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 日本の首都圏は猛威を振るう新型コロナウイスの影響で緊急事態宣言が出されているが、私の故郷である軍艦島にも緊急事態宣言が必要になりつつある。

 長崎市軍艦島こと端島炭坑など「明治日本の産業革命遺産」が世界遺産に登録された後の日本政府の措置に関して、世界遺産の登録を決める国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産委員会が朝鮮人半島労働者に関する表示が不十分だとして改善を求める決議案を出したのだ。

 韓国の意向に沿う決議案に対し、日本は反論する予定だ。

 7月12日ユネスコ世界遺産委員会で、日本政府が開設した「産業遺産情報センター」の展示に関して、朝鮮半島出身労働者強制労働に関する説明が不十分だとして改善を求める決議案が出された。「展示が歴史的な事実を歪曲」していると反発する韓国の主張に対して、ユネスコ世界遺産センターと諮問機関であるICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)が共同調査を実施した結果である。

 韓国は産業遺産情報センターの展示で、朝鮮半島出身者に対する差別的待遇が反映されていないと主張してきた。展示は、産業遺産情報センターの加藤康子センター長らが、軍艦島の元島民約70人から話を聞くなどして集めた関連資料を元に作られている。韓国が主張する差別などを裏付ける証言や資料は確認されなかったと加藤センター長は言う。

 産業遺産情報センターは戦時中の真実を解明した努力の成果を展示に反映させるべきだ。仮に日本にとって不都合な史料が出てきたとしても、これを覆い隠すことは認められない。一方、根拠が乏しく、信憑性が疑わしい内容を展示することも当然、認められない。

 世界遺産委員会に対して、加藤センター長は当時端島に住んでいた元住民など当事者の証言を踏まえて、証拠・根拠が確認されたものを展示し、紹介しているという産業遺産情報センターの方針を伝えた。産業遺産情報センターは開設にあたり、戦時中の詳細な調査を実施したと聞いている。

関連情報や知識を持っていなかった調査員

 加藤センター長によると、世界遺産委員会に提出された決議文草案の作成に先立って、調査員のドイツ人女性が6月7日から9日まで産業遺産情報センターを訪れ、オーストラリア人とベルギー人の調査員がリモートで参加した。

 調査員らは、第39回世界遺産委員会(2015年6月28日7月8日)の際に、日本の佐藤地ジュネーブ国際機関代表部公使が示したステートメント通りに展示されているかどうか確認する目的で訪れたと告げた。

 調査員らは、センターを訪問する前に韓国側と2回協議し、日本のある市民団体から情報提供を受けたという。産業遺産情報センターは調査の1週間前に、展示に関する資料を送付したが、調査員が目を通したかどうかは不明だが、会話の中で調査員が関連情報や知識を持っていないことがわかったと加藤センター長は語る。

 関連する歴史の知識が著しく不足していたようで、加藤センター長は「あなた方がこういう状態では、ユネスコが判定を下す行事役を果たせないのではないか」とさえ言った。世界人権理事会などと同様に、ユネスコ世界遺産委員会も問題が噴出しているが、改革がきちんと行われていないのだろうか。決議文の草案を作成した人間の適格性が疑われる。

 報告書では、特に1940年代に韓国人などが本人の意思に反して強制労働させられたことを示す措置が不十分だと指摘している。韓国や一部の日本人、市民団体による工作が成功した格好だ。3人の調査員もそういった先入観があり、結論ありきで調査を実施したと解釈できる。ドイツオーストラリアベルギーの調査員が適格性を欠いていると言い換えることもできるだろう。

 なぜユネスコは韓国の立場を忖度するのか。日本政府は何をしてきたのか。日本は国際問題にしっかりと対応できているのだろうか。

世界遺産登録でも国同士の合意を保護にした韓国

 ユネスコの今回の決議案は、日本にとって緊急事態である。

 産業遺産情報センターは日本政府、つまりは日本国民の税金で設立、運営されている。ユネスコは、日本人の血税で虚構を展示せよと言っているに等しい。元島民は、軍艦島ナチス・ドイツの収容所と同列視する、事実に基づかない韓国側の主張に苦しんできた。ユネスコや韓国側のロビー活動に対応してこなかった日本政府を疑問視している。

