GARNiDELiAのコンポーザーとして知られるtokuが、初のソロアルバム『bouquet』を完成。「花束」を意味するそのタイトル通り、atsuko (angela)、井口裕香石原夏織神田沙也加鈴木このみ竹達彩奈 、中島 愛、一青 窈、三森すずこやなぎなぎという10名の女性アーティストをゲストボーカリストに迎え、様々な色の花と物語が咲き誇る豪華な作品となった。tokuのクリエイターとしてのこだわりが詰まった本作について、話を聞いた。

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10名の女性ボーカリストを花束として束ねた作品『bouquet
――tokuさんは音楽家/クリエイターとして長く活動されていますが、個人名義でアルバムをリリースするのは今回が初になりますね。

toku 自分はGARNiDELiAで活動しているので、ソロ名義で作品を出すのであれば改めてきっかけが必要かなと思っていたのですが、今回メイリアとお互いソロアルバムを出させていただけることになって。クリエイターとして自分名義のアルバムを出すことは目標の1つでもあったんですけど、逆に「こんなに早くやってもいいのかな?」とも思いました(笑)。

――いやいや、むしろ待望だと思います。ソロアルバムを作るにあたり、ご自身としてはどんな構想がありましたか?

toku インストや劇伴など音楽の形態には色々なものがあるなかで、僕は歌ものをやりたくてずっと活動してきたので、今回のアルバムも各楽曲にゲストボーカルを迎える形で、僕の作ったメロディを色んな方に歌ってもらう作品を作りたいという想いがありました。

――アルバムタイトルの『bouquet』は“花束”という意味ですが、これは?

toku ちょっと前に引っ越したんですけど、近所に花屋が多い場所で、散歩のついでにお店に入ったりすると、店員さんがお客さんの注文に合わせてブーケを作っている姿がすごくかっこいいんですよ。今回のアルバムはそこにインスパイアされたところがあって。用途に応じて多種多様な花を花束にアレンジするみたいに、ユーザーが面白いと思う組み合わせの楽曲をアルバムにまとめるっていう。なので参加してもらった女性ボーカリスト10名を花束として束ねるイメージで『bouquet』というタイトルにしました。

――ゲストボーカルの人選はどのように決めたのですか?

toku 基本はガルニデの活動を通してお会いして仲良くなった方が起点になっていて、去年に自分が主催した“TTMC(Tasty Time at Music Crossing)”というイベントに参加してもらった、鈴木このみさん、やなぎなぎさん、atsukoさん、井口裕香さんには、そのときにお声がけさせていただいていました。あとは僕が個人的に一緒にやりたい方を挙げて、スタッフの方々に尽力していただいた形ですね。

――全員女性ボーカリストなのは、意図してのことだったのでしょうか?

toku 僕が個人的に女性のボーカリストが好きというのもあると思いますが、元々楽曲提供のお仕事も女性の方からお話をいただくことが多いんですよ。僕が作るメロディは女性向けのメロだなというのは自分でも感じるところで。女性に対してボーカルディレクションする機会も多くて、昔であればアンジェラ・アキさんの楽曲をアレンジさせていただいたり、植村花菜さんや遊佐未森さん、新垣結衣さんの作品にも参加させていただいて。今回、自分から挙げさせてもらった歌い手さんもすべて女性でした。



神田沙也加サクラ石原夏織ヒマワリ、盟友・渡辺 翔の参加
――ここからはアルバム収録の全10曲について、収録順にお話を聞いていきます。1曲目は、神田沙也加さんが作詞・歌唱で参加した「ずるいよ、桜」。ピアノとアコギを基調としたバラード曲です。

toku 今回は各アーティストさんにまず2~3曲の候補をお渡しして選んでいただくスタイルを取ったのですが、神田さんは2曲お渡ししたどちらにも歌詞をつけて戻してくれたんですよ。この「ずるいよ、桜」はコード進行がシンプルなので、神田さんの歌唱力や感情の表現が見えやすいと思ったのと、曲名がすごくキャッチーだったので、いただいた瞬間に「こちらでお願いします!」って返事しました(笑)。

