度肝を抜く花火の後に何が起こるのか

 パンデミック非常事態宣言下で始まった東京オリンピックパラリンピックを世界はどう見ているか。

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 米主要メディアは始まる前から「完全な失敗に向かっている。『おもてなし』の心は偏狭で内向きな外国人への警戒に変化した」(ワシントンポスト)と酷評していた。

 だが、「シュールな(現実を超越した)開会式」(CNN)を見た米メディアの記者たちは、「コロナ禍による死者を弔い、孤独と戦いながらトレーニングを強いられてきたアスリートたちへの賛歌を歌い上げた」(公共放送NPR)と一定の評価をしている。

 一方、こうした開会式の荘厳さとは裏腹に、競技場外から聞こえてくる東京五輪反対デモ参加者たちの罵声に日本が抱える複雑さも厳しく指摘している。こうした報道については読者諸兄姉もすでにご承知だろう。

 こうした紋切り型報道ではなく、インテリ若年層に圧倒的人気のあるニュースサイト「ザ・デイリービースト」が東京に派遣したエンターテインメント担当記者、ケビン・ファーロン氏の現地報告をご紹介しよう。

 デイリービーストはインディペンデントリベラル系、1日のアクセス数は100万を超えている。

「人っ子一人いない観客に向かって言い放たれた(開会式の)メッセージは内向きで、はにかむような大言壮語だった」

オリンピックは、嫌われ者のウイルスをまき散らすスーパースプレッダー(超感染拡散者)だ。オリンピックが、観客席は空っぽ国立競技場でこの夜デビューした」

「度肝を抜く華やかな花火が打ち上げられた。だが、その後に何が起こるのか。控えめな言い方をすれば、誰も五輪はやりたくなかったはずだ(つまり、一部の人間を除き、みな反対だった)」

「開会式は短かったが、実にビューティフルだった。すべてが抑え気味だった。演壇に立った人たちのスピーチは口々に国際的な団結と忍耐を強調していた」

「だがこの夜の開会式を見ていて気づくのは、なぜこんなに慇懃な(Respectful)なのか、もっと言えば、なぜこんなにくだらない(Stupid)のか、ということだった」

「通常な時であれば日本という国は、こんなウイルスなど撲滅していた。ところが、今や、第4波のパンデミック禍で国民を家に閉じ込めている」

世論調査では日本国民の多くが東京五輪の中止か、再延長を望んでいた。観客がいないのになぜ世界中から集まった選手たちを歓迎し、祝福することができるのだろうか」

「家から出られないのに日本国民はどうやってグローバルなイベントを楽しめる特権を享受できるというのだろう」

「(この競技場の記者席から見ていると)東京五輪の開会式は気が滅入る(Depressing)だけだった」

https://www.thedailybeast.com/the-tokyo-olympics-opening-ceremony-was-depressing-as-hell

東京五輪は最初から呪われていた

東京五輪は呪われている」と言い切ったのは麻生太郎副総理(兼財務相)だった。その発言を米メディアは好んで引用してきた。

 まず新競技場のデザインにケチがつく。エムブレム盗作疑惑。森喜朗大会組織委員長男尊女卑発言での辞任。それにコロナウイルスの爆発的な感染拡大による1年延期。

 さらには開催寸前に噴出した五輪関係者のいじめ体質やホロコーストを茶化した発言発覚などなど、確かに呪われ続けた。

 しかも感染力の強い「デルタ株」が猛威を振う中で菅政権の不手際でワクチン供給が遅れ、ワクチン接種は遅々として進まない。

 だがプラス面もあったと、日米関係に長いこと携わってきた米元政府高官は言う。

「皮肉なことだが、東京五輪日本人のメンタリティに潜む男女不平等、弱者軽視を炙り出し、ジェノサイドなどについての国際的なコモンセンスがいかに欠如しているかを露呈させてしまった」

「日本も他国に指摘されるなら反論もしただろうが、相手が五輪となるとそうはいかない」

「葵の御紋の印籠(五輪の精神)を突きつけられて『これが目に入らぬか』とやられると、ぐうの音も出なかった。そのこと自体は長い目で見れば、日本にとっては良かったはずだ」

バッハ会長は黒船のペリー提督だ

 それでも、米メディア報道を精査していて気づくのは、非常宣言下でも東京五輪をせざるを得なかった菅義偉首相の「不甲斐なさ」を指摘はしても糾弾はしていないこと。

(海外から来た記者たちの意地悪い質問にも冷静さを保ち続ける橋本聖子五輪相を高く評価する記事も目についた)

 国民の8割以上が中止や延期を望んでいるのに菅首相はなぜ、ごり押ししたのかという点では、日本の国家としてのプライドや経済的なメリットがあるのだろうと一応の理解を示している。

