2020年7月、韓国東北部の江原道平昌(カンウォンド・ピョンチャン)にある民間の「韓国自生植物園」の園長、金昌烈(キム・チャンヨル)氏が、慰安婦像の前で跪いて謝罪する安倍晋三首相(当時)の像を公開して世間を騒がせた。

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 像の製作者はワン・グァンヒョン氏で、韓国内で賞をいくつか受賞している彫刻家である。

 1970年西ドイツのブラント首相が第2次大戦の加害責任を巡り隣国ポーランドユダヤ人慰霊碑の前で跪いて謝罪した出来事からインスピレーションを得て、「永遠の贖罪」像を制作したという。

 偶然だとは思うが、「永遠の贖罪」が設置された昨年はブラント首相の歴史的謝罪からちょうど50年という節目の年であった。

「謝罪する人物が安倍だったらいいと思う気持ちはあるが、誰と特定してつくったものではない。日本の首相であれ、政治家であれ、責任のある人物が謝罪する姿を必ず見たい」

 私費を投じてこの像を制作させた園長は、像の公開当時、このように述べた。

 園長は安倍元首相を意味して制作した像ではないと主張しているが、ブラント首相の写真とこの像を重ね合わせて見ると、ますます安倍元首相に見えることは言うまでもない。

 金園長は1970年代学生運動に参加。それが原因で3年間獄中生活を送った人物だ。釈放後はいくつか会社を興したが、“犯罪者”というレッテルがつきまとい、どれもうまくいかなかった。

 そんな金園長は1983年に農場経営を始め、1989年には韓国自生植物園の造成を開始。10年後の1999年から植物園の一般公開を始めた。韓国山林庁から私立植物園第1号に指定された韓国最大の自生植物園である。

「永遠の贖罪」は2016年にこの植物園に設置された。2020年に日韓でこの植物園が問題となったのは、像の除幕式を実施し、正式に公開を予定していたためである。

 ちなみに、「永遠の贖罪」と命名したのは、事実の歪曲も指摘されている韓国の小説『太白山脈』を書いた作家の趙廷来(ジョ・ジョンレ)氏だ。2008年に、退任後の廬武鉉(ノ・ムヒョン)前大統領夫妻がこの植物園を訪れた際には、金園長自らが園内を案内している。キム園長は反日で知られる文化人や左派政治家との親交がある。

「あいちトリエンナーレ2019」のリベンジ展

「永遠の贖罪」公開騒動から約1年が経過した。人々の記憶も風化しつつあるが、金園長はこの像を東京に持ち込み、展示することを検討している。韓国・平昌から東京までの輸送費用などを後援する団体が必要で、金園長は「日本側の後援者を探している」と主張しているから驚きだ。

 金園長が東京で開催される「表現の不自由展」に出展を検討したきっかけは「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」で「平和の少女像(慰安婦像)」など数点が展示中止となったことがきっかけだという。

 慰安婦像は彫刻家の金運成(キム・ウンソン)と金曙炅(キム・ソンギョン)夫婦によって制作されており、他者が無断で制作することを一切認めていない。肩に鳥を乗せ、椅子に座ったおかっぱ頭の少女の像はこの夫婦が制作したもので、日韓関係悪化を招いた元凶のうちの一つである。

 あいちトリエンナーレでは、この夫婦が制作する像が公費で展示されたが、この展示を不適切だと感じた市民らから1万件以上もの抗議の電話やメールが寄せられ、会期3日で展示が中止。その後、愛知県知事のリコール運動と、リコール署名の偽造事件に発展した。

 今回、予定されている展示会はいわば、あいちトリエンナーレリベンジ展で、6月25日から東京で開催される予定だった。開催が決定した当初は東京・神楽坂セッションハウス・ガーデンでの開催を予定していたが、市民らからの抗議を受け会場を変更。新たな会場(場所は非公開)に決定した。ところが、会場側から“近隣への迷惑がかかる”という理由により貸出不可となり開催困難な状態となっているという(参考記事)。