 国際的な組織であるユネスコが、韓国の一方的な論理だけで決議を下すことなどあってはならない。国際機関は中立な立場で問題を解決するのが原則だ。もちろん、日本側に非があるなら勧告に従うべきだが、韓国の主張に客観的な根拠はない。

 この問題は2015年の世界遺産委員会から引きずっている。

明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」が世界遺産の候補として申請された時、韓国側から遺産の趣旨と異なる日中戦争第二次世界大戦中に関する追加的な主張と要求が出された。その主張と要求を踏まえた合意がなされた上で、世界遺産に登録された。産業遺産情報センターの解説と展示は、その合意に基づいている。

 韓国が世界遺産登録反対のロビー活動を行った2015年6月、日韓外相会談を開催して合意に達したが、韓国は世界遺産委員会の開催中にも登録反対のロビー活動を展開した。対応を迫られた日本は、朝鮮人労働者が自らの意思に反して強制連行され、厳しい条件で労働を強いられたという点を確認した後、事実を説明するインフォメーションセンターなどを開設すると約束した。そして、以後、一切の討議を行わないことを約定して世界遺産への登録が実現した。

 ところが、世界遺産に登録された直後から、日韓の意見の相違による様々な誹謗中傷報道が始まる。

 実は、日本は戦時中の国民徴用令の下で一部強制があったことは認めたが、 “forced labor(強制労働)”という表現を用いて「奴隷状態だった」とする韓国側の主張には反発。登録直前の日韓外相会談で、“forced to work”(働かされた)という表現を使うことで双方合意することになった。

 それにもかかわらず、韓国は世界遺産登録後、「日本が強制労働を認めた」という解釈から、河野談話や村山談話、小泉談話に続いて日本が凄惨な植民地支配を認めたというアナウンスを繰り返した。そして端島を「監獄島」と呼び、悲劇の表記を日本に要求。史実と反する主張を繰り返した。合意を蒸し返したのである。

7月21日の決議案はどうなる?

 韓国側が主張する強制連行被害者は認定や認識など日韓間で根本的な差異が大きく、健全な議論すらできない状態だ。それゆえに、公正な学術研究や真相解明もなされていない。韓国人は捏造・歪曲された歴史を幼い頃から教え込まれているが、韓国が史実に基づかない歴史を改めない限り、友好など有り得ない。

 加藤勝信官房長官7月13日の記者会見で、「わが国は政府が約束した措置を含め誠実に履行してきた。こうした立場を踏まえ、適切に対応したい」と強調した。ただ、今までの経緯から、このまま見過ごしていくのではないかと危惧している。

 日本政府には事実無根の主張に対して、毅然とした態度で反論することを求めたい。そもそも世界遺産登録は、政府の内閣官房が中心となって推薦活動を実施してきたのだ。

 世界遺産委員会の決議は7月21日に予定されている。決議案は「なかったことをあったことにしなさい」というものだ。日本国民の血税で虚構を展示せよという決議案だ。決議の後、その経緯や今後について書こうと考えている。

【過去記事】
・1回目「石炭を掘るためだけに存在した軍艦島が語る未来」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/64178)
・2回目「今も色鮮やかによみがえる軍艦島での日常生活」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/64267)
・3回目「『地獄の島』の汚名を着せられようとしている軍艦島」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/64576)
・4回目「廃墟と化した軍艦島はなぜ世界遺産に登録されたのか」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/64695)
・5回目「軍艦島の『世界遺産化計画』につながったある出会い」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/64702)
・6回目「『無謀』と言われた軍艦島の世界遺産登録、その裏側」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/64970)
・7回目「軍艦島の世界遺産登録を妨害した韓国の誹謗中傷」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65089)
・8回目「当時の住民が証言する、軍艦島・朝鮮人強制徴用説の虚構」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65373
・9回目「軍艦島での徴用工虐待を叫ぶ具然喆を放置すれば慰安婦の二の舞に」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65576)
・10回目「なんだこれは!あまりにひどい韓国の軍艦島絵本に元島民も激怒り」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65812)

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(写真:軍艦島を世界遺産にする会資料、以下同)