(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)

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 日本と韓国との対立を、両国の同盟国である米国が改善できるのか?──こんな疑問をめぐる議論がワシントンの主要シンクタンクで展開された。

「ノー」と答えた韓国側の学者は、現在の日韓両政権下では歴史や領土をめぐる紛争の和解は極めて難しく、第三国の調停はまず効果がないと断言した。

「なかばイエス」と答えた米国の専門家は、歴史問題など日韓両国民の心につながる対立の和解は無理だとしながらも、安全保障など他の分野での日韓歩み寄りは米国の仲介で可能だと主張した。

朴教授「米国が仲介しても関係改善は困難」

 ワシントンの大手研究機関「戦略国際問題研究所(CSIS)」は7月9日、定期コラム「日本討論」の最新記事を公表した。「日本討論」はCSISの日本部が毎月1回、日本に関連する重要テーマを取り上げて、様々な立場から討論する場である。今回の主題は「米国は日韓問題を解決できるのか?」だった。

 否定的な見方としては、CSISの客員研究員でもある韓国の朴喆煕(パク・チョルヒ)ソウル大学国際大学院教授の意見が紹介された。

 朴教授は、韓国の文在寅政権が当初、激しい反日キャンペーンを展開したこと、日本側でもそれに応じるような反韓感情の高まりがみられたこと、相互の信頼が顕著に欠落していることを挙げ、「(二国間の)信頼は米国のような第三者によって回復はできない」と総括していた。

 そのうえで朴教授は、たとえ米国が努力しても日韓関係の実質的な修復や改善は難しいという。朴教授が示す理由は以下の通りだ。

・日韓両国間の根の深い問題に具体的な解決策を提供することはできないという点で、米国の仲介には明らかに限度がある。米国は、日韓両国に関係する安全保障、軍事、広範な地域問題については、両国に友好的、建設的な助言を与えることはできるだろう。だが、日韓間の歴史や領土の問題に関しては、米国ができることはきわめて少ない。とくに歴史関連の問題について第三者ができることは少ない。

文在寅大統領菅義偉首相はともに日韓間の絆の回復に熱意がない。その決定的ともいえる理由は、二国間関係を改善しても、自らの国内での政治的な立場に利することがない点だろう。両指導者にとって、問題を解決するよりも、激化しやすい衝突をうまく管理して、特定の課題だけに触れたり、あるいは放置したりする方が政治上の利益になると言える。だから日韓関係は改善されず、米国の仲介もよい結果につながらない。

 朴教授はこうして、米国が調停や仲裁をしても日韓関係は改善されない、という立場を取る。ただし悲観論だけではなく、日韓関係のあるべき姿として以下のようにも言及していた。

・ともに米国の同盟国である日本と韓国の衝突は、中国や北朝鮮という立場の第三国を利することになる。だから米国は、明確な効果がすぐに期待できなくても、日韓両国に対話推進への圧力をかけて、紛争を制御できないところまで関係が悪化することを防ぐ努力は保つべきだろう。

スナイダー氏「歴史問題以外ならできることがある」

 一方、日韓関係を修復させる米国の役割を、かなり肯定的にみる米国人学者がいる。スタンフォード大学国際政策東アジア研究所の研究員を務める韓国研究のベテラン学者、ダニエル・スナイダー氏だ。

 スナイダー氏は、「歴史問題に米国が介入して改善することはできない。日韓両国が何世代もかけて取り組んでいく課題である」と認めたうえで、それでも歴史問題以外ではできることはある、と主張する。

・米国ができること、するべきことは、北東アジアの重要な2つの戦略的同盟国に対して米国の影響力や重みを行使することである。効果的な介入は、両国の関係改善への動きを、静かな外交によって支援することだ。

バイデン政権は、米日韓3国の安全保障協力が受けた損害を修復しようと努力し始めた。その方法としては、日韓両国間の歴史関連課題を他の安保問題などから切り離す「二重軌道方式」を進めようとしている。歴史問題の切り離しは容易ではなく、日韓それぞれの政治指導層が選挙を控えて、相手国への譲歩と受け取られる言動をとることは難しい。だが、希望を捨ててはならない。両国が大局的な立場から歴史問題を乗り越えようとした実例としては1965年の日韓国交正常化、2015年の慰安婦に関する外相合意などがある。

・米国は、北東アジアにおける中国や北朝鮮の脅威を日韓両国に改めて強調し、米日韓3国協力態勢の強化に向けて日韓が協力する必要性を説得すべきだ。サイバー安全保障、デジタル技術の知的所有権保護、サプライチェーンの共同構築といった分野でその種の2国間協力を進めるのはさほど困難ではない。米国がその協力を推進すべきだ。その結果、日韓両国の歴史問題での対立を緩和する効果も生まれてくるだろう。

 スナイダー氏の、米国が歴史問題以外で日韓協力を奨励していけば日韓関係全体が改善されるだろうという主張は、それなりの重みがあるといえる。しかしその期待はやや楽観的にも響く。全体としては、朴教授の「米国は日韓和解を実現はできない」という趣旨の主張により強い説得力が感じられるのだが、果たしてどうだろうか。

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