菅首相は面白い。

 先週の記者会見らしきものを見てあらためて思いました。4度目の緊急事態宣言を決めたという趣旨でしたが油断していたらギャグ満載だった。「先手先手で」はSNSでさっそくウケてましたが他にもたくさんあった。

 たとえば五輪は「無観客も辞さない」としきりに言っていた。この言葉の使い方がまず面白い。

無観客も辞さない」のカッコ悪い使い方

 ふつうの使い方を想像してみよう。世論やマスコミが「五輪は観客入れてバンバンやろうぜー、ウェーイ」と興奮している。そんななか菅首相がこう言うのです。

「待て待てお前ら、興奮しすぎではないでしょうかー。私はリーダーとして冷静に考えた。コロナ禍なので無観客も辞さない」

 これが「無観客も辞さない」の本来の使い方です。カッコいいです。

 ところが観客を入れてバンバンやろうぜーと言っていたのは菅首相自身なのである。読売新聞には『有観客 最後まで模索』(7月9日)とふつうに書かれていた。

『首相裏目 宣言下の五輪 「ワクチンで抑制」崩れたシナリオ』(朝日7月9日)では、

《この夏、コロナの感染拡大を抑え込んで、安心・安全な五輪を実現して衆院解散・総選挙になだれ込み、勝利したい考えだった。だが、その方程式は崩れつつある。東京に押し寄せる感染「第5波」を防げず、かねてこだわってきた「東京の有観客」は断念に追い込まれた。》

「有観客」の目的は政治利用とふつうに書かれています。

「異例の開催」を決めたのは誰でしたっけ?

 ところが有観客をしたかった首相が「無観客も辞さない」と言いだす。「よっしゃ、今日はこれぐらいにしといたるわ」みたいな感じです。「よっしゃ、今日は無観客にしといたるわ」。菅首相、面白い。ちなみに都民ファーストは「無免許も辞さない」でしょうか。

 あと会見で言ってた「緊急事態宣言の下で異例の開催となった」というのも面白いです。「異例の開催」ってご自分で決めたのでしょうに。

 まだあります。無観客での五輪開催の意義を問われ「全人類の努力と英知によって難局を乗り越えていけることを、東京から発信したい」と言っていたのも本当によかった。いつも説明せず答えずに「発信」を問われている方が、全世界に東京から「発信したい」というのです。面白かった。笑うしかない

 菅首相一人だけでなく複数でおこなうコントも素晴らしかった。

『菅首相「ヤラセ会見」疑惑 挙手していない記者が指名される“珍事”の目撃証言』(日刊ゲンダイDIGITAL7月9日)では、

《この日はなぜか挙手していない記者が指名され、さらに、その記者が質問を始める前に菅首相が答弁原稿を探し始めるという“珍事”がみられたのだ。》

 とあります。メディアも含めたミニコントも披露されたのです。さらに特筆すべきは産経新聞記者とのやりとりでした。

 産経記者は「7ヶ月後は北京冬季五輪。おそらく中国政府は中国の政治システムコロナに勝利した証しと宣伝する場としてオリンピックを利用することも考えられる。その前に自由主義国家である日本が五輪を開催することがどのようなメッセージを持つか」と菅首相に質問していました。

「威嚇にもほどがある」というパワーワード

 でも、すでに菅首相や安倍前首相が「コロナに打ち勝った証し」として五輪を政治利用しようとしていたではありませんか。この出オチ質問は素晴らしかった。「劇団スガ」と呼びたい。

「劇団スガ」といえば重要メンバーである閣僚たちもやらかしています。

 経済再生相の西村さんは休業要請に応じない飲食店に対し、「金融機関からも働きかけをしてほしい」と言った。この発言に対して日経新聞に載っていた経済官庁幹部の言葉が素敵でした。

「威嚇にもほどがある」

 パワーワードです。

首相から受け継がれる「芸風」

 でも「威嚇」は西村さんだけでしょうか。※参考・西村さんは「お願い」をしただけと言ってます。

 たとえば高齢者ワクチン接種。自治体側からだとどう見えたか。

関東地方の市長の元にも、総務省の複数の職員から電話が来た。(中略)県から「7月中に終えられないのか」とただされた。前後して、地元選出の自民党国会議員からも、せかす電話が入る。》(中日新聞WEB5月16日

 これも「お願い」を装った「威嚇」にみえます。

 そして今回、河野大臣は一部の自治体に対してワクチン接種のペースを抑えるよう求めた。あれだけ強く尻を叩いて「お願い」をしてきたのにヤバくなると自治体のせい?

 とにかく政府から各方面に伝わってくるのは威嚇であり圧力だ。

 そういえばワニ動画が大好きな平井卓也デジタル改革相は「徹底的に干す」「脅しておいて」と指示していた音声が暴露された。まさに威嚇、圧力そのものです。

 その後もワニ大臣のネタは文春で続々と報じられているのですが(大谷翔平ホームランペース並み)、他の大臣の威嚇案件がすごすぎてうっかりワニが隠れている状況は凄い。まるで閣僚による威嚇のホームラン競争みたいな展開です。

 これはやはり閣僚の“飼い主”に問題があるからではないか。

 菅首相は自著『政治家の覚悟』では《「いいから、代えるんだ」と押し切りました。》など強い振る舞いの自慢がやたら多かった。威嚇の真打と言っていい。「有観客」へのこだわりでも可視化されたのは強引な体質である。その芸風が菅政権の閣僚である西村氏や河野氏、平井氏にも順調に受け継がれているだけなのかもしれない。

このまま五輪開催という「本土決戦」に突入するのか

 東京新聞「こちら特報部」(7月9日)のデスクメモが次のように書いていた。

《そもそも「コロナに打ち勝った証しとしての東京五輪」など誰も求めていなかったが、それでも自ら「勝ち負け」を口にした以上、勝敗は問われる。》

 そして、

緊急事態宣言発令に至った今の状況は、はっきり「負け」だ。敗軍の将が居座ったまま、五輪開催という「本土決戦」に突入するのか。》

 敗軍の将が居座ったままにするにはどうしたらよいか。「あったものを、なかったものにする」しかない。そういえば菅首相は今回の西村発言を「承知していない」とさっそく言っていた。これまでよく見た風景がまた繰り返されているのだ。菅首相の会見は面白かったと言いましたが、ここだけは笑わないようにします。
 

(プチ鹿島)

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