――そもそも神田さんとはどんなご縁があったのですか?

toku 神田さんがTRUSTRICKで活動されていたときにイベントでご一緒したり、彼らのラジオ番組にゲスト出演させていただいたことがありまして。そのときからいつか一緒に何かできればと話をしていたので、今回お声がけしました。神田さんは楽曲をお渡しして中1日ぐらいで2曲の歌詞を返してくださったり、レコーディングでも色んなパターンの歌い方を提案してくださって。クリエイター同士の緊迫感みたいなものを感じながら、お互いが感動を垣間見れた楽曲になったと思います。だからこそ1曲目にしました。

――楽曲自体はシンプルな構成ですが、それをあまり意識させない神田さんの表現力の豊かさと、ドラマチックなアレンジが、メロディの美しさをより引き立てているように感じました。

toku 今まで作ってきた楽曲は、コードの中にメロディがたくさん乗っている楽曲が多かったんですけど、この曲は例えばサビでコードが3つ動く部分ではメロディも3つしかない。要はメロディに固まり感みたいなものがあるので、強い歌詞が欲しかったんです。そこに神田さんは“ずるいよ、桜”という言葉を当てはめてくれたので、「これはドンピシャじゃん!」と思って。神田さんもそこは意識してくれたみたいです。

――歌詞には春が去っていくような切ない雰囲気がありつつ、色んな意味に解釈できる奥ゆかしさがありますね。

toku そうなんですよ。キュンキュンな部分を言わずとも感じとれるし、「匂わせ」というか裏テーマがありそうな雰囲気もあって。現代の人は多分そういうのが好きだと思うし、今回の『bouquet』にはそういったテイストを割と散りばめているので、そのテーマにすごくマッチした歌詞を書いてくれた神田さんには感謝しています。



――2曲目の「或るヒマワリ」は石原夏織さんが歌う、明るく爽快なイメージのダンスポップ。

toku 石原さんは以前からライブを観させていただいていたのですが、声優としてはかわいい声のキャラクターを演じる印象がありますし、キャラとしての声と歌う声がそんなに遠くない方だなと思っていて。だからこそ、夏の情景を描いた恋愛ソングが合いそうだなと思い渡辺 翔くんに相談して、夏生まれの石原さんに合わせてヒマワリをテーマにしつつ、直接表現を使わずに恋愛感や夏っぽさが感じられる歌詞をお願いしました。楽曲のテイストとしても、夏の元気な女の子のイメージで、シンセキラキラした感じを全面に出して、リズムドラムンベースっぽくしてみました。

――石原さんの甘酸っぱい歌声とドラムンベースの組み合わせが、今までありそうでなかったラインで素晴らしいですね。

toku 今まで絵になっていないものをやってみたいなと思って。ただガチのドラムンベースをやってしまうとなかなか受け入れられない部分もあると思うので、例えばアニソンのクラブイベントとかでも流せるようなテイストにしています。

――夏感や快活さがありつつ、これはtokuさんの作家性なのかもしれませんが、やっぱりどこかに女性らしさ・切なさみたいなものがメロディから滲み出ているように感じました。

toku どちらかと言うとずっと同じコード進行でいく楽曲を作るのが好きなんですけど、やっぱり楽曲の中で1つストーリーを作らなくてはいけないと思うので。元気な女の子でも悩むことはあると思うし、今作では参加してくれているアーティストさんがストーリーテラーとして物語を展開していくところを見せたかったので、この曲は特に起承転結のある曲になったと思います。

――個人的には、LiSAさんの「oath sign」や「crossing field」で知られる、渡辺 翔さんとtokuさんのタッグが再び実現したことも熱くて。

toku ありがとうございます。その2曲は彼が詞曲を書いてますけど(tokuは編曲を担当)、彼の歌詞のはめ方はほかの作詞家さんにはない独特の部分があると思っていて。かつ、表現も結構もやもやさせられる部分があって、乙女チックな気持ちにさせられるんですよね(笑)。なので、彼なら僕が今回のアルバムでやりたいことを書けるだろうなと思って、LINEで気軽に「歌詞書いてくれない?」って聞いてみたら、「全然いいですよ」ってOKしてくれました。