 7月16〜18日に開催予定だった「表現の不自由展かんさい」についても、会場(エル・おおさか)の指定管理者側から利用承認が取り消され、こちらも開催困難な状態だ。

 東京展は新たに会場を選定し、引き続き開催を検討している。大阪展は法的措置も視野に入れ、同会場での開催を折衝していくようだ。

 会場の問題と輸送費などの資金調達に目途がつけば、「平和の少女像」が展示されている東京の展示会に「永遠の贖罪」も途中参加することになるだろう。

 金園長は「あいちトリエンナーレでは、日本の右翼団体の反発と抗議で展示が中止された。今回、『平和の少女像』を東京などで展示する計画が進められているのを見て、この作品も日本で展示できたらと思った』と述べている」。

 また、「政治的発言をしたり、デモとしようとしたりしているのではない」「芸術作品の展示を通じ、韓日(日韓)の立場が異なる歴史問題を克服する機会にしたい」とも語っている(出所はともに2021年6月20日付聯合ニュース)。

 この金園長の発表は韓国でも報じられたが、意外にも韓国民の反応は芳しくない。

なぜ地方の自然園の園長は反日活動を続けられるのか

「もうやめて。幼稚すぎる」「歴史問題を克服したいだって?こんなもので日本を反省させられると思っているのか」「心のこもった謝罪も受けられていないのに、被害者である我々がここまでするのはみっともない」など、園長に対する批判的なコメントばかりが目立つ。

 また、「こんな銅像をつくると挺対協の連中にカネが渡るんじゃなかったっけ?」「尹美香(ユン・ミヒャン)の贖罪像をつくれ」など、挺対協(現「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯」)を批判するコメントも多く見受けられた。

「尹美香氏のように、お金のために銅像を設置したと誤解され、ストレスを受けている」と金園長が述べているところを見ると、像の公開後、相当数の批判の声が園長の元にも寄せられていることが伺える。

 2020年に像が公開された直後、反日銅像の真相を糾明するために設置された韓国の市民団体「反日銅像真相究明共同対策委員会(共対委)」が「韓日(日韓)関係を破綻させている日本軍慰安婦関連造形物を即時撤去せよ」と像の撤去を求める運動を行った。この団体を率いているのが「反日種族主義」の著者のうちの1人、李宇衍(イ・ウヨン)氏である。

※李宇衍氏の記事は以下をご覧ください

「慰安婦賠償判決」がまったくのデタラメである理由(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/63614)
慰安婦に徴用工、どれだけタカれば気が済むのか?(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/63712)
性奴隷説を否定した米論文にぐうの音も出ない韓国(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/64066)
慰安婦は性奴隷ではないと理詰めで語る米論文の中身(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/64113
ようやく崩れ始めた「慰安婦強制連行説」の虚構(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/64355
朝鮮人業者と契約し慰安所を転々とした慰安婦の証言(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/64369

 共対委の抗議の甲斐なく像は設置され続けており、異国の地である東京で展示まで検討されている。田舎の植物園の園長が、反日活動と捉えられる行為をここまで活発にできるのは左派の運動家らと深く繋がっているからだろう。

100回の嘘が真実になっている現実

 あいちトリエンナーレ慰安婦像などの展示中止が決定してから、一般社団法人日本ペンクラブ、「女性・戦争・人権」学会、日本漫画家協会、美術評論家連盟、引込線/放射線、CIMAM(国際美術館会議)、東京大学教員有志など、様々な団体らが中止を巡り声明を発表した。日本国内でも展示を支持する団体は多く存在する。

 慰安婦像は事実を歪曲し、日本を侮辱する像である。慰安婦問題を支持する左派は嘘をつき続け、その嘘がいつか真実へと変わるよう活動する。

 慰安婦像も日本大使館前に設置された当初はただのウィーン条約に違反した不法設置であった。それがいつしか正義の像と化し、韓国民だけでなく一部海外でも韓国側の主張が受け入れられる事態を招いている。

 ナチスのヨーゼフ・ゲッベルスによる、プロパガンダを語る時によく使用されるフレーズに「嘘も100回言えば真実になる」という言葉がある。これは韓国を批判する際にもよく使用されるフレーズだが、このフレーズのままに韓国側の主張が真実として認知されている。これが海を越え日本にまで及んでいることに、我々はもう少し危機感を持たなければならない。

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あいちトリエンナーレ実行委員会の記者会見に参加した「平和の少女像」のレプリカ(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)