韓国では、1981〜1995年の間に生まれたミレニアル世代と1996〜2012年の間のZ世代を併せて「MZ世代」と呼ぶことがしばしばある。日本ではあまり知られていないかもしれないが、MZ世代の反中感情は反日感情を上回る。

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 2020年3月、地上波テレビ局SBSのドラマが論争となり、わずか2回を放映した後、打ち切りになった。「朝鮮求馬師」という全16話のエキゾチズムファンタジー時代劇で、主に若い世代を狙ったドラマである。

 このドラマ放映が中止になったのは、度を越えた歴史歪曲に加えて、登場人物の衣装、食べ物などの小道具がすべて中国式だったからだ。食べ物を盛った壺やアヒルの卵、月餅、中国風餃子など、何から何まで中国式の時代劇に視聴者の抗議が殺到した。

 この一件に限らず、古代の朝鮮半島を中国の一地方とみなした中国の歴史研究プロジェクト「東北工程(東北辺疆歴史与現状系列研究工程の略)」、あるいは中国主導の広域経済圏構想「一帯一路」など、韓国世論の反中感情を醸成する案件は枚挙に暇がない。

 制作会社に莫大な経済損失を与えたドラマの打ち切りも、反中感情を象徴する出来事の一つだ。

 文在寅政権は発足直後から露骨な親中政策を展開してきたが、任期末期に近づき、正反対の現象が起きている。中でも、MZ世代の中国に対する非好感度は日本に対する非好感度よりはるかに高い。

 反中感情はMZ世代に限ったことではなく、すべての世代で最高値を記録している。関連する2つの世論調査を紹介したい。

文在寅政権の媚中路線に辟易とする国民

 一つ目は、6月25日に国民日報が実施したオンラインアンケート調査だ。この調査によると、韓国のMZ世代が最も嫌っている国は中国で、51.7%を占めた。中でも、1990年代半ばから2000年代初めに生まれたZ世代は、回答者の60.3%が最も嫌いな国として中国を挙げている。日本が嫌いと答えたMZ世代は31.2%に過ぎない。

 二つ目は、週刊誌「時事IN」の世論調査である。5月12日〜17日に全国18歳以上の男女57万人を対象に行われた広範囲なアンケート調査だ。この調査では、中国に対して「非常に否定的」(49.3%)と「やや否定的」(26.6%)が75.9%を占め、中国共産党を否定的に捉える人も81.1%に上っていた。

 文在寅大統領は2017年5月の就任後、同年12月に国賓として中国を訪問した。その際に北京大で演説し、「中国は高い峰、韓国は小さな国、中国の『中国夢』と共にいる」と自国を卑下する態度を取った。文政府の露骨な親中政策の幕開けを告げる演説だった。

 文在寅政府は、習近平中国国家主席の訪韓に力を入れているが、就任から4年が経過したいまだ実現していない。

 与党・共に民主党も、2019年7月に傘下の政策研究所「民主研究院」が北京で中国共産党中央党校と交流協力推進協約を締結した。中央党校は共産党の幹部を養成する機関だ。文在寅政権は歴代政権と比べて、より中国との緊密な関係を維持しようと努めている。

 中国に秋波を送るのは政治家も同じだ。

 毎年新年になると、与党の主要政治家は先を争って中国共産党機関紙「人民日報」のオンライン情報共有プラットホーム「人民網」に新年の辞を掲載している。 彼らは「タチアハオ(こんにちは)」「シンニエンカイラー(明けましておめでとうございます)」と中国語で挨拶する。

 政治家の従属姿勢を見苦しく感じる韓国人は少なくないが、当の与党政治家は意に介さない。事実、6月18日と19日の2日間、韓中経済文化教育協会が済州島で主催した大規模な中国共産党結党100周年記念写真展の際も、与党議員数人が出席し祝賀の映像を送った。

 6月21日には、韓国に居住する一部の朝鮮族(中国籍の韓国・朝鮮系民族)の団体が中国共産党結成100周年を記念するイベントを開催した。彼らは「毛沢東ジャケット」と呼ばれるオリーブグリーンの人民軍服を着用し、左腕に赤い腕章、首には赤いマフラーを巻き、「私たちの祖国は中国」と叫んだ。

 イベントの様子は「中国同胞TVユーチューブ」で公開されて知れ渡ったが、韓国の永住権を取得し、経済活動や健康保険、多文化政策による福祉などの恩恵を享受しながら、中国共産党に忠誠を誓う朝鮮族の姿に、韓国人は驚きと憤りを露わにした。

韓国に浸透する孔子学院

 日本海に面する韓国・江原道に大規模なチャイナタウンを建設する計画があったが、反中感情の悪化で、中止に追い込まれた。文政権は4年以上にわたって親中路線を推し進めたが、世論の反中感情はむしろ強くなった。文政権の中国に対する低姿勢と中国共産党の政治体制、中国人に対する国民の不信が高まっている。

 韓国の小中高校生は、左派性向の一部の教師から反日思想教育を受けている。中でも、全国教職員労働組合に所属する教師は、民族主義を強調した歴史教育と親北朝鮮、反日運動を積極的に行っている。

 2019年7月初め、政府与党の政治家が反日運動に火をつけたことで、すぐさま日本製品不買運動が始まった。左派政党、労働組合、市民団体が「ノージャパン、ノーアベ」のステッカーをばら撒いて反日運動を主導したのだ。与党は反日感情を選挙戦略の道具として活用、翌2020年4月に実施された総選挙では史上最大の圧勝につながった。

 ところが、今では反日よりも反中である。反中感情は様々な要因で蓄積し、特にMZ世代で表出している。

 もともと韓国人は中国から飛来する黄砂や粒子状物質によって、健康上の脅威を受けていると考えていた。それが、中国・武漢発の新型コロナパンデミックが起きたことで、中国に対する不満が爆発した。特に影響を受けたのは、コロナ禍によって将来不安が増大したMZ世代である。香港に対する中国共産党の対応も、嫌悪感に拍車をかけた。

 韓国では孔子学院(孔子アカデミー)が浸透している。表面的には孔子思想や中国文化、中国語を教える場所だが、その実、毛沢東思想を教える中国共産党の宣伝機関である。現在、韓国には23校(学院1校、22校は大学内に設立)の孔子学院と、韓国の中高校41校に設立された孔子学堂がある。

 また、各大学の中国人留学生は日増しに増え、中国人留学生が1000人を超える大学は計17校に上る。中国人留学生がいない大学は、運営が難しいという話が出るほどだ。

 MZ世代の反中感情には文化的な要素も作用している。韓国の伝統文化である韓服、キムチ、パンソリ(朝鮮の民俗芸能)からオンドルまで中国固有の文化と主張することに憤慨している。

中国による韓国の属国扱いは加速

 中国の検索大手「百度」には、韓国人が憤る情報が掲載されている。扇子舞いやアリランなど韓国の伝統文化を朝鮮族の文化と記載し、キム・ヨンアや世宗大王も朝鮮族だと書かれている。韓国を中国の属国と見る考えが存在しているのだ。

 中国は再び世界の中心になるという遠大な野望を持つが、中国共産党の統治体制が世界の人々の反中感情を呼び起こしているのが現状だ。韓国のMZ世代の反中感情は、与党が主導した反日感情をはるかに越えて、ますます深まっている。

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媚中路線を取り続けた文在寅政権だが、逆に若者の間では反中が進みつつある(写真:YONHAP NEWS/アフロ)