国連安全保障理事会が2017年8月に対策された対北朝鮮決議2371号は、国連加盟国に北朝鮮との合弁企業、共同事業体の設立を禁じる内容を含めた制裁を課した。その後続措置として、中国商務省は同年8月、中朝合弁企業の設立や増資を禁止したのに続き、10月には2018年1月9日までの閉鎖を命じた。

中国は当初、法執行を厳格に行っていたが、その後は緩和され、制裁破りに相当する行為が広範囲に行われている。平壌のデイリーNK内部情報筋は、平壌で建設が進められている中朝合弁の平壌精米工場について伝えた。

先月、中国側は設備と資材を、北朝鮮側は土地建物と労働力を提供するという内容の中朝合弁契約を、北朝鮮の政府機関と中国の個人業者が結んだ。工場では、3段階に分けて精米した高級米を、中央党(朝鮮労働党中央委員会)幹部など「1号米」配給対象に供給するという計画だ。コメの収穫が始まる今年9月末から10月初めまでの間の完成を目標に、平壌市突撃隊(半強制の建設ボランティア)1個中隊100人から150人が建設に当たっている。

情報筋が伝えた契約内容を見ると、中国の業者は北朝鮮の内閣の保証を得て、運営開始後3年間の収益が得られることになっている。北朝鮮での合弁ビジネスと言えば、利益の国外持ち出しを巡り問題になるため、繊維加工など完成品が持ち出せるものが中心になっていたが、今回の契約では、内閣が責任を持って利益を中国人民元で支払うことになっているという。そして、稼働から3年を過ぎれば、すべての設備は北朝鮮側に帰属することになっている。

この交渉の過程で、北朝鮮側は精米工場内に微量元素を生産する研究所の設立に投資すれば、完成後3年を過ぎても設備の8割の所有権を認めるという提案もしていたとのことだ。

しかし、この業者は、契約を守らないことが多い北朝鮮に、当初から多額の投資をするのはリスキーと考えたのだろう。精米工場の契約がきちんと守られるかを見て、その後に投資するかどうかを決めると返答したというのが情報筋の説明だ。

情報筋は、今回の計画で結果が出せれば、この事例を他の精米工場にも適用し、外国の設備が取り入れられると好意的に見ている。

この工場で精米されるのは特権層向けの1号米とのことで、従業員にかん口令を敷いたが、あっという間に平壌市民の間に広がってしまった。その反応は「中国人がまた騙された」というものだ。

市民たちは、大同江テレビ受信機工場、平壌焼酎工場など過去の合弁の例を挙げて、「今まで合弁企業で作られた製品を税関から(国外に)持ち出せないようにするというイカサマな手法で、収益を保証しなかったのに、現物でもない現金をまともに支払うものか」と笑っているという。

また、北朝鮮携帯電話事業を展開しているエジプトのオラスコムは、国内で得た利益を外貨にして国外に持ち出せず、北朝鮮国内で塩漬け状態になっていることも挙げて、「精米費用を人民元で支払うと言っているが、国定レートで計算するのか、市場レートで計算するのか、個人業者の要求どおりに支払うかわからない」との反応も示したという。

デイリーNKの調査によると、今月16日に平壌で1元(約17円)は平壌で560北朝鮮ウォン、1ドル(約110円)は4900北朝鮮ウォンで取り引きされている。だが、公式レートは1元が約100北朝鮮ウォン、送金レートは1元が約140北朝鮮ウォン、1ドルは約900北朝鮮ウォンと、大きな開きが生じている。オラスコム社と北朝鮮当局の交渉においても、利益の国外持ち出しに際して、どのレートを適用するかが問題となっている。

平壌・黎明通りの工事現場(ウェブサイト「曙光」)