コンプレックスを抱えた少年と少女が経験する淡いひと夏を、情感ある映像で描くオリジナルアニメーション『サイダーのように言葉が湧き上がる』。7月22日(木)からの公開に先駆けて、本作を試写会で鑑賞したアニメ業界関係者からのコメントを紹介していきたい。

【写真を見る】アニメ関係者が語った『サイダーのように言葉が湧き上がる』の良さとは?

■どこか郷愁を覚える、少年少女のひと夏の青春物語

ヘッドホンで周囲を遮断するなど人との交流が苦手で、俳句でしか自己表現ができない少年チェリー(声:市川染五郎)と、快活な性格ながら矯正中の出っ歯が気に入らず、マスクで隠している動画配信者の少女スマイル(声:杉咲花)。

地方都市のショッピングモールで偶然出会った2人は、SNSを通じて距離を縮めると、ある老人の思い出のレコード探しを通じて心を通わせていく。互いにコンプレックスを乗り越えようとしていく2人だったが、チェリーは夏の終わりに街から引っ越すことが決まっていた…。

そんな欠点を抱えるキャラクターたちが織りなす、甘酸っぱい青春模様が繰り広げられる本作に対し、

「大なり小なり自分にコンプレックスを抱えたことがある人間には、共感するシーンがたくさんありました」(20代・女性)

「劇中の設定は現代ですが、どこか懐かしい子ども時代の夏休みのような気持ちになりました」(50代・男性)

「なんだかとっても前向きな気持ちになりました」(20代・男性)

「レコードや俳句など古くからのものを大切にしながらも、SNSやライブ配信など現代的なものを取り入れているのが新鮮だった」(20代・女性)

「増え続けるアニメ作品のなかでも埋没しない、唯一無二の感動体験を得ました」(20代・男性)

など、共感や感動を覚えたという感想が多数。同時に、瑞々しくもノスタルジックな本作の手触りや、現代と古いものが入り混ざったテイストオリジナリティを感じたという人も多かったようだ。

■アニメだからこそできるユニークな映像表現

アニメーションとしての利点を活かした独特の世界観を構築している本作。アニメならではの見どころについても、関係者だからこそ注目する具体的なコメントも多く届いている。

ショッピングモール内を駆け回る圧倒的なカメラワークがとても気持ち良かったです」(20代・男性)

「スマホの配信画面、ガチャガチャのカプセルからの視点、冷蔵庫からの視点など、視点や画面の切り取り方がぐるぐる変わっておもしろかった」(20代・女性)

「団地の壁やショッピングモールの屋上など、いろんなところに俳句が書かれているところ。実写では無理…」(20代・女性)

「アニメならではの表現、躍動感がありながらも、時に見せるキャラクターのゆっくりとした動きに、アニメーションのリアルさを感じた」(20代・男性)

冒頭のモール内で繰り広げられるキャラクターのダイナミックな動きや、それを縦横無尽に捉えていくカメラワークなど、アニメだからこそ描けるユニークな表現が、多くの人の目に留まったよう。またビビットな色使いや風景に関しても、以下の通り多くの声が寄せられている。

「夕景の描き方が昨今のアニメにはないタッチが効いていて、とても素敵でした」(30代・女性)

「色使いや影の使い方にレトロなイラストっぽさがあり、世界観にも合っていて、1カット1カット観ていてワクワクしました」(20代・女性)

「どのシーンを切り取っても魅せるところがさすが。風景の描き方も印象的でした」(20代・男性)

「どこで止めても絵になる作画と色彩がとてつもなく新鮮でした」(20代・男性)

昨今のアニメと一線を画した、独創的かつ挑戦的な本作のテイストは、クリエイターたちの魂を大いに刺激したようで、

「アニメの表現方法はまだまだ様々なスタイルがあるということを再確認させていただきました」(50代・男性)

「視点の切り替わりやシルエットで捉えたポップな絵柄など、物語以外の部分で観ている人をワクワクさせる部分がたくさんあって、画面の密度感に刺激を受けました」(20代・女性)

「私は画学生なのですが、これからの製作に“色と音”でこの作品のように世界観をつけたいと思いました」(10代・女性)

「日本だからこそ伝わる場面が多く、これを翻訳者としてどう伝えるかを考えると、とてもチャレンジングで刺激的でした」(20代・女性)

などの意欲に満ちた声も。本作がクリエイティブな面で特筆すべき作品であることを証明していると言えるだろう。

■業界人も激奨!映像のその先にある心揺さぶるエモーション

最後にアニメ業界人として本作に感じた良さを尋ねてみたところ、数多くの熱い絶賛メッセージが寄せられたので、ここでチェックしていきたい。

「背景とキャラクターの一体感がもたらす映像表現は、“ひと夏の思い出”的な非現実の世界に自然と引き込まれ、いつの間にか物語のキャラクターと一緒に行動しているような感動があります」(50代・男性)

「絵を大切にする人こそ素敵な動画を作れるのだと思います。もちろん音楽や音も大切ですが、この映画では、音が入る前の最初の建物の絵だけで泣きそうになりました」(30代・女性)

「色です!とにかく色!映像だけでなく、セリフや言葉(俳句)にも色を感じる作品だと思います」(20代・男性)

アニメ映画はよく観ますが、ここまでキラキラしていて元気をもらえる作品は、なかなかありません。『サイダーのように言葉が湧き上がる』の言葉のインパクトもすごく好き」(20代・女性)

独特の作画のテイストが魅力的な本作だが、その映像表現が、人の心に訴えかけるようなエモーションへとつながっている点が、多くの関係者たちのコメントに共通している。映像と物語、それに音楽など様々な要素がうまく噛み合い、心に響く作品に仕上がっていることが最大の魅力であると言えるのかもしれない。

「オリジナル作品であること。ゆえに、なにもないからこそ広がるものがあるのかなと思いました」(10代・女性)

という言葉通り、アニメーション映像および音楽制作レーベル、フライングドッグの10周年記念作品として制作され、独自の世界観を持つ作品となった『サイダーのように言葉が湧き上がる』。イシグロキョウヘイ監督が、繊細かつ叙情的な演出で作り上げた世界観と映像美は、劇場でこそ味わいたい。

文・構成/サンクレイオ翼

アニメ関係者も絶賛する『サイダーのように言葉が湧き上がる』/[c]2020 フライングドッグ/サイダーのように言葉が湧き上がる製作委員会