 それに反して、米メディアが憤りの矛先を向けているのは国際オリンピック委員会IOC)のドイツ弁護士トーマスバッハ第9代会長ら五輪エスタブリッシュメントだ。

 米高級誌「ニューヨーカー」のマットアルト記者は、東京五輪一方的に日本に押しつけたバッハ会長を1853年の黒船に例えてこう指摘している。

7月8日は、今から168年前にペリー提督率いる黒船が江戸湾に現れ、開国を迫った日だ」

バッハ氏は日本政府に1年延期された東京五輪を何としても今年夏に開催するよう迫ったのだ。日本はこの要求に社会的、政治的混乱状態に突き落とされた」

「菅首相は、ウイルス感染が拡大しているにもかかわらず『東京五輪ウイルスを撲滅したという証しにさせる』と主張、バッハ氏は『五輪は日本国民にウイルスリスクを与える可能性ゼロだ』と空約束。すでに選手村からは感染者が十数人出ている」

https://www.newyorker.com/sports/sporting-scene/tokyos-olympics-have-become-the-anger-games

 IOC上から目線スタンスは、日本での反対の声が出始める中でもいかんなく発揮された。

 スポークスパーソンのマークアダムス氏は、こう言い放っていた。

「我々は(世論の声は)聞く。だが(決定する際に)世論に左右されることはない」

 炎天下のマラソンは選手に負担をかけるとして、東京から札幌に変更した際にも、IOC東京都小池百合子知事と事前協議は一切しなかった」

「日本で報道されているように何か重要なアジェンダを決定するときはIOC、日本政府、東京都、日本五輪委員会、東京五輪組織委員会の5者で決めてきたというのは“神話”のようなもののだ」

 ロサンゼルスタイムズジュリス・ボイコフ氏はIOCと五輪開催国との関係について、「IOCはまるで『ジキルハイド』のような駆け引きに終始していた」とみている。

「開催を希望する国を選考する段階では優しく抱擁するが、いったん決まるやバイズ・グリップ(締め上げる)していく」

東京五輪自体、中止するか、再延期するか菅首相(前任者の安倍晋三前首相)が提案するチャンスはあったのだ」

「菅氏は今頃になって、『IOCはすべての権限を持っている。IOC東京五輪を今年開催することをすでに決定していた』と述べている」

https://www.latimes.com/opinion/story/2021-07-22/tokyo-olympics-ioc-international-olympic-committee-los-angeles-olympics-2028

五輪参加国は参加費をギリシャに払え

 IOC批判に燃え上がる米国では、これだけ巨大化したオリンピック東京五輪を最後に発祥の地であるギリシャに戻してはどうかという奇抜な提案が出ている。

 今後、夏季五輪は2024年はパリ、2028年ロサンゼルス2032年はブリスベンまで決まっている。

 2032年に候補に名乗りを上げたのはブリスベンだけだった。

 開催資金は膨れ上がり、コロナウイルス感染のような不測の事態地球温暖化の影響を受けているとされる自然災害への対応など中小国では財政的に賄い切れなくなっている。

 五輪誘致熱は急速に冷え込んでいる。

 そこで、「ギリシャを夏季五輪の半永久的開催地にせよ」と唱えているのは、月刊誌「ワシントンマンスリー」の編集主幹、ポール・グラストリス氏だ。ギリシャ系米国人だ。

 同氏の構想をジャーナリストのテモシー・ノア氏が代弁してこう書いている。

「もともと五輪はギリシャ人が始めたスポーツの祭典だ。今や、世界中から『Boondoggle』(無用の長物)と言われている五輪を元の鞘に収めてはどうか」

「ザルツブルグ音楽祭をオハイオ州のアクロンではやらない、ローズボウルは西アフリカのバルキナファソではやらないのと同じ発想だ」

「五輪は肉体的な豪勇さに優雅さと美を見つけ出すというギリシャ人の理想を実現しようとしたものだ。それが世界中から認められた」

「かといって4年に一度持ち回りで開催地を選ぶ理由などどこにもないはずだ」

「問題は開催にかかる費用だ。近代ギリシャはそれほど豊かな国ではない。そうならば五輪に参加したい国から参加費用を払わせるのだ」

欧州連合(EU)も一肌脱ぐべきだし、欧州中央銀行も拠出金を出すだろう。かつて財政面でメルトダウンしたギリシャは五輪開催で潤うこともできる」

https://washingtonmonthly.com/2021/07/19/give-greece-back-the-olympics/

東京五輪を最後にもう五輪はやめるべきだ」という強硬論まで出ている中で「ギリシャ五輪里帰り」構想。

 意外に良いアイデアで、一考する価値はありそうだ。

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