富野由悠季氏の最新作、劇場版Gのレコンギスタ III」「宇宙からの遺産」が公開されている。いわゆるダイジェスト版ではなく、テレビの素材を活用した新しいコンセプトの映画である。それに比べると、2005年5月に公開された「機動戦士ZガンダムI 星を継ぐ者」は、テレビ版の「Zガンダム」(1985年)で試みられた物語上の意図を、より正確に伝えようとした苦心した跡がうかがえる。テレビ版と同じシーンでありながら、まったく新たに作画されたシーンを例にあげて検証してみたい。

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「ただ座って話すだけ」の芝居は、いくらでも単調に見せることができる


地球連邦軍内のエリート組織・ティターンズに抵抗するエゥーゴに加わったカミーユ・ビダン。しかしカミーユは、戦いの中で母と父を続けざまに目の前で失ってしまう。
その直後、カミーユエゥーゴの旗艦・アーガマ休憩室で、クワトロ・バジーナ大尉、レコア・ロンド、ティターンズを裏切ってエゥーゴに参加したエマ・シーンらと会話する。会話の要点は、以下だ。

●仕事にかまけて、自分を無視する両親にカミーユは強い不満を持っていた。
シャア・アズナブルのことが話題に出るが、カミーユシャアに批判的である。

人物の手前に別の人物を配置することで、関係性を見せたり隠したりする


以下、「○○なめ」とは、○○というキャラクター後ろ姿を画面手前に置く(なめる)構図のこと。

1.レコアに右腕を支えられて、疲弊したカミーユ休憩室のソファに座る。その手前ではクワトロコーヒーを飲んでおり、「冷たい言い方だが、ティターンズとはああいうものだ」とカミーユに話しかける。
2.レコア、ソファ横のコンソールに手を伸ばして、休憩室の壁面映像を調整する。ちらっとカミーユのほうを見る。
3.ソファにもたれて、苦しげに息をしているカミーユ。画面外から「よろしいかしら?」とエマの声がして、クワトロが「どうぞ」と立ち上がって、座る。カミーユ、ソファから身を起こす。レコアがエマに話しかける声が、画面外から聞こえる。
4.レコアなめ、歩いてきて座るエマ。座るなり、クワトロのほうを向いて「私をスパイだとお思いなんでしょう?」と話しかける。レコアも、クワトロのほうを見る。カメラは、エマにズームで寄る。
5.エマなめ、レコア、カミーユクワトロカメラは、クワトロのほうへPANする。
6.エマ、クワトロの言葉を受けてソファにもたれる。クワトロとの会話が続いており、画面外からの「カミーユ君が体験した」というクワトロの台詞に反応して、エマは「え、ええ」と、とまどいがちにカミーユへ目を向ける。
7.エマなめ、カミーユカミーユは無言でうつむいており、エマはカミーユではなく、クワトロとの話を続ける。
8.うつむいて、手を組んでいるカミーユ。画面外ではエマのクワトロへ向けた台詞が続いている。カミーユは目を開き、上半身を起こして、「頭だけで考えていたって、体が動くもんか」と会話に割り込む。
9.エマはとまどいがちに「そう? そういうものですか?」と、ソファにもたれる。
10.カミーユアップ。「地球育ちの人が、宇宙で戦うなんて……ハアーッ」と大きく息をする。クワトロの手が画面外からのびて、カミーユの肩を抱く。
11.エマなめ、カミーユクワトロカミーユの肩を抱きながら、クワトロはエマに話しかける。カミーユ、「戦争がなくったって、父は愛人をつくったし……」と話しはじめる。
12.カミーユの横顔、アップ。奥にレコアがいる。カミーユの肩を抱いていたクワトロの手が、画面外へアウトする。両親のことを話しつづけるカミーユ。レコアはカミーユから画面外のエマに視線を移し、カメラPANしてレコアの視線を追う。
13.カミーユなめエマ。エマ、レコアからカミーユへと視線を移す。
14.奥からレコア、カミーユクワトロ。話しながら、カミーユは身を乗り出して、「子どもはね、親に無視されちゃたまんないんです」とクワトロに向かって言った後、「ハアッ」と体を崩し、レコアがカミーユの肩を抱く。