中島愛とアカシア、鈴木このみと青いバラ、atsukoとヒガンバナ
――続いての「Acacia」は中島愛さんをフィーチャー。中島さんとは2018年の“Animelo Summer Live”でGARNiDELiAとしてコラボレーションしていました。

toku 中島さんは、僕がアニメ音楽を仕事にしたいと思ったきっかけの人なんです。それまではポピュラーミュージックのアレンジをやっていたんですけど、当時『マクロスF』を観て、そこで菅野よう子さんの楽曲や中島さんの歌に触れて「アニメの仕事をやりたい!」と思ったんです。中島さんは、かっこいい曲にかわいい声が乗っているアーティストの代名詞だと思うので、今回はかわいい声だけど戦っているような、SF感のある曲を歌ってもらいました。

――なるほど。それで歌詞の世界観がSFっぽいんですね。英詞の部分には“dream of electric sheep”といったフレーズもありますし。

toku そうなんです。(作詞を担当した)LINDENさんには極力英語を使ってもらうようにお願いして、どの花をモチーフにするかはお任せしたんですけど、そのフレーズはキーワードとして僕からお伝えしました。SF的な物語が展開されるアニメのオープニングを仮想で作る、というのがこの曲のテーマだったんですよ。自分のソロ作品だからこそ、そこまで自由にテーマを決めることが出来たのですが、普段アニメのタイアップ曲を作る場合は資料やシナリオからキーワードをピックアップすることができるけど、今回はそのキーワードさえ自分で考えなくてはいけなかったのでさすがに大変でしたね(笑)。誰かこの曲を題材にアニメを作ってくれないかなと思うくらい、思い入れのある楽曲になりました。

――曲調もtokuさんらしい宇宙や未来感を感じさせるサウンドに仕上がっていて、すごくかっこいいです。

toku 中島さんの発する声のスピード感には、早いビート感と鋭いリズムがマッチすると思ったので、この曲もドラムンベースにして。ご本人にも「『マクロスF』から十数年後のランカ・リーが歌っているイメージ」とお伝えして、英詞の部分も海外の方が聴いても伝わるように色々こだわって歌っていただきました。

――その次の曲が、鈴木このみさんをボーカリストに迎えた「青い薔薇」。鈴木さんには以前に「My Days」を提供していますが、今回はどんな楽曲を歌ってもらおうと思ったのですか?

toku 彼女の楽曲はテンポの速いものが多いので、最初はバラードっぽいミディアムがいいかなと思って書いたんですけど、やっぱり彼女の声にはスピード感のあるリズムが似合うので、途中で倍テンのリズムが入る楽曲にしました。あと、彼女は年々歌が上手くなっているので、少し意地悪したくて「歌えそうにないメロディだけど、でもかっこいい」という裏テーマがありました(笑)。

――青い薔薇の花言葉は「不可能を可能にする」ですが、まさにそれを実現した楽曲というわけですね。

toku 彼女には表裏一体みたいなことや、自然ではなく人為的に何かをお互いに出し合うことによって生まれるもの、というテーマで歌ってもらいたくて。そこからLINDENさんが「青い薔薇」というタイトルを提案してくれました。このみさんには事前に「だいぶハードな要求になりますけど大丈夫ですか?」と聞いたんですけど、「全然大丈夫です!」っていう感じで(笑)。案の定レコーディングではサラッと歌っていただいて、本当に何テイクかで終わりました。

――さすがですね(笑)。この曲はMVも発表されていますが撮影はいかがでしたか?

