JR常磐線にはかつて、先頭1両のみが普通車2階建てという列車が存在しました。本数はたった1編成、先頭車両の形式は「クハ415-1901」です。JR全体でも唯一無二といえる存在でしたが、どのような経緯で誕生したのでしょうか。

2階建てが、中間車ではなく先頭車

2021年現在、東海道線宇都宮線といった首都圏のJR中距離電車には、中間に2階建て車両が組み込まれていますが、これらはグリーン車です。しかしJR東日本にはかつて、普通車ながら先頭の1両のみ2階建てとされた列車が1編成だけ存在しました。常磐線で使われた415系電車のうちK880編成です。そして、唯一の先頭車両は「クハ415-1901」という形式でした。

クハ415-1901は試作車として1991(平成3)年に製造。沿線が東京への通勤圏である常磐線は当時から、特に通勤ラッシュ時の輸送力増強が課題でした。取手以北~上野間の主力車両だった415系はもともと、クロスシートや3扉といった要素を持つ近郊形車両です。

ほかの路線を見ると、例えば東海道線にはグリーン車であるものの、2階建ての211系電車が組み込まれていました。収容力のある2階建て車両を常磐線にも応用できないか、クハ415-1901はそのような背景で誕生したのです。

この車両は先述の通り、特別な料金券が不要な普通車として運行されました。しかし2階建て車両は輸送力こそ増すものの、その車体構造からドアは片側2か所に減少しました。また、狭い車内に階段や通路があるため、乗降には時間がかかります。そのため、停車駅の少ない通勤快速としたり、通勤ラッシュのピークを外したりして運行されました。

設計思想はオール2階建て215系に受け継がれる

やがて常磐線には、遠方からの通勤需要に応えるべく1995(平成7)年にE501系電車が登場しています。こちらは座席をロングシートとし、扉を片側4か所設けた通勤形でした。

2005(平成17)年7月に新型E531系電車が導入されると、交代するかのようにクハ415-1901は運行が休止され、翌2006(平成18)年に廃車されました。なお常磐線E531系は2007(平成19)年から、グリーン車として2階建て車両を2両連結しています。

クハ415-1901はたった1両の試作車でしたが、誕生の翌年である1992(平成4)年には、これをベースにした全車2階建ての215系電車が登場しています。「湘南ライナー」や「おはようライナー」など、停車駅を限った東海道線ライナー列車として運行されたほか、一時は湘南新宿ラインホリデー快速などにも使われました。

215系の座席数は、当時主力だった211系より約4割増と、収容力の大きさが特徴。ただやはり、クハ415-1901のように乗降の効率が悪いことがネックとなり、だんだんと活躍の場を狭めていきました。結局40両の製造にとどまった215系も、2021年3月のダイヤ改正で定期運用を終了しています。

JR常磐線を走る415系電車のK880編成。下り方の先頭車両「クハ415-1901」のみが2階建て。2003年10月、藤代駅にて(写真提供:『路面電車と鉄道の写真館』よっしー)。