バラエティプロデューサー角田陽一郎の『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など、数多くの人気番組を手がけてきたバラエティプロデューサー角田陽一郎氏が聞き手となり、著名人の映画体験をひもとく『週刊プレイボーイ』の連載『角田陽一郎のMoving Movies~その映画が人生を動かす~』。

トシ役で出演の「全裸監督 シーズン2」がNetflixで全世界独占配信される俳優の満島真之介さんが、トシともリンクする濃厚エピソードを披露!

■親父と姉と見て気まずかった『マルホランド・ドライブ』

――今まで見て一番記憶に残っている作品はなんですか?

満島 僕は忘れられない映画体験を一度しているんです。中学1年生の頃に沖縄から東京に遊びに来て、親父と姉(女優の満島ひかり)と単館系の映画館に行き、そこで『マルホランド・ドライブ』(2002年)という作品を見たんです。

裸になるわ、女性同士のラブシーンもあるわで、中学生の息子と高校生の娘と親父の3人で見る映画じゃねえって(笑)。いやー、めちゃくちゃ気まずかったですよ。

【画像】満島真之介の人生を動かした映画

――ぶっ飛んだ映画ですもんね(笑)。

満島 しかも、シネコンじゃないからポップコーンを食べてごまかすこともできず、「映画館って逃げ場がないんだ」って感じましたね。今でも、「あれは衝撃的だったね」ってひかりと話すくらいなんですけど、思えば僕の映画人生はそこがスタートでした。

――では、この業界に入るきっかけになった作品は?

満島 『HAZARD ハザード』(2006年)です。園子温しおん)監督の作品で、オダギリジョーさん演じるシンという主人公が日本にいや気がさして、危険を求めてニューヨークに行くお話なんですけど、俳優さんたちの演技が衝撃的で、モノマネをするぐらい好きになっちゃいました。

主人公が自分と同じ名前だったせいで、感情移入したのもあります。あと、僕自身がクォーターで、周りにもハーフや外国人がいっぱいいる刺激的な環境で育ったので、それも影響していたんじゃないですかね。

その後、「どんな人が作ってるんだろう」って思って、高校を卒業するタイミングで「俺がシンです。会わせてください」と、無謀にも園さんのホームページから連絡したんです。

実はちょうどその頃、姉のひかりが園さんと『愛のむきだし』(2009年)を撮っている時期だったんですけど、沖縄にいた僕は全然知らなかったんですよね。東京に行ってひかりに会ったら、「え、この間まで撮ってた映画の監督だよ?」って言われて驚きました。

――すごい偶然ですね。

満島 そこから園さんの付き人になって、クレイジーすぎる、東京生活が始まりました(笑)。いろんな映画を見せられたんですけど、どれもわけわかんない作品か、とてつもなく長い作品か、どっちかでしたね。北欧パンクみたいな音楽をふたりで正座しながら、ふた股のヘッドフォンで聴いたこともありました。そういうことが毎日続きます。ほんと、クレイジーですよね(笑)。

――園監督っぽいです(笑)。

満島 ここで言うのもあれですけど、実は役者には一切興味がなかったんです。表現をすることはもともと好きだったんですけど、「有名になるためにやるものじゃないよな...」という気持ちもあって。

その後、旅に出たことで「表現をしたい」という気持ちはさらに強くなったんですけど、そこでも「役者だ!」とは思わなかったんですよね。ダンスでも歌でも大道芸でも紙芝居でも、正直なんでも良かったんですよ。でも、いろんな縁ときっかけがあって俳優デビューすることになり、今があります。

――その感じ、「全裸監督」の荒井トシと同じですよね。

満島 そうなんです。だから不思議なんですよね。トシが村西(山田孝之)と出会ったように、僕は園さんと出会った。その後、俳優として映画デビューしたときに出会ったのが若松孝二監督です。これまたクレイジーな人で、「俺、どんな人生を歩むんだ!?」って感じですよね(笑)。

――「そっちに行け」って天に言われてますね。

満島 『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』(2012年)でデビューしたんですけど、カメラの前に立つのも初めてで、若松監督にはけちょんけちょんにやられましたよ。でも、それはすべて"愛の激"だったんです。振り返るとあの頃の体験が今の自分をつくってると思います。

そして、その後に蜷川(にながわ)幸雄さんや大林宣彦監督に出会いました。実は『さびしんぼう』(1985年)にもめちゃくちゃ影響を受けていて。最初にこの映画を見たときから「この大林宣彦という人はきっと俺みたいな人だ」と思ってしまったんです。実際に会ったら、同志に再会したような不思議な感覚になりました。

――蜷川さんも大林監督も狂気と言えば狂気ですよね。

満島 狂ってますよね、いい意味で。でもみんな、何に狂ってんだろうって最近考えたときに、愛に狂ってるんだろうなって思ったんですよ。

――名言ですね。『マルホランド・ドライブ』だってそうかもしれないですもんね。

満島 あれを見たときから自分の運命は決まってたのかもしれないですね。こういう話ってタイミングが合わないとできないですけど、今日はこういう話をして、過去を振り返り、ここから愛の道へ再出発できるような気がします。愛に狂ってる人たちに出会って愛されてきたからこその人生ですからね。

■今だからこそ続編配信の意味がある

――Netflixオリジナルシリーズ「全裸監督 シーズン2」のトシはいかがですか? 前シーズンでは、悲しい役だなと思ったんですが。

満島 もっと悲しくなってますよ(笑)。というか今回は村西も悲しいし、サファイア映像のメンバーも悲しいし、なんなら日本も悲しい。バブルが崩壊する頃の物語ですからね。

でも、コロナ禍になり、世界中がこれからどうしていこうかと向き合っている最中に「全裸監督 シーズン2」が配信になるのも、ひとつの定めなんじゃないかと思います。「人生、死んでしまいたいときには下を見ろ、俺がいる」という村西のフレーズを噛(か)みしめるには、今しかない、と感じてます。

――真之介さん的にトシという人間をどう思ってますか?

満島 トシも愛に狂っちゃってるんですよ。村西をそんなに愛してなくて、金づるとしか思っていなければまったく違った人生だったはず。そういう意味では、村西の才能に惚れている川田(玉山鉄二)とは違うんですけど、トシは村西という人間の、自分にはない激しい愛に触れてしまった。

だから村西が何をしても、どういうことが起きても放っておけないんですよ。それってまさに愛に狂ってるってことじゃないですかね。だからもう、愛に狂った人に愛された僕にとって、トシは出会うべくして出会った、最高の役なんです。

(ヘア&メイク/齋藤将志[MASASHI SAITO] スタイリング/DAN)

●満島真之介(みつしま・しんのすけ
1989年生まれ、沖縄県出身。主な出演作はドラマ『梅ちゃん先生』『恋愛時代』『ボク、運命の人です。』『いだてん~東京オリムピック噺~』『青天を衝け』、映画『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』『風俗行ったら人生変わったwww』『三度目の殺人』『キングダム』など

■オリジナルシリーズ「全裸監督 シーズン2」Netflixにて全世界独占配信中

取材・文/テクモトテク 撮影/苅部太郎

「全裸監督 シーズン2」にトシ役で出演する俳優の満島真之介さん