とある洞窟で掘られたカップ1杯ほどの土から採取されたDNAによって、2万5000年前に生きた未知の人類グループに属する女性の存在が明らかになった。
これは、骨に頼ることのなく、土壌や水に残された環境DNAを分析したもので、他にも絶滅絶滅したオオカミや現生のバイソンなど、後期更新世を生きた動物たちの知られざる事実が明らかになりつつある。
『Current Biology』(7月12日付)に掲載されたこの研究がすごいのは、骨に頼っていないことだ。
大昔の生物のDNAを調べるとき、発掘された骨から採取したものを分析するのが普通だ。だから太古の時代から現在まで生き残った骨があり、しかもそこにDNAが保存されているという2つの幸運が必要になる。
しかし現実には、そうした幸運に巡り会えないことだってある。たとえばジョージア西部にある「サツルブリア(Satsurblia)洞窟」は、1万5000年前の人間の痕跡(石器など)が残されているものの、骨は一切発見されていない。
サツルブリア洞窟 / image credit:WIKI commons
環境DNAという手法
そこでウィーン大学(オーストリア)をはじめとする研究グループは、「環境DNA」を頼ることにした。これは土壌や水などのさまざまな環境から採取される、糞や体毛、あるいは体液や皮膚といった生物由来のDNAのことだ。進化生物学者Pere Gelabert氏や考古学者Ron Pinhasi氏らが、サツルブリア洞窟の土に含まれていたミトコンドリアDNA(細胞のミトコンドリア内にあるDNA)の断片をつなぎ合わせてみると、2万5000年前に洞窟の周辺で暮らしていた人間や動物の存在が明らかになったという。
未知の人類女性や動物の存在が明らかに
環境DNAの分析から、これまでに知られていない現生人類グループの女性のDNAが発見された。このグループはすでに絶滅しているが、今日のヨーロッパ人やアジア人と関係があるようだ。更に古代オオカミのDNAも発見されている。そして、こちらもすでに絶滅した系統であるようだ。
現生のバイソンにつながるDNAも見つかった。分析からは北アメリカの種よりは、ヨーロッパやユーラシア地域の種に近いことがわかっている。
そして、これが重要なことなのだという。というのも、サツルブリア洞窟のバイソンが生きていた時代よりも前に、北アメリカとヨーロッパの系統が枝分かれしていたことを示しているからだ。
またこうしたことは、1万1000年前に最後の氷河期が終わりを迎えた頃、オオカミやバイソンの群れの構造が大きく変化しただろうことをも示唆しているという。
生態系全体を研究する新しい方法
女性とオオカミとバイソンが一緒に洞窟で暮らしていたのかどうかはわからない。それぞれが生きていた時代を正確に特定することが難しいからだ。くわえて地中に残された環境DNAには、それが断片的なもので、何か別のものが混ざっている可能性すらもあるという限界がある。
その一方で、骨に頼る必要がなく、特定の種のかわりに土に含まれる多種多様なDNAを調べることができる今回の手法は、動植物と人間とのつながりも含め、生態系全体を研究する新しい方向性を示しているそうだ。
References:Genome-scale sequencing and analysis of human, wolf, and bison DNA from 25,000-year-old sediment: Current Biology / written by hiroching / edited by parumo
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