「もう1カ月以上になるんだ」そんな風に私が日にちを数えて驚いていたのは日曜日、5月末にCL決勝が終わるやいなや、ラス・ロサス(マドリッドの郊外)にあるサッカー協会施設にバブル合宿となったスペイン代表が準々決勝のロシア遠征の後、また戻って来た日のことでした。いやあ、通常でもユーロやW杯などの際には開催国のホストタウンで結構、長い期間を過ごしているんですけどね。今回はヨーロッパ11都市に股がる史上初の広域開催ユーロで決勝トーナメントの地が不確定だったのはともかく、いまだに再流行の危険と無縁でないコロナ禍のせいで、選手たちは休養日もチーム揃っての決起ランチを除いて、一切外出ができず。家族や友人との面会も禁じられているとあって、せいぜい、試合の後にスタジアムに来てくれた奥さんや彼女、子供たちと短時間、触れあうぐらいしかできないんですが、それって、かなり可哀そうじゃない?

おまけにA代表のうち、ウナイ・シモン(アスレティック)、パウ・トーレス(ビジャレアル)、ペドリ(バルサ)、エリックガルシア(マンチェスター・シテイからバルサに移籍)、オジャルサバル(レアル・ソシエダ)、ダニ・オルモ(ライプツィヒ)の6人はユーロが終わり次第、この水曜から、ベニドロム(スペイン南東部のビーチリゾート)で合宿に入ったオリンピック代表に移動。スペインが準決勝で敗退すれば、1、2日ぐらいの休みはもらえるかもしれませんが、ここでバブルから出す訳もいきませんからね。13日には日本行きの飛行機に乗り、早ければ、グループリーグ終了の28日、最長8月7日の決勝まで、都合2カ月余り、家族と会えないなんて、とりわけ、18才のペドリなど、ホームシックになったりしないんでしょうか。

まあ、A代表でもオリンピック代表でも一番の若輩者ながら、ユーロ開幕から5試合連続スタメンという大役をルイス・エンリケ監督から与えられている当人は、「Estoy un poco cansado, pero con 18 años tengo fuelle para mucho más/エストイ・ウン・ポコ・カンサードー、ペロ・コン・ディエシオチョ・アーニョス・テンゴ・フエジェ・パラ・ムーチョ・マス(ちょっと疲れているけど、18才なんだから、まだまだ燃料はあるよ)」と早朝7時にサンクトペテルブルクから、マドリッドに着いたばかりの土曜の午後、クアトロ(スペインの民放)のインタビューでケロッとした顔で言っていましたけどね。あまり頑張りすぎて、バルサ2年目となる大事なシーズン、8月14日の週末のリーガ開幕前に燃えつきたりしなければいいのですが…。

そんなことはともかく、まずはスペインが9年ぶりに挑んだメジャー大会の準々決勝がどうだったか、お話ししていくことにすると。グループリーグ最終節のスロバキア戦、16強対決のクロアチア戦、どちらも大量5点を挙げて勝った後でしたし、相手が2018年W杯王者のフランスではなく、スイスに決まった時はかなり気が楽になったファンも多かったと思いますけどね。実際、前半8分にはコケ(アトレティコ)のCKを起点にジョルディ・アルバ(バルサ)のエリア外からのシュートがザカリア(ボルシア・メンヘングラッドバッハ)に当たり、オウンゴールで先制することもできたんですが、いやいや、とんでもない。

というのも、相手はキャプテンのジャカ(アーセナル)を累積警告で欠き、エンボロ(ボルシア・メンヘングラッドバッハ)も23分には負傷でバルガス(アウクスブルク)に交代という逆境にも襲われたにも関わらず、また始まってしまったんですよ。シュートを撃っても撃っても入らないという、スペイン代表の悪癖が。ええ、その流れを変えようとしたか、前半のうちから、太ももを痛めていたサラビア(PSG)がダニ・オルモに後半頭から代わっていたのに加え、ルイス・エンリケ監督は早くも9分、「la presión que hace es increíble y entendía que necesitaba frescura/ラ・プレシオン・ケ・アセ・エス・インクレイブレ・イ・エンテンディア・ケ・ネセシタバ・フレスクラ(信じられないぐらいのプレスをかけていて、フレッシュな選手が必要と思った)」とモラタ(ユベントス)をジェラール・モレノ(ビジャレアル)にしてみたんですが、あまり影響はありませんでしたっけ。

それどころか、23分にはパウ・トーレスとラポール(マンチェスター・シティ)が互いに邪魔し合って、エリア内のボールをクリアできず、フロイラー(アタランタ)からパスを受けたシャキリ(リバプール)に同点ゴールを決められてしまうんですから、困ったもんじゃないですか。それでも32分にはフロイラーがジェラール・モレノへのタイミングの遅れたタックルで一発レッド退場。残り時間での勝ち越しゴールを狙ったスペインでしたが、これがまさかの逆効果で、1人少なくなったスイスに延長戦を乗り切り、フランス戦の勝利で味をしめたPK戦突入まで耐える決意させることになるとは。