toku この曲は最終的にピアノが結構入っていますけど、元々は全然ピアノが入ってなかったんですよ。でも、MV撮影のときに、二人で向き合うシーンで僕がピアノを大真面目に弾いていたら、「めっちゃいいですね!」と言ってくれたので、じゃあピアノをがっつり入れようかなと思って、MVを撮ったあとにピアノを再レコーディングしたんです。これこそソロアルバムだからこそできたことだと思います(笑)。



――そして5曲目の「Radiata」は、angelaatsukoさんが歌と作詞を担当。歌唱力には定評のある方が続きますね。

toku モンスターの登場ですね(笑)。僕は変拍子が好きなので、ロックテイストでプログレ感のある曲をやりたいというお話をしたら、二つ返事でOKしてくださいました。仮歌はボイスメモで送ってくれたんですけど、その時点でビブラートの効きまくった「ザ・atsuko」みたいなものががっつり入っていたので、「自分がやりたいことが全部詰まっている!」と思って。ただ、歌詞はエンターテイメント感があって「ウケる~!」みたいな感じだったので、「もう少し真面目にしたいんですけど……」って融通を聞いていただきました(笑)。

――atsukoさんらしいエピソードですね(笑)。

toku 曲名の「Radiata」は日本名で言うとヒガンバナなんですけど、atsukoさんからは「ヒガンバナは花束にしないけどいい?」と聞かれて。でも、atsukoさんだしまあいいかと思って(笑)。レコーディングも和気あいあいとした感じで、「大丈夫? もっと歌えるよ?」って言ってくださるんですけど、「いや、もう完璧に録れてるので早く帰ってください」っていう感じでした(笑)。以前にガルニデの二人とangelaの二人でご飯をご一緒させていただいた機会があったんですが、そこから“TTMC”に出演していただいてからの流れだったので、先輩に胸を借りて出来た楽曲ですね。最後までatukoさんの歌声の偉大さを感じながら作業ができましたし、今後もatsukoさんはもちろん、KATSUさんともいつかご一緒したいなと思います。

井口裕香とユリ、竹達彩奈アンテイア、やなぎなぎとハルシャギク
――そんなアクの強いナンバーから一転、ゆったりしたテンポのポップなEDMに仕上がっているのが、井口裕香さんを迎えた「Lilium」。井口さんには「変わらない強さ」を提供したご縁がありますね。

toku ラジオ番組やイベントでもご一緒していて。この曲を作詞してくれた渡辺 翔くんも井口さんに楽曲提供しているので、二人で「井口さんはどんな人だろう?」というのをテーマに書いた曲になります。井口さんは、キャラソンとかでは元気溌剌でかわいい曲を歌うことが多いし、ラジオ番組でもすごく元気な方という印象がありますけど、Instagramとかだと乙女な一面も出されていて。それで翔くんと「井口さんを花で表現するとしたらなんだろう?」という話をしたときに、「白いユリですかね」と言われて、僕も「わかる!」ってなって……僕らが井口さんの何を知ってるねん!っていう感じですけど(笑)。僕らがイメージする井口さんの女性像プラス恋愛感のある歌詞、音楽的には井口さんがEDM好きで、InstagramのストーリーにもよくEDMの楽曲を上げているので、そこまで派手なパリピ感はない、ミディアムテンポのEDMバラード的な曲にしました。

――どちらかというと素の井口さんをイメージして作られたわけですね。

toku お仕事で活動されている部分に加えて、アーティストとしての側面も表現したくて。井口さんの楽曲にも内面性を歌うものが多いので、かわいすぎない方向性の曲のほうが合うかなと思ったんです。ご本人にも「井口さんはこういう感じの方なんじゃないかと思って作りました」とお伝えしたら、「え~、そうなんですか?」「そうですね~」みたいな感じではぐらかされましたけど(笑)、喜んで歌っていただけました。

――7曲目の「Antheia」は、竹達彩奈さんをフィーチャーしたどこか幻想的なエレポップチューン。竹達さんとは初めましてですよね?

