、「以下、バトル」とだけ書いて、あと3ページぐらい白紙の脚本を見たこともありますから(笑)。僕はキーとなるアクションを指定するぐらいですね。たとえば、第6話では、グレイスの姿に似せたK5をヴィヴィが一撃で倒すじゃないですか。“一撃で倒すこと”は脚本で指定していますが、あんな感じに掌底(しょうてい)を顎に当てて頭をやるとかは、指定していないです。キーとなる部分以外は演出さんに任せているので、映像を見て本当に驚きましたね。第9話だったら、右拳を出して左足を蹴り上げて……とか何も指定していなくて。作画的にはあそこが一番驚きました。

 

長月 俺はアニメ作品に関わった本数はまだ少ないですけど、アニメの動きを描く人の頭の使い方は異次元だなと思いますね。小説なら脚本よりは詳しく書いていますけど、それでもアニメになった時の動きは全然考えていないですから、映像を見て「なんだこれ!?」ってなりますよ(笑)。

  

 

――本当に角度ひとつとっても、頭の中はどうなっているんだと思いますよね。

 

長月 「Vivy」のアクションの中で一番好きなのは、第9話で垣谷がヴィヴィを倉庫にぶん投げたあと、キリンのような形をしたマツモトが向こうからドドドドって半円を描きながら走ってくるシーン。なんだこのスピード感! と思って、最高に好きなんですよ。でも、「ここでマツモトが四足形態になって走ってきて、垣谷をぶっ飛ばす」なんて、脚本には全然書いてないですからね(笑)。


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話題の2021春アニメ「Vivy -Fluorite Eye’s Song-」の、今だから語れる舞台裏! シリーズ構成・脚本の長月達平×梅原英司ネタバレ全開インタビュー