女優・大島優子さんの評価が高まっています。4月期のドラマ「ネメシス」(日本テレビ系)では、ハンドルを握ると人格が変わる女医役で登場。主演の広瀬すずさんや櫻井翔さんに引けを取らない存在感を見せました。

 大島さんといえば、AKB48ブレークの立役者の一人。ただ、そこから10数年がたち、かつての立役者たちのその後はさまざまです。引退した人も、活動を縮小させた人もいる中、彼女が役者として成功できている理由は何なのでしょうか。

「共感力」の高い性格

 まず言えるのは、役者に必要な基本スキルを身に付けていること。彼女はAKBに加入する前、子役やジュニアアイドルとして活動した期間があります。7歳でデビューし、2001年には月9ドラマ「アンティーク ~西洋骨董洋菓子店~」(フジテレビ系)でゲストヒロインも務め、ケーキ作りが好きな病弱な少女をかれんに演じていたものです。

 なお、彼女はNHK連続テレビ小説スカーレット」(2019年度後期)でヒロインの幼なじみを演じ、妻となり、母となってからのおばさんっぽい演技が絶賛されました。そこにも、子役出身ならではの傾向が反映されています。子役出身の女優には、永遠の少女的な感じが魅力になる人と、逆に世慣れたベテランっぽい雰囲気をうまく出せる人がいて、彼女は後者なのだと考えられます。

 そして、こうした経験はスキルと共にもう一つ、大事なものを彼女に与えた気がします。それは芸能界の厳しさを肌で感じたということ。「週刊文春」によれば、彼女は事務所関係者に「お芝居ができるなら主役じゃなくて全然いい。むしろバイプレーヤーでいい」と宣言したことがあるそうです。

 AKBで何度もセンターに選ばれながら、主役にこだわることなく、脇役も喜んで演じられるのは、子役時代から芸能界の浮き沈みの激しさを見てきたことが大きいのでしょう。それに、彼女は性格的にも脇役向きです。その性格とは「共感力」が高いこと。10年前に東日本大震災が起きた際、AKBグループはさまざまな形で支援活動を行いましたが、その先頭に立ったのが彼女でした。

 地震発生から数日後、自身のブログで「届いてください」と題した記事を書き、水も食料もままならない被災地の現状を伝えつつ、改善への協力を呼びかけたのです。さらに、その記事に寄せられた、ある避難場所からのSOS的なコメントを取り上げ、記事を書いたところ、その避難場所に支援物資が届き始めるという現実的な効果ももたらしました。

 役者にはあくまで、自分の思いを優先させて突き進むタイプもいます。しかし、大島さんはこうした共感力により、全体のバランスを考えながら演じられるタイプです。そこが脇役で力を発揮できることにつながっているのでしょう。

高まる役者としての需要

 また、彼女が役者で成功できている背景には、ある弱点がプラスに働いているようにも思われます。2014年、彼女はAKBを卒業するにあたって、ミニライブを敢行。「ヘビーローテーション」のソロバージョンなどを披露しました。

 その後、このライブについて「感謝祭」と題したブログを書き、「1人で連続で4曲も歌うなんて今までしたことないし、歌が苦手な私だから、とにかくガムシャラに歌うしかないと思って」などと振り返っています。この「歌が苦手」だとする意識が、演技一本に集中するという決断や覚悟に向かわせたのでしょう。

 そこで、思い出すバラエティー番組での姿があります。2011年に「『ぷっ』すま」(テレビ朝日系)に出演したときのこと。「ぶっつけ!夏の名曲カラオケ」という企画があり、彼女が1人で歌う生歌を聴けました。確かに、ちょっと照れくさそうにしていたものです。

 そして、その番組では、MCの草なぎ剛さんも照れくさそうに歌っていました。思えば、この2人、似たところがあります。共に国民的アイドルグループのメンバーとしてヒット曲も数多く歌いながら、実は「歌より芝居」タイプであり、しかも最近、役者としての需要が高まっているところです。

 さらに言えば、草なぎさんは現在放送中のNHK大河ドラマ「青天を衝け」(NHK総合)でもう一人の主役と言うべき徳川慶喜を演じ、ますます高い評価を得ています。一方、大島さんも前出の「スカーレット」で大きく飛躍しました。いわば、2大国民的ドラマ枠で重要な役を長期間演じることが2人の転機になったわけです。

 これは偶然ではありません。大河や朝ドラは幅広い層に見てもらうため、役者の世間的認知度も重視したキャスティングをします。そこで結果を出せば、その役者がますます国民的な人気を得るという好循環が生まれるのです。

 もちろん、大河や朝ドラに限らず、世の中に広く知られていて、かつ、演技もうまい役者はどこからも引く手あまたです。子役やアイドルとして学んだこと、得たものをしっかりと今の自分につなげている大島さん。その先には、国民的役者へという道も開けているのかもしれません。

作家・芸能評論家 宝泉薫

大島優子さん(2019年6月、時事通信フォト)