うーん、スペインも後半ロスタイムにはコケをマルコス・ジョレンテ(アトレティコ)へ、延長戦後半にもパウをチアゴ・アルカンタラ(リバプール)、ペドリロドリ(マンチェスター・シティ)にして攻め続けたんですけどね。ルイス・エンリケ監督も「Menos mal que ha fallado Gerard, porque si falla Morata lo empalan/メノス・マル・ケ・ア・ファジャードー・ゲラール、ポルケ・シー・ファジャ・モラタ・ロ・エンパラン(しくじったのがジェラールで良かった。モラタだったら、世間から惨々に言われていただろうから)」と認めていた当人を始め、オルモ、オジャルサバル、ジョレンテと次々シュートするもゴールは奪えず。延長戦だけでその数、16回ともなれば、GKゾマー(ボルシア・メンヘングラッドバッハ)のparadon(パラドン/スーパーセーブ)もあったとはいえ、まったくどうしたらいいものやら。

結局、16強対決クロアチア戦のように延長戦で決着をつけることはできず、PK戦が始まったんですが、何せ、直近でスペインが敗退した2018年W杯16強対決の悪夢がまだ私の頭の中に残っていてねえ。当時はサンクトペテルブルクではなく、モスクワでしたが、同じ国での試合で、やはり1-1のまま、延長、PK戦と進み、コケとイアゴ・アスパス(セルタ)が失敗。GKデ・ヘア(マンチェスター・ユナイテッド)はロシアのPKを1本も止められず、負けてしまったんですが、この日も最初に蹴ったスペインブスケツ(バルサ)がゴールポストに当ててしまうという、暗雲垂れ込める幕開けに。

対してスイスの第1キッカー、ガブラノビッチ(ディナモ・ザグレブ)が難なく決めたため、そう、相手はフランス戦でも5人全員成功していましたしね。一気に絶望感に襲われた私でしたが、幸い2番手のオルモはゴール。そこから差を見せたのがGKウナイ・シモン(アスレティック)で、いやあ、実は彼、プロデビューしてから、もう15本ぐらい止めているparapenalti(パラペナルティ/PK止め屋)だったんですよ。タオルの間に隠したGKコーチのくれたメモのおかげもあったようですが、シャル(ニューキャッスル)を見事に弾くと、PK要員として終了間際に入ったロドリがゾマーに防がれたショックも何のその、アカンジ(ドルトムント)も連続阻止。

するとグループリーグポーランド戦でPKをポストに嫌われていたジェラール・モレノもあの、マンチェスター・ユナイテッドと互いに11人が蹴り合い、最後はデ・ヘアをルリが弾いてビジャレアルに初タイトルをもたらしたEL決勝の壮絶PK戦の心意気を思い出したんでしょうかね、いつものように冷静に決めてくれたため、逆に焦ったか、スイスバルガスが上に外してしまって絶体絶命に。最後はこちらもクラブのスペシャリスト、4月にあった1年遅れのコパ・デル・レイ決勝でも優勝に繋がるPKを、その時の相手GKがまさにウナイ・シモンだったのは皮肉ですが、問題なく決めていたオジャルサバルがゾマーを破り、1-3で勝ってしまうんですから、思っていたより、このチームは根性があるのかも。

いえ、スイスは2試合連続のPK戦でしたし、このユーロの5試合では計1万3326kmも移動。セビージャ(スペイン南部)でグループリーグ3試合を戦い、5611kmしか動いていないスペインとは疲れ方も違ったでしょうし、ルイス・エンリケ監督が「He vivido la tanda más tranquila de mi vida/エ・ビビードー・ラ・タンダ・マス・トランキーラ・デ・ミ・ビダ(人生で一番、落ち着いていられたPK戦だった)」というのはちょっと、信用なりませんけどね。少なくもユーロ合宿が始まって以来、毎日、皆がPK練習をしていた成果というのは確かにあったよう。ちなみにこの日の夜にはイタリアがバレッラ(インテル)とインシーニェ(ナポリ)の2点で、ルカク(インテル)のPKゴールだけに終わったベルギーに1-2と勝利。来週火曜の準決勝でスペインと対決することになったんですが、もうここまで来れば、怖がってなんていられませんって。

だってえ、振り返ってみれば、スペイン黄金期の始まりとなる2008年のユーロに優勝した時も準々決勝でイタリアPK戦で勝利。カシージャス(当時レアル・マドリー)がデ・ロッシ(同ローマ)とディ・ナターレ(同ウディネーゼ)の2人を弾いてくれたのが転機となり、続いて2010年W杯のタイトルもゲットすることに。2012年のユーロでも準決勝でポルトガルPK戦となり、シャビ・アロンソ(同マドリー)以外、全員成功したスペインに対し、相手は2人失敗したため、最後のキッカーだったクリスアーノロナウド(同マドリー、現在はユベントス)が蹴ることなくして、敗退に追い込んだ前例がありますからね。その時の決勝ではイタリアに4-0と大勝していますし、大体、3大会共、戴冠への道筋ではフランスドイツを含め、強豪国を下しているとなれば、どうして今回、リピートできないと言える?

