約3年前に会社を辞め、その後は月収12万円のフリーター生活に突入。仕事がない日は1日16時間も寝ていたという橋本さん(仮名・29歳)だが、コロナ禍の真っ只中である今年、東京都内でシェアハウスの経営に乗り出した。

 ただ、そこは家賃2万5000円(管理費込み)の超激安シェアハウス。当然、“ワケあり”の人間がどんどん入居する。

 悪戦苦闘しながらも「ようやく落ち着いてきた」そうで、橋本さんは埼玉県内にもう一軒シェアハウスを経営することになったという。そこで待ち受けていた新たな苦難とは?

◆強制退去者続出!激安シェアハウスの経営はラクじゃない

 シェアハウスがある最寄り駅で筆者は橋本さんと待ち合わせをしていた。駅で待っているとゲリラ豪雨が襲ってきた。すると、橋本さんがびちょびちょになりながらバイクで姿を現せた。

「走っている間に雹(ひょう)が降ってきて、体に当たって痛かったですね」

 雨が小降りになったので傘を差しながら彼の新しいシェアハウスに向かう。その道のりがとても長く感じた。

「徒歩15〜20分程度ですかね。僕はここに来るときはバイクだし、なにも感じないです。住居人からも特に文句は言われてません」

 橋本さんはそう言うが、道沿いに店などはなく殺風景。かと言って見上げれば高速道路だ。シェアハウスの付近にコンビニが一軒あるだけで、少し不便だろう。筆者は、正直こんなところに住みたくないと思った。

◆隣人から「うるさいから静かにしてくれ!」とクレーム

 ようやく到着した。シェアハウスには縁側があり、昭和の一軒家という趣で少し懐かしい感じがした。築50年ぐらい経っているのかもしれない。

「いや〜、さっそく困ったことがあって。お隣のおばさんが神経質で、そんなに大きな声で話しているわけではないのに、夜22時頃になると窓を開けて『うるさいから静かにしてくれ!』とか、そんなことを言われるんですよ」

 今までは静かな空き家だったものが、急に得体の知れない人間たちが出入りするようになったのだ。隣人は不快感を覚えているのかもしれない。

◆彼女を連れ込んだ家出青年の顛末

 シェアハウスオープンした当初は4人の入居者がいた。現在は、19歳のA子さんと36歳の三嶋さん(仮名)の2人だ。
 
 5月上旬、橋本さんが経営する都内のシェアハウスに「家出青年」が入居してきた。彼の第一印象は好青年。複雑な家庭に育ち、母親が多額の借金をしているうえ、精神的な虐待を受けて逃げ出してきた。携帯電話も契約できない状態だったのだ。橋本さんは彼の実家まで車で同行し、役所関係などのさまざまな手続きを手伝ってあげたという。

 その後、彼に何があったのか——。

◆他の住人から大ひんしゅく

「あれからですが『家出青年』は家出コミュニティで知り合ったというA子さんを呼んでシェアハウスに住まわせたのですが、彼女に対する束縛が激しく、他の住人からひんしゅくを買いはじめたんです」

 また、“真面目な好青年”は表の顔だった。仕事もせずに、彼女から20万円を借りて返さない。2人がいるとシェアハウスの雰囲気が悪くなるので、埼玉のシェアハウスに移ってもらうことになったのだ。

「さらに、A子さんの携帯電話を勝手に売ってしまった。彼女はブチ切れて、もう別れたいと僕に相談してきたのです。詳細を聞いて、『家出青年』には退去してもらうことにしました」

◆貸したパソコンが消えた

 橋本さんは『家出青年』に事情を説明して、退去するように伝えた。ところが……。

「彼からは『アルバイトと住むところを探したい。いろいろと作業があるのでパソコンを貸してほしい』と言われました。それで、仕方なく貸してあげたのですが……」

 退去日、橋本さんが外出先から戻ると、すでに彼はいなかった。パソコンはどうなったのだろうか。嫌な予感が的中する。

パソコンがなくなっていました。慌てて電話とLINEをしましたが、すでに解約済みでつながりません」

 そんなの貸すほうが悪いと言う人もいるのかもしれないが、管理人としては退去を伝えた手前、貸してくれと言われたら、貸さぬわけにはいかないと思ったそうだ。

 しばらく橋本さんは家出青年を探したがダメだった。警察にも被害届を提出した。彼は、盗っ人だったのだ。

◆多発する入居者たちのトラブル

「北(仮名・30代)は最初からとんでもない奴でしたね」

 橋本さんはウンザリしながら呟いた。とんでもない入居者は家出青年だけではない。
 
 北という男性は、コロナ失業をきっかけに地方から出てきた。橋本さんは彼にバス賃を工面したうえ、食事の面倒もみてあげた。しかし、ろくに働こうともせず、家賃も払わなかった。橋本さんはUber Eats配達員の仕事を紹介し、自転車も貸してあげた。そして、「とにかく働いて家賃と貸している分を返してくれ。そうしないと〇〇日までに出て行ってもらいます」と強く警告していた。

「あれから家賃はギリギリ払っていました。でも、冷蔵庫に入っている他の住人の物を勝手に食べて、タバコもくすねていたらしく、トラブルになりました。貸しているお金もあったので、迷った挙句、とりあえず埼玉の方に移ってもらったんです」

アイスクリームを餌に罠を仕掛けた

 ちょうどそんな話を聞いていると、前出の三嶋さんがやってきた。

「北は、最初はごく普通でした。ただ、仕事も探さずにフラフラしていました。僕は料理が好きなのですが、彼がお金がないのを知っているから、食べさせてあげていたのですよ。

 そんな恩があるはずなのに……。彼は、ちょくちょく冷蔵庫に入れた僕の食べ物やお酒を盗むようになりました。犯人が彼ということは明白でしたが、さすがに証拠はないので黙っていました。

 そこで、管理人に相談して、罠をしかけたんです。シェアハウスに彼しかいない状況で、アイスクリームを数個買っておいたんです。案の定、無くなっていて」

 盗み癖がある男を置いておくわけにはいかない。橋本さんは、退去命令をくだした。彼はお金がなく、行く場所はないはずだが、仕方のないことだ。

 結局、最後まで「自分はやっていない」と言い張っていたが、翌日シェアハウスを去ったのであった。激安シェアハウスの経営はかなり大変なようだが、それでも、やっぱり、橋本さんの表情は明るかった。

<取材・文/今永ショウ

シェアハウスの玄関