1〜2年短縮されたとは言え、依然として世界最長の北朝鮮の兵役。恒常的な食糧不足、劣悪な衛生状態に加え、上官からの暴言、暴行が相次ぎ、極めて過酷なものだ。

女性兵士の場合は、上官からの「性上納」強要などの虐待のリスクにもさらされる。

そんな状況に耐えかねた朝鮮人民軍北朝鮮軍)の兵士1人が、脱営(脱走)する事件が起きたと、デイリーNKの軍内部の情報筋が伝えた。

事件が起きたのは今月17日午前1時ごろのこと。黄海南道(ファンヘナムド)海州(ヘジュ)に本部を置く第4軍団直属の警備中隊に所属するカンという20代前半の兵士が、夜間勤務中に、自動小銃を持ったまま脱走した。

この兵士は2018年に入隊後、同中隊に配属されたが、上官からのいじめに苦しめられてきた。例を挙げると、夜間勤務の交代時間になっても引き継ぎの兵士が現れず、理不尽な延長勤務を強いられたことは一度や二度のことではなく、それに抗議したところ、「反抗した」との理由で暴行されたと伝えられている。

おりしも当時は、朝鮮労働党中央委員会第8期第3回総会の期間中。重要な政治行事の期間中には些細な事件、事故の発生を一切許さないお国柄なのに、兵士が武装したまま脱走するという重大事件が起きたことで、軍内部はもちろんのこと、海州市一体が大騒ぎになった。

この中隊の正確な位置はわからないが、第4軍団の本部から、最も近い韓国領で2010年に朝鮮人民軍の砲撃を受けた大延坪島(テヨンピョンド)まで海を挟んでわずか40キロほどしかない。10キロほど泳げばたどり着けるルートもある。

過去にもこの海域を経て脱北、亡命した事例が多数あることから、軍当局は当然、脱北の可能性も視野に入れていることだろう。

ちなみに今年2月には、海域は異なるが、朝鮮半島東海岸の北朝鮮側から海に入り、6時間も泳いで韓国にたどり着いた事例が起きている。

軍団直属の部隊のみならず、他の師団、旅団の軍官(将校)まで動員されたの逮捕作戦が繰り広げられ、「抵抗すれば射殺せよ」との命令が下されているが、それから10日が経った27日の時点でも、逮捕の知らせはないようだ。

重要行事の開催中の脱走ということで、本人はもちろん中隊の幹部も連帯責任を取らされ、厳しい処分は免れないだろうと情報筋は見ているが、もし脱北したとならば、その処分はさらに厳しいものとなるだろう。

北朝鮮の兵士。2007年10月、恵山近くの国境で(デイリーNK)