toku 今までご縁はなかったですね。僕的にはキャラクターボイスのイメージが強いので、逆にその声に対して歌を付けてみたいと思って書いた曲です。「Antheia」は“庭園の女神”のことで、これは(作詞をした)LINDENさんからご提案いただいたんですけど、竹達さんは妖精みたいなイメージがあるので、花がたくさん咲いている庭園の妖精さんが歌う楽曲というイメージから、このタイトルになりました。

――竹達さんの甘い声質やコーラスの広がり方も含めて、心地良い浮遊感のある楽曲ですね。

toku 彼女の声はすごく特徴的なので、例えばもっとかわいらしい「ザ・アニソン」みたいな方向性にもできるんですけど、僕の音楽との調和を考えたときに、ポップな落としどころとして出来たのがこの曲ですね。サビの頭に英語のコーラスパートがついてるところは、最近のアニソンにはあまりない作りだと思うので、その意味では80~90年代のポップスみたいなテイストとの融合が出来たかなと思っています。

――この曲は、ループ感のあるアコギの音色や、エフェクトのかかったエレキギターのサウンドも特徴的に感じました。

toku 今回参加してくれたミュージシャンはリモートレコーディングでやらせていただいたんですけど、ギターは佐橋(佳幸)さんが弾いてくださっていて。一度自分たちのイベントに足を運んでいただいた際にご挨拶させていただいたのですが、今回初めて参加してもらいました。僕から譜面と長い文面のメールをお送りしたら、データだけで戻してくださるんですけど、聴いたら「ばっちりです!」っていう(笑)。

――さすがベテランですね(笑)。続く「Coreopsis」はやなぎなぎさんが作詞と歌唱を担当した、どこか耽美な雰囲気も感じさせるエレクトロニカ調のナンバー。

toku なぎさんはエレクトロニカが大好きで、ご自身で作られる作品もかっこいいものが多いので、そんな彼女に対してエレクトロニカの楽曲を提供するのはハードルが高いなと思いつつ(笑)、以前から温めていた楽曲があったので、それを聴いてもらいました。その曲を含めて全部で3曲お送りしたんですけど、「でもこの曲が好きだと思います」と書き添えておいたら、なぎさんも「この曲いいですね」ということですぐに歌詞を返してくださって。コーラスのデータもたくさん送ってくれたので、そこから選んで作業を進めたうえでレコーディングを行いました。

――特に冒頭部分は音数が少なめで、独特の世界観のある楽曲ですね。

toku かつコード進行が1パターンしかないので、そのなかでストーリーを演じてくれるボーカルが重要で。なぎさんは感情や情景が見える歌を歌ってくれたので、やってよかったという気持ちがすごく湧きましたし、当初思い描いていたものに合致したので、僕の中では推し曲ですね(笑)。

――A・Bメロはブレスが多めのささやくような歌唱で、そこからサビで一気に色づく感じがすごくいいですよね。

toku 歌というのは、基本的にミックスの段階でボリュームを調整したりするんですけど、なぎさんの場合はその必要がほとんどなくて、ほぼ録ったままのデータを使っているんです。そういった面でも、打ち込みの曲なんだけどレコーディングセッションができた感覚がありましたね。歌詞の言葉選びやブレスを含めた間合いの取り方も素晴らしいし、本当に尊敬できるアーティストです。

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三森すずこスズランスガシカオ×一青 窈が紡ぐ未来への「萌芽」
――9曲目の「君影草」は、和風のメロディが印象深いオリエンタルな雰囲気のナンバー。歌っているのは三森すずこさんです。

toku 三森さんとも以前からご縁があってライブを観させていただいたりしていたんです。元気な楽曲が多くてポップでいいなと思っていたんですけど、その三森さんに和メロを歌ってもらったら面白いかなと思って。和メロは昔からずっと好きなので、アルバムに1曲は入れたいなと思っていたんですね。曲名の「君影草」はすずらんの別名なんですけど、LINDENさんに作詞をお願いしたら、三森さんのお名前が「すずこ」なのでお花は「すずらん」がいいかなということで決まりました。

