こどおじ」「こどおば」という言葉をご存知でしょうか。「子ども部屋おじさん/おばさん」の略で、大人になっても実家の子ども部屋に住み続ける未婚者のことを指すネットスラングです。

いわゆるニートや引きこもりとは意味合いが少し異なり、仕事をしている人もいるのですが、独立心に欠いた存在として、揶揄されるケースもあります。一方で、高齢親の介護や経済状況とも関連する社会問題の側面もあります。

こどおじ」「こどおば」と呼ばれる人たちの実態はどうなっているのか――。

弁護士ドットコムニュース編集部がLINEで「実家に住み続ける30代以上の未婚者(または独身)」の情報を募ったところ、当事者から多くのメッセージが寄せられたので、その一部を紹介します(読者の名前はすべて仮名)。

なお、今回取り上げている「こどおじ」「こどおば」は、やむをえない理由から実家で暮らさざるをえない人(引きこもり、親から反対されて家にいる人、介護を理由にする人など)を対象としていません。

また、「こどおじ」「こどおば」は蔑称として使われることもあるため、望まずして親と同居・再同居している読者からは、自分たちまで「こどおじ」「こどおば」という言葉でくくられることに不満を感じるという意見も寄せられています。

こどおじ」「こどおば」問題を扱う場合、「実家から出たいのに出られない」ケース(経済問題など)と、「出られるけど、あえて出ていない」ケースを区別して考える必要があるかもしれません。

●家事が苦手で「こどおば」になった40代公務員

地方公務員の渡辺さん(40代女性)は、父親の持ち家で、60代の両親と暮らしています。

学校卒業後に一人暮らしもしましたが、仕事に馴染めず、生活が荒んだことから、2年もたずに実家に戻りました。

「両親からは出て行けとは言われたことがありません。一人暮らしの時の生活があまりに酷かったからかもしれません。家事がままならないので、望んで実家に住んでいます」

ほとんど交際経験がなく、結婚は考えていません。年収は650万円です。そこから、1カ月の食費として5万円を渡しています。

3年前には、仕事を引退した父親の体が不自由になったそうです。

主婦の母親に心配をかけてばかりで申し訳ないと話す渡辺さんですが、「将来両親が亡くなった時に、姉との相続で家を失うのではないかと、内心思うことはあります」との不安も漏らします。

●寂しい、虚しい。親と死別して1人になった「こどおじ

一緒に暮らしていた姉は結婚して出て行き、伯母や両親とは死別。父親が約3年前に亡くなってから、自分のほか誰もいなくなった生家で暮らす塾講師の高木さん(40代男性)は、交際も結婚も一切しないまま、40代になった「こどおじ」です。

大卒後、就職に失敗し、警備員などを勤めたのちに、非正規雇用で20年以上、塾講師をしています。年収はおよそ300万円です。

家族がみんな健在だったころは、末っ子の高木さんには部屋がなかったので、一人暮らしを考えたこともあったそうです。

結局は家を出る必要性を見出すことができませんでしたが、理由を重ねてたずねると、「あえて言うなら、自信がなかった」と説明してくれました。

「バイトや派遣社員として働いてもミスして注意されてばかり。直そうとしても思うように直らずもどかしかったです。父からも『お前みたいなのが一人暮らしなんてできるわけがない』と言われていました」

結果的には、独身のまま、「自分だけの空間」を手に入れました。それでも、「もっと自由や快適さが得られるものだと思っていました。ですが、実際に感じているのは寂しさや虚しさでした」

非正規の不安定さや、孤独な生活に不安を感じているといいます。

「仕事面では、少子化となる世の中で学習塾が生き延びられるのかという不安があります。生活面では、自分に何かあった場合、自分を養ってくれたり、看取ったりしてくれる人がいるのかという不安があります」

自信をつけるため、収入を増やすために、入会した複数の自己啓発セミナーの費用がかさみ、250万円程度の借金があることも不安の一因です。

●3人の子どもがみんな家にいる

こどおじ」の親にも悩みがあるようです。

原田さん(60代女性)は、夫と、3人の子ども(長男、長女、二女のいずれも30代)と孫と暮らしています。

夫と離婚した長女は、孫と一緒に戻ってきました。二女は大学卒業後、コンビニのアルバイトなどをしていましたが、今では引きこもり状態だそうです。

純粋な「こどおじ」は、仕事に打ち込む日々を送る未婚の長男です。

「長男は、社長に見込まれ多忙な日々を送っており、とても結婚など余裕がないと申します。

私たち夫婦は、2人だけのゆったりした生活をする予定が、3世代同居ですが、老後はほど遠く、子どもの衣食住を賄っている状況です。

コロナ禍にあって独居生活者の訃報を聞くと、わが家は、安心安全な生活を送れていると思いますが、わが子の今後を憂えてもおります。親に支えられている事を自覚し、物心両面の自立を望んで止みません」

今の若者世代と比較して、やりたいことはなんでもできたという高度経済成長期を経験した自分たち親世代は恵まれていたと振り返ります。

30代の子どもたちと、孫の衣食住のすべてのケアに奮闘する日々にも、「子の幸せを切に願うのみでおります」

●我が家に引っ越してきた「招かれざるこどおじ

最後に、義理の親の面倒をみたところ、その家の「こどおじ」もくっついてきたことに苦悩する望月さん(40代女性)のケースを紹介します。

望月さん夫婦が新居を建てたところ、夫が義理の両親を引き取りました。その際、義母が「1人にするのはかわいそう」と言って、夫の弟を連れてきたといいます。

実家から一度も出たことのない「こどおじ」の義弟は、飲食店でアルバイトをしていますが、実家にお金を入れることは一切なかったそうです。

「この家でも、お金も入れず労働力も貸さないので、私の負担が実質増えました」

出て行ってほしいと直接伝えたこともありますが、望月さんの意見は通りません。

「近くのアパートに住むことをすすめても、義母が立ちはだかりました。夫も『義弟が決めれば』という感じで身内びいきです。

義両親が亡くなったら義弟と夫のわがままと家事と老後の面倒を見なきゃならないと思うとゾッとします」

同世代のこどおじの世話にモヤモヤしている人は、望月さんのほかにもいるのでしょうか。

結婚願望なし、仕事あっても将来に不安…自分で選んだ実家暮らし「子ども部屋おじさん」の実態