資金や原材料、エネルギーの不足で国営工場の多くが稼働できていないと言われる北朝鮮では、設備や工場そのものをトンジュ(金主、新興富裕層)に貸し出し、その賃貸料を工場の運営資金とするケースが多く見られてきた。

また、当局が住宅を建設するにあたって、トンジュの投資を募って資材を購入し、完成した住宅の一部を投資の見返りに渡すという方式も使われてきた。

今回、その二つが混ざったような新たな手法が登場した。

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋が挙げたのは、順川(スンチョン)市で最近完成したセメント工場のケースだ。

地方政府は、トンジュから投資を募り、工場を完成させ、工場の運営もトンジュに任せている。

情報筋は次のように、その背景を説明した。

中央は、今年1月の朝鮮労働党第8回大会で金正恩総書記が示した国家経済発展5カ年計画の目標達成のため、地方政府に対し、財源を探し出して地方経済を発展させるように奨励している。

順川は石灰石と石炭が多く採掘される土地柄だが、それらを使ったセメント工場を建てようにも、地方政府にはその予算がなかった。そこで、トンジュの資金力に目をつけて、投資をひきつけ、運営まで任せたというわけだ。名目上は国営工場となっており、従来のような「名義貸し」がここでも活用されている。

新しい工場の特徴は、生産過程が完全に分業化されていることだ。セメントの原料となる石灰石を生産する工場、石灰石を焼成炉で焼いてクリンカーを製造する工場は別々のトンジュが運営しており、それらが協力してセメントを生産するというものだ

ただ、既存の国営工場と比べて、自動化設備が大きくなかったり、半自動化設備しかなかったりするため、製品は強度が低く、内装用としてのみ使われ、価格も1トン50ドル(約5540円)ほどの国営工場製より安い、40ドル(約4430円)で売られている。

別の情報筋は、このようなやり方は順川のみならず、他の地域でも行われているという。また、「市場に対する統制を強化しようとして反発を買っている中央のやり方とは異なり、地方政府は市場経済の活性化に大きく寄与している」と評価した。

三池淵ジャガイモ粉生産工場を現地指導した金正恩氏(2018年7月10日付朝鮮中央通信より)