本当に興味深いことに、世間にはさまざまな人がいます。たとえば、女の子同士の想いがぶつかりあう様子に、“感情”の二文字以外にはそれを言い表す言葉を見つけられないほど、特別な感動を抱いてしまう人。そうした彼女たちの心の衝突が、好きな男の子を取り合うことによるものか。あるいはお互いを想い合うからこそ、ふとした瞬間に心がすれ違ってしまったことで生まれるものか。その理由も十人十色です。

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特に、後者の理由による女の子同士の関係性は、“百合”として視聴者に持てはやされることがあります。ただ、時に彼女たちの心のやりとりは、そういった言葉に収まらぬほど、広く深い意味を備えています。

と同時に、特有の語気の強さや、心の脆い部分を正確無比に突き刺す具体的な言葉選び、時に青くもどかしく、揺れに揺れる心情描写などが見られること──。男女の性別間に優劣はないという大前提を踏まえたうえで言いますが、やはり男の子同士の“喧嘩”と比較して、そうした機微を垣間見る機会が多いように思いますが、いかがでしょうか。

だからこそ、女の子同士の想いがぶつかりあうシーンは、時に繊細すぎるまでの心情描写に結びつき、観るものの心を震えさせるのかもしれません。

 

前置きが長くなりましたが、本稿のテーマは“女の子同士の心の衝突”。これから紹介する5本のアニメを振り返りながら、どのような女の子の想いがあなたの心を“刺して”くるのか。一緒に考えてみませんか。

 

ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

 

まずは「ラブライブ!」シリーズ第3作として、2022年内に第2期放送も予定されているフレッシュなこちらの作品から。本作の特徴は、これまでの「ラブライブ!」シリーズに見られた“全体主義”から一定の距離を置いていること。スクールアイドルとして活動するメンバー9名それぞれが、いい意味で衣装も楽曲の世界観もバラバラな活動をすることで、近年の“ダイバーシティ”的な考え方に根ざした精神性を感じさせます。

 

なかでも、幼なじみ同士の上原歩夢(CV:大西亜玖璃)はスクールアイドル高咲侑(CV:矢野妃菜喜)は彼女のサポート役として、それぞれ同好会に加入します。歩夢は活動中も常に侑の存在を意識し、その言動に一喜一憂します。

しかし、気づけば侑は他メンバーとも信頼を深めていき、いつしか“自分だけの侑ちゃん”だった存在が離れていくような切なさを抱きます。そんな歩夢の姿を切実な乙女の姿ととらえるか。あるいは“愛情が重い”ととらえるかは人それぞれ

 

問題は、歩夢の想いが第11話を迎え、いよいよ爆発したこと。侑は当初、歩夢を自室に招き、自身の新たな夢としてメンバーの歌う楽曲を作曲したいと明かすつもりでした。ただ、歩夢は侑の自室に自分の知らないピアノがあることに困惑。結果的に、侑をベッドに押し倒し、その想いの表れとして、彼女の足をみずからのそれで挟み込みます(ちなみに押し倒した際、歩夢のスマホが侑のスマホに重なる描写もありました)。

 

前述したすれ違いは、第1期のゴールとして描かれた“スクールアイドルフェスティバル”開催を通して、歩夢が成長を重ね、侑と“一緒にいるだけが仲間じゃない”と理解することで無事に解消されました。そんな彼女たちは、今後放送される第2期でどんな関係性へと発展するのでしょうか。

いわゆる相思相愛な“百合”的でありながら、心の衝突についてもわかりやすく描かれた、一度で二度楽しめるオススメ作品です。

 

響け!ユーフォニアム

“女の子同士の心の衝突”というテーマを語るうえで、絶対に欠かせないのがこちらの作品。京都府立北宇治高校の吹奏楽部が全国優勝を目指し、部員同士が本気でぶつかりあい、切磋琢磨する様子が描かれています。

 

ここで、皆さんの学生時代を思い返してみてほしいのですが、吹奏楽部はなぜか女子部員が多く、それゆえに男子中心の部活にはない複雑な人間関係や、拘束時間の長さからくる濃密すぎる関係性からくる衝突が往々にしてあるようでして、実際に放課後の廊下で泣いている吹奏楽部所属のクラスメイトを見た……なんて経験のある方もいるのではないでしょうか。

それは、北宇治高校でも同様です。

 

同校の吹奏楽部員は、自身の演奏パートと全国優勝にかける想いが、他校を凌ぐほどに圧倒的。加えて、個性豊かで自我の強いキャラクターが揃いに揃っていることから、部員同士が“部活を想ってこそ”な衝突が絶えません。

 