――三森さんと和メロ曲というのは、今まであまり耳馴染みがありませんでしたが、実際に聴いてみるとすごく合いますね。

toku 三森さんのマネージャーの方も「こういったテイストの楽曲は初めてなんです」とおっしゃっていましたし、三森さんも気に入ってくださって。この曲ではちょっと泣かせたいなと思ったんですよね。メロディ的にも、三森さんにはそういうフレーズがハマるだろうなと前々から思っていたので。

――三森さんの凛とした雰囲気とそこはかとない儚さがピッタリだと思いました。この曲はギターソロの哀愁もすごいですね。

toku このギターも佐橋さんですね。これは佐橋さんにお任せしたのですが、「たくさん弾くから選んで」と大量のデータが送られてきたので、1個ずつ聴きながら選びました。

――そしてアルバムのラストを飾るのが「萌芽」。歌唱は一青 窈さん、作詞はスガシカオさんという、意外性という意味では一番の組み合わせの楽曲です。

toku 最初のきっかけとしては、以前にクラムボンのミトさんが主催するご飯会に参加したら、そこにスガさんもいらっしゃったんです。そこから音楽談義をするようになって、仲良くしていただいているのですが、「今度ソロアルバムを作るので作詞をお願いできますか?」と聞いてみたら「いいよ」と言ってくださって。ただ、スガさんは今まで曲先でしか作詞をしたことがないという話だったんですけど、僕の制作が手一杯で曲がまだ出来ていなくて……なので「甘えていいですか?」とお願いしたら、「え~、じゃあ頑張るよ」ということで書いてくれたのが、この「萌芽」だったんです。

――すごいですね。

toku その歌詞が素晴らしかったので、すぐにいいメロディが浮かんで、翌日の朝には出来上がったのがこの曲でした。スガさんも「EDMだね、いいんじゃない?」とOKをいただき、そこから誰に歌ってもらうかという話になったんですけど、メロディが日本民謡っぽくもあるし、ジャパニーズエスニックな感じもあるので、僕から「一青 窈さんがいいと思うんです」という話をしたら「面白いかもね」という話になりました。スガさんと一青さんは以前に同じ事務所に所属していたこともあって、一青さんにオファーさせていただいたところ快諾をいただいてこの曲が実現しました。僕にとっては奇跡の組み合わせだし、楽曲も降りてきたし、奇跡が詰まった楽曲ですね。

――本当に素晴らしい歌詞ですが、受け取ったときの印象はいかがでしたか?

toku 生命力を感じました。今のコロナ禍の状況も相まって、ミュージシャンが今後どう生きていくか、どう根を伸ばして、芽を出していくか、ということを書いているんじゃないかと。すごくパワーを感じる歌詞だったからこそ、メロディもすぐに書けたんだと思います。例えばユニット内で作った楽曲の場合、一度温めることもあるんですけど、これは温める必要のない熱い素材が揃ったと感じて。それこそフローリストが今ある花をどう組み合わせるかを考えたり、料理人がどの素材を使うかを瞬間的に判断するような、セッションみたいな感覚がこの曲にはありました。痺れる感じがありましたね。

――この生命力に溢れた歌詞を一青 窈さんが歌う意味も大きいなと思って。一青さんの歌声も、生命力の塊みたいな感じじゃないですか。

toku 本当にそうですよね。レコーディングは3テイクぐらいで終わったんですけど、一青さんは「私、EDM歌ったことないんだよね」とおっしゃっていて、僕は「いや大丈夫です、これは絶対にかっこいいです」っていう。僕が歌詞を受け取って感じた生命力が形になるコラボができたことが嬉しかったですね。もちろんどの曲も頑張って書いていますけど、この曲は一瞬一瞬の奇跡みたいなもので紡がれた楽曲だと感じていて。記念の曲になりました。