ただ、私も見学に行った土曜の夕方の練習ではサラビアとラポールが欠けており、とりわけ2ゴール2アシストの前者は回復が難しいよう。イタリアベルギー戦で左SBのスピナッツォーラ(ローマ)がアキレス腱断裂の重傷を負い、代表離脱となっているため、その辺は互角かと思いますが、さて。準決勝の会場となるウェンブリーのピッチ保全のため、前日スタジアム練習を禁じられたスペインは月曜の午前中にラス・ロサスでセッションを行って、夕方にロンドン入りする予定です。

水曜イングランドvsデンマーク戦勝者との決勝進出が決まってもあちらには滞在せず、また協会施設に戻ってくるそうですが、実はその火曜午後9時(日本時間翌午前4時)からの試合を巡っては、スペインでもイタリアでもファンが大変なことになっていてねえ。というのもイギリス政府のコロナ感染予防措置で入国後、5日間から10日間の隔離が義務付けられているためで、一応、スペイン政府もUEFAの招待客同様、隔離の免除を要請しているんですが…ホント、ここまで日が迫っていて、すでに航空券やチケット購入済みのファンは一体、どうしたらいいんでしょうか。

え、ユーロはまだ終わってないけど、もう月曜からはプレシーズン練習が始まるチームもあるんだろうって?その通りで一番乗りは昨季、最終節でリーガ優勝をお隣さんにさらわれ、無冠に終わったマドリーメディカルチェックなどを済ませた後、午後6時から、バルデベバス(バラハス空港の近く)で初セッションとなりますが、初日にアンチェロッティ新監督と顔を合わせるのは13人程だとか。そこにRMカスティージャ(マドリーのBチーム)の助っ人10人程が加わることになりますが、比較的、ラッキーだったのはマドリー勢がすでにユーロで全滅していること。

よって、バイエルンとの契約を満了して移籍したアラバ(オーストリア)、昨季はトッテナムレンタルしていたベイル(ウェールズ)は19日、モドリッチ(クロアチア)、バランベンゼマ(フランス)は21日、代表引退を表明したクロース(ドイツ)は21日、そしてクルトワアザール(ベルギー)が25日と皆、3週間のバケーションを満喫した後、早々に合流することになりますが、イタリア戦にケガで出られなかったアザールがどんな状態なのかは今のところ、不明です。その一方でコパ・アメリカ参加組はバルベルデのウルグアイが土曜にコロンビアに負けて敗退したものの、カセミロ、ミリトン、ビニシウスのいるブラジルはまだ試合がありますからね。

加えて、幸いビニシウスのオリンピックとのダブル招集は避けられたものの、日本で待ち受ける久保建英選手はもちろん、スペインオリンピック代表にもアセンシオ、セバージョス(昨季はアーセナルレンタル)、バジェホ(同グラナダ)が行っているため、この4人の帰還はかなり遅れることになりそうです。同様に月曜にメディカルチェック、実働は水曜からという弟分のヘタフェもククレジャが日本に行くことになるんですが、ユーロ組はグループリーグで敗退したトルコのエネス・ウナルだけ。こちらは1週間程の時差で出て来られるんじゃないかと思いますが、プレシーズン開始のタイミングを狙ったように、この月曜には兄貴分のアトレティコからビトロのレンタル移籍が発表されたのはちょっと意表を突かれたかと。10年ぶりの復帰となるミチェル監督は前回の在任時にEL出場も遂げた指揮官ですから、ファンも結構、新シーズンには期待しているんじゃないでしょうか。

そして昨季、昇格プレーオフを制し、マドリッド1部第4のチームに返り咲いたラージョだけはまだ予定が出ていないんですが、アトレティコは水曜にマハダオンダ(マドリッド近郊)の練習場に集合。こちらはまだ、ユーロにコケ、ジョレンテ、トリッピアー(イングランド)が残っており、ルイス・スアレス、ヒメネス(ウルグアイ)はコパ・アメリカを終了したものの、コレア(アルゼンチン)、ロディ(ブラジル)が稼働中です。ポルトガルの敗退後、木曜に足首の手術をしたジョアンフェリックスの回復具合も気になりますしね。これからマドリッドの暑さもいよいよ本格化しますが、どのチームも熱中症だけには気をつけて、トレーニングを始めてくれたらと思います。


【マドリッド通信員】 原ゆみこ
南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している

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