京都・南座ではこの夏、2年ぶりに人間国宝歌舞伎女方の坂東玉三郎による『坂東玉三郎 特別舞踊公演』を開催する。

7月24日(土)から28日(水)は、「口上」と地唄による舞二題を上演。「口上」では挨拶に加え、これまで舞台で実際に使用した、着物の打掛を披露する。地唄舞二題の名作「雪」は江戸時代の天明期に作られたとされる曲で、大坂・南地の実在の芸妓をモデルにしている。「鐘ヶ岬」は長唄「京鹿子娘道成寺」を江戸で初演した初世中村富十郎が、その後上方唄を用いて再演した時の曲が伝わったとされる。

8月2日(月)から24日(火)は歌舞伎舞踊「鶴亀」と「日本振袖始」を上演。「鶴亀」は、能の「鶴亀」の詞章をそのまま長唄に移した舞踊で、歌舞伎舞踊の中でも祝儀ものの代表作となっている。女帝を玉三郎、亀を中村橋之助と中村福之助がWキャストで、鶴を中村歌之助が勤める。「日本振袖始」は、近松門左衛門による神代物の作品で、人身御供で差し出された稲田姫を飲み込んだ八岐大蛇と、取り戻すためにやってきた素盞嗚尊の対決を描く重厚な舞踊劇。岩長姫実は八岐大蛇を玉三郎が、素盞嗚尊と大蛇の分身を橋之助と福之助がWキャストで、同じく大蛇の分身を歌之助が、そして稲田姫を劇団新派の河合雪之丞が勤める。

過日、7月、8月の『坂東玉三郎 特別舞踊公演』に向けて、坂東玉三郎が取材会を行った。まず、7月の公演について次のように紹介した。

「構成は打掛3枚と、京都ですから唐織を1枚御覧いただこうと思っています。「雪」は燭台をつけて舞います。この3月に歌舞伎座で舞いました『鐘ヶ岬』は装置を豪華に作らせていただきました。それを南座に持ってまいりまして、大きな劇場での舞をお見せします」。

打掛の1枚は「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)」の政岡の雪持の竹に雀、唐織は「船辨慶(ふなべんけい)」の前シテ(前半)で使用したというものを予定。「唐織は京都で発見したものの復刻版なので、京都でお目にかけたかった」と、特別な思いも込められている。

坂東玉三郎 特別舞踊公演

坂東玉三郎 特別舞踊公演

8月公演については、橋之助、福之助、歌之助の「成駒屋三兄弟」について「昨年3月に上演予定だった『明治座 三月花形歌舞伎』での「桜姫東文章」に(片岡)仁左衛門さんと指導に入った際、橋之助さんがいらして、それがご縁となりました」となれそめを語る。

以来、彼らとは稽古を重ねてきたそうだ。玉三郎から見た三兄弟の魅力を尋ねると、「長男の橋之助さんはミュージカルもなさっていまして、非常に気遣いのある方。次男の福之助さんは(市川)猿之助さんのスーパー歌舞伎やお父様(中村芝翫)の歌舞伎にも出演なさっています。三男の歌之助さんは、橋之助さんと福之助さんをじっくり見ていて、稽古でも確実に自習して来られます。何でも勉強してやっていきたいとおっしゃっています」と紹介。そして「新しい若い息吹を発見することも歌舞伎の楽しみ方ではないかと思う」と彼らの活躍に期待を寄せた。

「日本振袖始」で稲田姫を演じる河合雪之丞については、「雪之丞さんは元々、歌舞伎の方でしたから、旧派に出演されることもあってもいいのではないかと考えました」とのこと。

玉三郎が演じる岩長姫は、「実は男だったかもしれないという説もあります。独特の世界ですよね。40代のころは岩長姫の醜いところが出しづらいものがあったのですが、今はもう、なりふり構わず出していいのではないかと思います」と年齢を重ねるごとに、役に対して心境の変化が生じたことを明かした。

また、南座にて1990年以降、毎年舞踊公演を重ねるうちに「南座は非常に自由な空間だということを理解しました。劇場が非常に歌舞伎向きなんですね。繊細なところが伝わりますし、お客様との関係も常に良いです。(8月公演の)「鶴亀」で使用する冠なども京都産ですし、そういう面でも特別な場所」だと気づいたという。

コロナ禍に見舞われた2020年春から今日まで、忙しくすることでモチベーションを保ってきたとし「お客様が劇場にいらっしゃった限りはこちらも十分に気をつけて、夢の時間を過ごしていただきたいと思います。幕が開いて閉まるまでの間、この苦しい状況を忘れていただくということに力を尽くします」と、2年ぶりとなる南座での公演に向けて、決意を新たにした。

南座7月、8月の『坂東玉三郎 特別舞踊公演』は、いずれもチケット発売中。

取材・文=Iwamoto.K

坂東玉三郎 特別舞踊公演