JR東日本管内でも、その4割に上るという無人駅を再活用する動きが相次いでいます。非日常を味わえるグランピング施設に生まれ変わったり、高校生たちの学びの場となったりした例を3駅紹介します。

サウナとテントが併設された「日本一のモグラ駅」

主にローカル線で見かける無人駅JR東日本管内だけでも、1650以上ある駅のうち約4割が無人駅とされ、単純計算で600駅以上あります。そのような無人駅が昨今、グランピング施設に生まれ変わったり、高校生たちの学びの場にリニューアルされたりと、劇的に変化する事例が増えているのです。

なぜ無人駅の「開発」が続くのでしょうか。それぞれの背景に注目しつつ、今回は変化を遂げた無人駅を3駅紹介します。

群馬県みなかみ町にあるJR上越線土合駅は、地下のホームから地上の駅舎を出るまで462段の階段を上る必要があります。その標高差は約70m。「日本一のモグラ駅」と呼ばれています。

土合駅は登山シーズンを除けば1日の乗車人数が20人ほどの無人駅でしたが、2020年11月、敷地内にグランピング施設「DOAI VILLAGE」が開業しました。駅に人を呼ぼうと、JR東日本アウトドア施設を企画運営する会社「VILLAGE INC.」とみなかみ町の協力を得て、地域活性化のために作った施設です。このご時世、無人駅という“密”になりにくい環境を逆手に取り、新たな観光スポットにしたいとのこと。

駅舎の隣にはかまくら型のテントサウナが併設され、非日常感は抜群。かつての駅務室はカフェ「モグカフェ」に改修されました。きっぷ売り場がカウンターのようになっており、コーヒーや軽食が楽しめます。また、サウナとカフェは宿泊者以外でも利用可能です。開業前から年内の予約がほぼすべて埋まるなど、好調な滑り出しでした。

後閑駅×高校生たち 旧事務室が学びの場に

前出の土合駅から南へ4駅、同じくJR上越線にある後閑駅(群馬県みなかみ町)も、かつてはみどりの窓口があるほどでしたが、2018年から無人駅になっています。

しかし2021年4月、かつて事務室として使用されていたスペースに、高校生が無料で使える学習室がオープン。JR東日本高崎支社管内で、駅構内に学習室ができるのは初めてでした。

リニューアルのきっかけは、町の玄関口である駅が無人化されたことで、地元のにぎわいが失われるのではと危機感を抱いた地域住民が、JR東日本に学習室としての利用を提案したこと。同駅周辺には商業高校があり、利用者の約8割が通学の高校生です。そこで、約2000万円の改修費を町が負担し、リニューアルが実現しました。

学習室は、70平方メートルのスペースに長机と22脚の椅子が置かれています。集中力を高められるよう、パーテーションで区切られたスペースもあり、さらに無料Wi-Fiも設置。一部の机は移動可能で、イベントスペースとして活用する際にはレイアウトを変更できるデザインになっています。誰でも無料で利用でき、町から委託を受けた運営会社職員が1人常駐しています。

無人化されたローカル駅は、日々の学びを大切にしながら、地域のつながりを生む場所に変貌を遂げました。

駅でホテルにチェックイン!? 東京の駅が舞台の取り組みとは

群馬県以外でもJR東日本の試みは続きます。沿線活性化事業「沿線まるごとホテル」の本格展開を目指し、同社は2021年2月17日から実証実験を開始しました。

「沿線まるごとホテル」とは、駅舎などの交通インフラをホテルのフロントやロビーとして活用し、沿線集落の空き家などをホテル客室に改修のうえ、地域住民とともに接客・運営を行う取り組みです。新たな滞在型観光やマイクロツーリズムの創出を図りたいとしています。

実証実験の対象となったのが、東京都奥多摩町にあるJR青梅線の白丸駅。1日の乗車人数が約70人という無人駅です。同駅を舞台に販売された宿泊プラン「無人駅からはじまる、源流への旅」は、駅ホームが「ホテルのフロント」になり、客が到着するとコンシェルジュが出迎えチェックインとなります。

送迎車で宿泊地に移動する道中、駅周辺の白丸集落で多摩川の景観や旧道の史跡を楽しんだ後、車窓の緑が美しい「むかし道」を進みながら境集落に立ち寄り、ワサビ田、白髭神社などを巡ります。

宿泊は築150年の邸宅を改装した古民家ホテル「NIPPONIA 小菅 源流の村」(山梨県小菅村)。2021年は3月末までの期間限定でしたが、予約枠は即完売し、4月20日まで延長されるほど人気を博しました。

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以上、新たな活用法を見出している3駅を紹介しました。インフラとして必要な一方、省力化や合理化などで無人となる駅が日本各地に存在します。地域活性化のためにも、廃れたイメージを払拭する時なのかもしれません。

JR上越線の土合駅ホームと地上の改札を結ぶ階段(恵 知仁撮影)。