“朝ドラ”こと連続テレビ小説「おかえりモネ」(毎週月~土曜朝8:00-8:15ほか、NHK総合ほか※土曜は月~金曜の振り返り)の第8週「それでも海は」は主人公・モネこと百音(清原果耶)が気象予報士の試験勉強のため亀島の実家に帰郷、幼なじみのりょーちんこと亮(永瀬廉)と亮の父・新次(浅野忠信)の事情を目の当たりにする。名優・浅野忠信相手に熱演、連日Twitterトレンド入りもし、視聴者を引きつけた永瀬廉の魅力を、フリーライターでドラマ・映画などエンタメ作品に関する記事を多数執筆する木俣冬が解説する。(以下、一部ネタバレが含まれます)
■国宝級イケメンの魅力はその微笑み
百音の地元の幼なじみ及川亮を演じている永瀬廉はジャニーズ事務所所属のアイドルグループ“キンプリ”ことKing & Princeのメンバーのひとり。2011年、中学1年生から芸能活動を開始、2018年にキンプリとしてデビューした。
俳優としては2013年にドラマ「信長のシェフ」で森蘭丸役で出演、2019年では映画「うちの執事が言うことには」、ドラマ「FLY! BOYS, FLY! 僕たち、CAはじめました」で初主演。着々とアイドル活動のみならず俳優としても活躍している。
特徴としては“国宝級イケメン”と言われているその顔。確かに顎がきゅっと引き締まって整っている。とりわけその完璧さを高めているのがアルカイックスマイル。
口角がかすかに上がって常に微笑みをたたえているような表情は、見る人に安心感を与える神が与えた特性である。赤ちゃんや仏像などがそういう顔をしていると知ると納得で、誰もが赤ちゃんや仏像を見ると心が安定するように、永瀬廉演じる及川亮の顔を見るとホッとする。
■ふだんはクールで優しい亮の哀しい心の表現
亮は、百音や未知(蒔田彩珠)に対してとても紳士的に対する。「あさイチ」でそれを「もてしぐさ」と表現し特集していた。
亮は、欧米では当たり前のレディファーストの文化を取り入れているかのようにスマートに未知や百音をエスコートする。そんな態度をはじめとして亮は基本的には自信に満ち溢れ堂々としている。
だが2011年東日本大震災で仮設住宅生活を余儀なくされ、母・美波(坂井真紀)がいなくなり、父・新次が商売道具の船を失くし酒浸り……という事情を抱えながら、漁師として生活していこうと頑張る。
ふだんクールな明るさを放っている彼が、時々ふと哀しい目をしたり涙したり叫んだりするから、余計に彼のうちに秘めた思いを感じて胸が痛む。
永瀬廉として活動しているときよりも亮を演じているときのほうがアルカイックスマイル度は高い。そう気づいたのは7月9日放送の「あさイチ」にゲスト出演したときである。
永瀬廉として話しているときの口元は若干リラックスしていて、“亮”を演じる時にはおそらく意識して、アルカイックスマイル度を上げて演じているのではないだろうかと感じた。その口角の上がりかた引き締め方はまさに亮の意思の現れのようでもあり、その1ミクロンもずれのない口角の位置が俳優・永瀬廉の演技の確かさでもあるだろう。
■主演映画で見せた 鮮烈な“泣き笑い”
絶対に揺るがない安定した微笑みがふいに決壊して涙する、このギャップは主演映画「弱虫ペダル」(2020年)でも発揮されていた。
アニメ好きで内気な少年・小野田坂道が自転車競技部に入部し、仲間と共に自転車競技の魅力に引き込まれていく人気漫画の映画化で、永瀬は主人公の坂道を演じた。
この役は、「おかえりモネ」の亮とはまるで違う、気弱で友だちのいない少年。そんな彼が自転車競技を通して、友情や自分が誰かの役に立つことを実感する。
かなりヘヴィーな競技の内容を乗り越えていくときの苦しさと喜びの二重性を表現した泣き笑いは鮮烈だった。優しい穏やかな表情を浮かべ続けた少年が表情を崩して自転車を漕ぎ続ける。
「あさイチ」に出演した時は、緊張からなのか照明で暑かったのかなぜか顔から汗を大量にかいていたが、汗をかいていても全然暑苦しく見えないところにも泣き笑いの二重性と同質のものを感じた。
■“アイドル”永瀬廉を知らなくても表現が届く
ジャニーズの人たちはアイドルを専門職としながら俳優としても才能を発揮する人が多い。求められるアイドル特有の本人の魅力ありきで役を演じることも少なくない。
永瀬の場合はあくまでも役に徹して、そこにかすかに本人の個性ものぞかせているような印象で、まず役が伝えようとしている情報を適切に表現する。
そのためアイドル永瀬廉をたとえ知らなくても表現が届く。とてもクレバーな演技だと感じる。
「あさイチ」で共演者たちの似顔絵を披露して、独特の味わいのある絵であったが、対象の特性を見栄えの良い悪いに関係なく、目に見えたものを冷静に描き出していて、そこにも永瀬廉のクレバーさを感じた。
それでいて、「おかえりモネ」第39回では、亡き母のカラオケの十八番を歌うときのマイクを持っているかのような左手と、右手のポーズの決まり方は堂に入っていてさすが。
永瀬廉、なかなかの逸材ではないだろうか。今後の「おかえりモネ」における亮の動向にも期待している。
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