あらすじを交えて登場人物を簡単に紹介すると、まず物語は新入生として入部した主人公・黄前久美子(CV:黒沢ともよ)と、同級生・高坂麗奈(CV:安済知佳)の2人を中心に描かれます。天才的なトランペット演奏技術を持つ麗奈が吹奏楽部に現れたことで、同じトランペット奏者で3年生の中世古香織(CV:茅原実里)はコンクールのソロパート演奏から外れることとなります。そんな香織の努力を近くで見てきたからこそ、麗奈と対立してしまう2年生の吉川優子(CV:山岡ゆり)らと麗奈たちの複雑な関係性は、第1期における最大の課題として立ちはだかります。

 

また、常に冷静かつ時に冷徹で、自身の本心を絶対に明かさない副部長・田中あすか(CV:寿美菜子)が、家庭の事情から吹奏楽部を退部させられそうになった際は、彼女を慕う久美子が 「もっと自分の想いに素直になってほしい」と、後輩らしくわがままながらも人として正しい形で想いを爆発させたことも。

    

そのほか、かつて吹奏楽部を退部した2年生・傘木希美(CV:東山奈央)と部に残った鎧塚みぞれ(CV:種﨑敦美)の2人の問題も部活全体を巻き込み、ひと悶着というかわいい言葉では済まないような事態に発展。結果的に、肝心のみぞれは希美に誰よりも想いを寄せていたゆえに、過去に自身から離れていった希美との記憶をトラウマ化していたことがわかり、両者が良好な関係性に落ち着きます。「響け!ユーフォニアム」は本当に、登場人物らの相関図のどこを切り取っても、“相手を想いやるからこそのすれ違い”の矢印を見出せてしまう作品です。

    

加えて、「この人の鳴らす音が好き」「この人にしか鳴らせない音がある」という、先輩後輩の疑似姉弟関係に基づく、あまりにもリアルな吹奏楽部の在り様に接近した特有のセリフ回しは、視聴者の心をこれ以上なくつかんできます。本当に恐ろしい作品ですよ、「響け!ユーフォニアム」は……。

 

また、前述した希美とみぞれのその後をフィーチャーした映画作品「リズと青い鳥」は、スピンオフ作品として大成功を収めた事例です。劇中では、自身の大切な人(=青い鳥)と離れ離れになる決意を描いた切ない童話「リズと青い鳥」になぞらえて、みぞれをリズ、彼女が慕う希美を青い鳥に重ねるように物語が進行(これがこの作品の最大の伏線なのですが)。そこで繊細に紡がれる2人の心情描写には、本当に目を見張るものがあります。こうした少女×青春軸のアニメ作品を作らせたら右に出る者はいない山田尚子監督。改めて、その手腕にはいつまでも“勝てない”と痛感させられますね。

 

「とある科学の超電磁砲」シリーズ

ゼロ年代より不動の人気を誇り続ける「とある科学の超電磁砲」シリーズ。2020年1月~9月には、第3期「とある科学の超電磁砲T」がオンエアされました。

本作の舞台は東京西部に広がる、超能力教育を目的に造られた“学園都市”。この街で最上位クラスの能力を誇り、“超電磁砲レールガン)”の異名を持つ主人公・御坂美琴(CV:佐藤利奈)をはじめ、彼女の後輩として、街の風紀を守る“風紀委員(ジャッジメント)”の白井黒子(CV:新井里美)、その同僚の初春飾利(CV:豊崎愛生)、初春の親友である佐天涙子(CV:伊藤かな恵)の4名が、メインキャラクターとして登場します。

 

そもそも、御坂と黒子が通う学校は、学園都市屈指のお嬢様名門校・常盤台中学。その周囲での出来事を描く以上、必然的に女の子同士のやりとりも多く描かれます。また、本作では各キャラクターが持つ固有の超能力をもってさまざまな事件を解決に導くいっぽう、自身の能力にコンプレックスを抱いてしまうこともあります。初春や、とりわけ佐天にはそのことで自身を苦しめるエピソードもありました。

 

そんな彼女たちの想いのぶつかりあいを楽しむにあたり、第1期5話は特にオススメ。同話では、黒子と初春が車上荒らしとの対戦時に黒子が独断専行をしたことで、彼女の身を案じた初春が逆に敵側から攻撃される事態に陥ります。

 

 

この一件は激しい言い合いにまで発展し、黒子と初春は一時的な喧嘩別れ状態に。そんな折、黒子は御坂、初春は佐天に対して、自分たちが過去のある出来事を機に、“2人で一人前の風紀委員になる”という約束をしていたことを明かします(実は、黒子がこの約束を忘れていたことも、ここでの喧嘩の発端なのですが)。その話をしていくうちに、黒子と初春はそれぞれ、先ほどの衝突はお互いを想い合っていたからだと自然と気がつき、件の車上荒らしに立ち向かうべくいま一度街に飛び出します。すると示し合わせたかのように、大切な“相棒”が現れ……。時にぶつかり合いながらも、ゆっくりと歩みを進めていく黒子と初春の青春模様。彼女たちを結ぶ深いつながりをうかがい知れる素晴らしい回でした。

 

