2021年8月4日(水)~8日(日)座・高円寺1にて、観世流演能団体銕仙会(てっせんかい)が新作能2作品『長崎の聖母』『ヤコブの井戸』を上演する。演出・シテは、銕仙会所属能楽師の清水寛二。

『長崎の聖母』は浦上天主堂を舞台に原爆投下の夜を描き、近代科学技術が産み落とした核兵器の悲惨を訴える作品で、故・多田富雄作、2005年長崎にて初演された。『ヤコブの井戸』は、異なる民族同士が砂漠で水を分け合うという新約聖書の一説を元にレオポルドと清水が数年にわたり対話を重ねて創作した作品で、今なお世界中で続く民族・宗教間の諍いの和解への可能性を描き、真の多様性とはなんなのかをグローバル時代を生きる私たちに問いかける。ディートハルト・レオポルド作、2019年欧州にて世界初演。今回が日本初演となる。

能はいま、多くの人に観られているとは言い難い状態であり、「古典作品を繰り返し上演するだけでは、現代の観客は自分との関わりを見出せないのではないか」という思いから、今回の企画、”現代顧客のための”新作能2作品の上演に至ったという。

表現方法の面でも現代の多様な観客に訴えるため、あえて現代舞台芸術の劇場である座・高円寺で上演、現代演劇で長く活躍する劇作家・演出家の佐藤信(演出協力)、東京芸術大学院に籍を置く新進気鋭の現代美術家・岡本羽衣(舞台美術)、ダンス作品を中心に活躍する映像デザインの飯名尚人らを集めてチームづくりを行ったという。また、『長崎の聖母』ではメゾソプラノ歌手の波多野睦美が聖歌を歌い、『ヤコブの井戸』では女優のみょんふぁがアイを演じる。また、同様にアクセシビリティの向上に努めているといい、全公演で英語字幕を導入して日本語話者以外の層へのリーチアウトを目指すとともに、忙しい現代人の生活スタイルに合わせ、通常1ステージしか上演しない能の慣例を破り5日間で2作品を3回ずつ日替わり上演。観客が観劇日を選べるようにしているという。8月7日(土)には、ライブ配信も行われる。

『長崎の聖母』作:多田富雄

巡礼者が長崎浦上天主堂を訪れ、修道僧に出会う。修道僧は原爆投下の日、浦上の町は火の海となり、まるでこの世の終わりのようであったことや、マリア像や聖堂も焼け落ち、多くの人々が犠牲となったことを告げる。犠牲者のために祈っていると、聖歌が響く中、女が現れる。その姿は被爆者の霊か聖母か。女は聖母マリアの慈悲を伝えるために現れたと言い、原爆の夜の様子を物語る。
原爆による長崎の悲劇、そして世界平和と魂の救済を描いた能。長崎市民の求めに応じて2005年に創作された。科学と世界の諸問題に関するパグウォッシュ会議開催中の長崎や、核拡散防止条約再検討会議開催中のニューヨーク、そして欧州で上演。公演に際しては、現地の聖歌隊が聖歌を歌っており、今回はクラシック現代音楽の両分野で活躍するメゾソプラノ歌手の波多野睦美が担う。

『ヤコブの井戸』作:ディートハルト・レオポルド

二人のユダヤ人がヤコブの井戸でパレスチナ人の女に出会う。女は、はるか昔、ユダヤ人はサマリア人との接触を避けていたにもかかわらず、サマリア人の女性にこの井戸で水を分け与えたユダヤ人男性の話をする。
対立する二つの民族が砂漠で一つの井戸の水を分け合うという新約聖書ヨハネの福音書の物語を題材にした能。今なお世界で絶えぬ民族間、宗教間の諍いに疑問を呈し、象徴としての水を分け合うことの意味を問う。ウィーン心理学博士でアート・キュレーターのディートハルト・レオポルドと清水寛二が、数年にわたり対話を重ねて創作した作品。2019年にウィーン(主催:墺日協会、会場:オデオン座)、パリ(主催・会場:パリ日本文化会館)、ワルシャワ(主催:ワジェンキ美術館、会場:ロイヤルシアター)で世界初演、今回が日本初演となる。2019年の初演では現地の俳優が参加し、多国籍プロダクションで上演された。
今回は、アイ狂言を女優のみょんふぁが担う。(当初出演を予定していた欧州キャストは日本国内における新型コロナ感染症拡大の影響により、招聘を中止。)

座・高円寺夏の劇場08  銕仙会!!新作能「長崎の聖母」「ヤコブの井戸」