15.カミーユの肩を抱くレコアなめ、エマ。「シャア・アズナブルという人がいましたよね」と、クワトロのほうを向く。カメラクワトロのほうへPANする。
16.エマ、バストショット。「キャスバルダイクンの別名ですよね」と、クワトロとの会話を続ける。
17.激しく息をするカミーユを、レコアが抱いている。
18.エマのアップ、ザビ家の話を続ける。
19.エマなめ、レコアに抱かれて荒く息をするカミーユクワトロカメラクワトロへとPANする。「そのときなんだろ? キャスバルシャアとかたって、父の恨みを晴らそうとした」と、クワトロカミーユのほうを向く。
20.エマのアップ、「カミーユ君は知っていて?」と、カミーユのほうを見る。
21.レコアに抱かれているカミーユ、レコアから身を離して、「知ってますよ、有名なんだから。でもあの人は、ひとりで組織に対抗して敗れたバカなんです」と、尻のポケットに手を回す。
22.クワトロミディアムショット。「ふん、正確な評論だな」と、カミーユに答える。
23.クワトロなめ、カミーユ、奥にレコア。カミーユは「自己破滅型なんですよ、あの人」と、ハンカチを鼻に当てる。クワトロは「そうなのか? シャアって」と、エマのほうを見る。
24.エマのアップ。エマ、シャアの話を続けながら、レコアを見る。
25.レコアのアップ。「ずっとバカだったのよ。ね、カミーユ」と、カミーユに話しかける。カメラカミーユへとPANする。カミーユは「え? そうですよ」と、クワトロのほうを見る。
26.「めでたいんだろうな」とクワトロは立ち上がり、「どうです、エマ中尉。食事、ご一緒にしませんか」と、エマを見る。
27.エマも立ち上がり、「え、ええ。レコア・ロンド少尉は?」とレコアのほうを見る。
28.レコア立ち上がり、「付き合うわよ」。座ったままのカミーユを見て「カミーユ君は?」と話しかける。「ここにいちゃ、いけませんか?」と答えるカミーユを残して、レコアは「別に怒られないわ」と、画面外へ歩いていく。カミーユは、その場にうずくまる。画面外ではクワトロ、レコア、エマの会話が続く。「明日には、地球に降ります」というレコアの言葉を聞いて、カミーユは顔を上げる。
29.カミーユなめ、クワトロとレコアが話している。「ジャブローって、地球連邦軍の本拠地があるところだろう?」と、カミーユの心の声。カミーユ、「あの」と立ち上がる。レコアは「聞いていたの?」と驚く。
30.カミーユアップ。「いえ、地球に降りちゃうんですか、レコアさん?」と聞く。
31.レコアとクワトロ、画面外のカミーユと話す。ドアが開いて、外にいたエマが2人の様子を不審がる。レコアは画面外へ出ていきながら「大尉にお尻をさわられてたの」と冗談を言い、エマは「ああ」と笑う。クワトロカミーユに「違うぞ」と告げて、画面から出ていく。
32.ひとり残されたカミーユ、ソファに座る。カメラは、少しだけズームカミーユに寄る。

ほぼ4分間、計32カットで構成されている。ちなみに、テレビの同じシーンは5分間で42カットある。
映画版では、両親を殺された衝撃と戦うカミーユを、なるべくフレーム内にとらえようとする。しかし、1ではクワトロコーヒーカップテーブルに置く芝居により、カミーユの姿が隠れてしまう。2でも、エマを迎えるクワトロの動きによって、一瞬だがカミーユは隠れてしまう。7.でも、エマが話すうちに彼女の頭でカミーユがさえぎられてしまう。11では、クワトロに肩を抱かれたカミーユの顔は、エマに完全に隠れてしまっている。カミーユだけをストレートに捉えたショットは8、10、28のカット終わり、30、32と少ない。しかも、28のようにカミーユだけがひとり画面内に残されたとしても、画面外では大人たちの会話が続く。すなわち、カミーユはなかなかひとりになれず、常に大人たちと関わらざるを得ないのだ。


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「機動戦士ZガンダムI 星を継ぐ者」は凝った構図とカッティングで、カミーユの苦悩を覆い隠す【懐かしアニメ回顧録第80回】