俳優の小出恵介がABEMAオリジナルドラマ『酒癖50』の主演に抜てきされ、4年ぶりのドラマ復帰を果たす。久々の撮影現場ではこれまでに経験したことのない不安と緊張を覚えたというが、同時に「ずっと欠けていたピースが埋まったよう。自分の半身が戻ってきたような感覚があった」と役者業に対する喜びが満ちあふれたと語る。芸能活動休止前とその後では「自分自身、ものすごく変わった」と告白する小出が、ドラマ復帰までの葛藤や、「ゼロからのスタート」という今後への覚悟を明かした。

【写真】俳優活動再開に葛藤と喜びを感じたという小出恵介

■オファーに悩みつつも、やるからには「NGナシ」と腹をくくった

 お酒によってあぶり出される、人間の本当の弱さや愚かさを描く本作。毎話登場する酒癖の悪い人物に対し、小出演じる主人公・酒野が、“Hate Alcoholプログラム”という研修を開講し、彼らの問題を解決へと導こうとする姿を描く。脚本を鈴木おさむ、監督を小林勇貴が務めた。

 小出がニューヨークで2年半にわたって演技レッスンを積み重ねていたところ、今回のオファーが舞い込んだ。小出は「自分が参加してよいものなのか、迷いました。僕が主演をやらせていただくことで、ドラマに余計な色がついてしまったり、違った見方をされてしまう可能性も出てくると思いました」と率直な思いを語る。

 小出の背中を押したのは、制作陣の熱意。とりわけ鈴木おさむの言葉には「勇気をもらった」と振り返る。「打ち合わせをさせていただいて、“攻めの気持ちで、味の濃いエンターテインメントを作るんだ”という、おさむさんの強い決意を感じました。おさむさんとは以前、映画のお仕事をご一緒させていただいて(『ボクたちの交換日記』)、“絶対に面白い作品をつくってくれる”という信頼感もある。作り手の熱意を感じて、僕も“腹をくくろう”と思いました」。

 鈴木の書いた脚本は、ときにホラーのように、ときにはアクションのように、エンタメ感満載にお酒の恐ろしさを伝える内容。小出は「お酒をきっかけに追い込まれていく人々の姿を、徹底的に描いている。やっぱり攻めていますよね」とにっこり。「後半、酒野の過去が明らかとなる場面では、なかなかエグい描写も出てきます。でも僕もやるからには、中途半端にしたくないと思った。臨むと決めたからには、NGナシで“どんなことでもやってやるぞ”と覚悟しました」と並々ならぬ意欲、そして「自分にとっても、なにか大事なものが見つかるのではないかと思った」という予感とともに飛び込んだという。

■現場で握りしめた、役者業への思い「欠けていたピースが埋まった」

 小出にとっては、4年ぶりのドラマ復帰。クランクイン初日は「興奮しすぎちゃって。現場であんなに緊張したのは、デビューのとき以来」と苦笑い。「自分がセリフをちゃんと言えるのか、どこを見て芝居をしたらいいのかなど、今までは考えもしなかったような不安を覚えたりもしました」と話す。

 しかし同時に湧き上がってきたのは、「欠けていたピースがバチっと埋まったよう」という充実感だ。

 「それは、役者業をすることでしか埋められなかったもの。現場に立ってお芝居をしてみて、“これが自分には必要だったんだ”と実感しました。自分の半身が戻ってきたような感覚で、心がものすごく楽になった。スーッと息が吸える感覚」を味わったそう。「各部署の人たちが集中していく瞬間や、現場の一体感も大好き。演技をしたときの感覚も好きです。ものづくりに参加するって、本当にいいものだなと思いました。改めて、役者業というものに魅了された」と愛情をあふれさせ、「芝居や撮影をできる喜び、終わったあとの感慨も含め、すべてがこれまで以上に色濃く感じられました。作品に参加させていただけることへの感謝を、ものすごく感じた」と力を込める。

■復帰までの葛藤「それまでの自分が、どれだけ守られていたのか分かった」

 本作の現場で「この道を歩んでいきたい」と確信したという小出だが、ここにたどり着くまでには「何度か、俳優を辞めようかと思ったこともあります」と語る。「でもどうしても、俳優への思いを捨てきれなかった。“辞める”というスイッチを押していたら、そこで終わっていたと思います」。

 2017年に芸能活動を休止したのち、2018年に渡米。「“もう一度がんばろう”と決めて、ニューヨークで勉強を始めた」ものの、「前向きな行動に移ったはずなんですが、具体的なプロジェクトが決まるまでは、とても不安でした。やっぱり人って、出口が見えているからこそ、がんばれるもの。英語を学んだり、演技の学校に通っていても、明確な出口がないですから。ふと、“これはなんのためにやっているんだろう”という思いがよぎる。それは今までに経験したことのない、戦いでした。かなりしんどかったですね」と葛藤する日々。出演する予定だったブロードウェイでのミュージカルえんとつ町のプペル』もコロナ禍で中止となり、「目の前に作品が見えてきたと思うと、消えてしまったり。そのたびに、心も折れそうになりました」と打ち明ける。

 小出は「ギリギリで耐えて、気持ちをつなぎ止めてきた。“ここでやめたらもったいない”という意地もあったかもしれません」と吐露。ようやくドラマ復帰を果たしたが、芸能活動休止前とその後では、「自分自身、すごく変わったと思います」とも。一体、どのような変化があったのだろうか。

 すると「以前はなぜだか、生き急いでいたと思うんです。余裕がなくて、自己中心的になっていった部分もあったと思います。芸能界という世界しか知らず、その世界や、そこにいる自分も客観的に見ることができなかった気がしています」と本音を口にした小出。

 ニューヨークに行ったことで、大きな刺激を受けたと続ける。「ニューヨークは多様性の街でもありますし、“人間って、こんなにもいろいろな人がいるんだ”ということを、まざまざと見せつけられた。またそこではもちろん、誰も自分のことを知りません。それまでの自分が、どれほど周囲の人々に守られていたのか、どれほど助けられていたのかが分かった」と感謝の気持ちが込み上げたそうで、「すると、自分のことも客観的に見られるようになって。作品ができるまでのプロセスにも目を向けられるようになって、あらゆることに臨む姿勢や意識も変わってきた。ちょっと荒療治でしたが、ものすごくいい経験ができました」と目を細める。
 
 本作では、仕事のストレスから酒に逃げてしまう人々の姿も描かれる。小出自身、「芸能界で生きていくことは、しんどいことでもある」と感じてもいるが、「喜びよりもストレスが強いと、つぶれてしまったり、トラブルを招いてしまう可能性もある。でもストレスよりも、“この仕事が好きなんだ”という喜びや、周囲への感謝がまさっていけば、続けていけるはず。僕は、迷惑をかけてしまった人もたくさんいるし、きちんと恩返しをしなければいけない。喜びや感謝を大切にしながら、歩んでいきたい」としみじみ。「ここでゼロからスタートして、役者業に身を捧げていきたい。今回の現場で、心の底からそう思いました」と真っすぐな瞳で、熱く決意表明していた。(取材・文:成田おり枝 写真:高野広美)
 
 ABEMAオリジナルドラマ『酒癖50』は、ABEMA SPECIALにて毎週木曜22時より無料放送(全6話)。

小出恵介  クランクイン! 写真:高野広美