――冒頭のメロディも不思議と引き込まれるもので、根源的な魅力を感じました。

toku そこは聴いた人が「えっ?何拍子?」ってなるような感じにしたかったんです。元々三連符のメロディを書きたいと思っていたんですけど、ド頭から三連のリズムにしてしまうと面白くないので、そこは削ぎ落しました。多分、初めて聴いた人は「これはなんだろう?」って思うだろうし、でも曲が進んで後半になったら「ああ、こういう感じか」ってなると思うんです。それを狙って書いた曲なので、伝わればいいなと思いますね。

――そこがtokuさんの作家性、あるいはアーティスト性の表れでもあるんでしょうね。

toku atsukoさんに歌ってもらった変拍子の楽曲もそうですけど、多分「自分がやりたいこと」というコンセプトでしか作れない楽曲があると思うんですよ。作曲家であれば誰でも書きたい楽曲がたくさんあるだろうし、でもブランディング上それを発表できなかったりして。もちろんGARNiDELiAでこの曲をやりたいとは思わなかっただろうし、その意味でも、今回はソロ名義だからこそできる10曲が集められましたね。

――初ソロアルバムが完成した今の手応えはいかがですか?

toku 自分の中に温めていた思いが結構あったので、それを出すことができて良かったし、こういう機会がなければ世の中に出ないで終わった楽曲もあっただろうなと思っていて。だからこそ自分自身で企画し続けることで、自分の音楽を発表する場所を作ることが作曲家やクリエイターには必要なんだと改めて思いました。GARNiDELiAMARiAとのコラボがメインなので、自分の楽曲の幅を見せたり、色んな一面を発揮するのはソロ名義がいいと思うし、今回は歌のレコーディング以外はほぼ自宅で作業して作ったので、「家でもこれだけのことはできますよ」っていうプレゼンにもなったと思います(笑)。

――制作環境の違いも作品性に影響を及ぼしていると。

toku 今はコロナの影響でライブもなかなかできなかったりするじゃないですか。だから今回はライブありきで考える楽曲でもないし、その意味では、良いベッドルームポップスでありたい作品集という感じですかね。

――たしかに。「萌芽」もチルな雰囲気が強いですし、家で聴くのに向いてる作品かもしれませんね。

toku 自分自身も、最近はそこまでアゲアゲな音楽は聴かなくなった部分があって。歌詞がしっかり入ってくるけど、お洒落でかっこいいものとかが自分のプレイリストに入ってくるので、そういうジャンルに挑戦してみたい思いも1つあったのかなと思いますね。

INTERVIEW & TEXT BY 北野 創(リスアニ!

●リリース情報
tokubouquet
6月16日(水)発売

音楽配信&サブスクリプションサービスはこちら

初回限定盤(CD+Blu-ray)】

品番:PCCA-06042
価格:¥4,400(税込)

【通常盤(CD Only)】

品番:PCCA-06043
価格:¥3,300(税込)

<収録曲>※曲順未定
「ずるいよ、桜」feat. 神田沙也加
作詞神田沙也加/作曲・編曲:toku

「或るヒマワリ」feat. 石原夏織
作詞渡辺翔/作曲・編曲:toku

「Acacia」feat. 中島愛
作詞:LINDEN/作曲・編曲:toku

「青い薔薇」feat. 鈴木このみ
作詞:LINDEN/作曲・編曲:toku

「Radiata」feat. atsuko from angela
作詞atsuko/作曲・編曲:toku

Lilium」feat. 井口裕香
作詞渡辺翔/作曲・編曲:toku

「Antheia」feat. 竹達彩奈
作詞:LINDEN/作曲・編曲:toku

「Coreopsis」feat. やなぎなぎ
作詞やなぎなぎ/作曲・編曲:toku

「君影草」feat. 三森すずこ
作詞:LINDEN/作曲・編曲:toku

「萌芽」feat. 一青窈
作詞スガシカオ/作曲・編曲:toku


関連リンク
toku 特設サイト
https://www.garnidelia.com/special/toku/

toku 公式Twitter
https://twitter.com/toku_grnd

GARNiDELiAオフィシャルサイト
https://www.garnidelia.com/
リスアニ!

掲載:M-ON! Press