また第23話では、御坂が大きな問題に直面した際、先ほどの黒子と同様にひとりで突っ走ろうとする場面も。その際、今度は佐天が「いま、あなたの目には何が見えていますか?」と、御坂を心配そうに見つめる黒子や初春の存在に気づかせたシーンもまた、シリーズ屈指の見どころです。自身の能力レベルの高さゆえに、周囲に頼ることを知らなかった御坂も、友人の存在によって成長を重ねるのでした。

 

以上のように、とにかく相手を想いやる姿勢をていねいに描き上げた本作。超能力があってもなくとも、彼女たちはいい意味でただの“大切なともだち”として信頼を築き続ける。学園物アニメとしても傑作のひとつではないでしょうか。

余談ですが、学園都市は近未来的なデザインでありながら、実在する東京都立川市をモチーフとすることで、視聴者側もより作品にのめりこめたのかもしれません。街の雰囲気をリアルに感じることで、キャラクターたちのリアリティも増し、その結果として彼女たちの心情にも深く共感できるのだと思われます。それに、学園都市という言葉の響き、いつ聞いてもワクワクしてしますよね。

 

IS<インフィニット・ストラトス>

ここからは少し趣向を変えて、2作品にわたり“ハーレムアニメ”に焦点を当てていきます。女の子同士の想いの衝突は、好きな男の子を奪いあう際など、純粋な恋のバトルとしても生まれるもの。

まずは、“ハイスピード学園バトルラブコメ”として、女子校に男子がひとりで入学、世話焼き役のツンデレ幼なじみが登場、謎の転校生の出現など、ハーレムアニメらしい展開を詰め込んだ教科書的な作品として「IS<インフィニット・ストラトス>」を見ていきましょう。

 

舞台は、女性しか操縦できない飛行パワードスーツIS<インフィニット・ストラトス>が存在する世界。主人公の織斑一夏(CV:内山昂輝)は、ISを操れる世界でただひとりの男性として、IS操縦者を育成する実質的な女子校・IS学園に入学。肝心な時にしか頼りにならない性格で、登場するヒロインを次々に虜にしていきます。

 

なかでもオンエア当時に絶大な人気を誇ったヒロインが、花澤香菜さん演じるシャルル・デュノア。最初はISを操縦できる2人目の男性として登場するも、実は女の子だったという男装の美少女。自身の素性を明かすと、一夏もシャルルの女の子っぽさを意識し、ぐっと心を惹かれる場面も見られたほか、彼女の発した「一夏のエッチ」というセリフは、そのかわいらしいビジュアルも込みで、当時のアニメファンの話題を総ざらいしたほどでした(ちなみに筆者は当時、彼女の着用デザインによく似たアディダスのジャージをフルセットで購入しました)。

 

オススメ回は、IS自体は登場しない第9話。彼らが臨海学校を楽しむ日常回として、水着を買いに出かけた一夏とシャルルを他ヒロインが尾行したり、かつてのライバルだったセシリア・オルコット(CV:ゆかな)からサンオイルを塗ることを要求されたりと、とにかく王道ハーレムアニメらしいドタバタなイベントが尽きないエピソードです。

このように女の子同士の恋のバトルが展開しながらも、どうにもシャルル一強なイメージを崩せなかったような印象がぬぐえません。いかにシャルルのインパクトが強かったかうかがえるというもの。

 

また、作品を通して一夏が恋愛に鈍感であり、ヒロインらの核心に迫ったセリフを必ずと言っていいほど聞き逃すザ・ハーレム主人公的な習性を持っており、視聴者も「なんでそこで聞き逃しちゃうの!?」とツッコミを入れる余地があったことで、彼の境遇を羨ましくてたまらないという感情だけに終始しない、作品としてのエンタメ性が担保されていたように思います。

 

ヨスガノソラ

最後は、2010年代のアニメ史に伝説を残したこちらの作品。

なぜ伝説かというと、このアニメの原作は18歳以上対象の恋愛アドベンチャーゲームで、その原作のニュアンスを見事に取り込んだ作風であり、また原作がルート分岐するアドベンチャーゲームゆえにルートごとに結ばれるヒロインが異なる。そのため、主人公が3~4話ごとに代わる代わるヒロインを“攻略”していくのです。

 

アニメ放送当時の東京都知事が「東京都青少年の健全な育成に関する条例(青少年健全育成条例)」を改正する意志を掲げるタイミングとバッティングしていたことも、筆者としては忘れられないエピソードです。本作のような異性交友を描いた作品への風当たりが強くなるのではないか、とやや気がかりになるようなご時世だったのです。しかし、そんな不安は杞憂だといわんばかりに、男女の関係が発展していく「密めごと」をあまりにも直截的な描写で描いていたことや、それを地上波でオンエアするなど、リアルタイムで観ていたいち視聴者として「革命的すぎる」「ここまでやれるのか……」と、大きく心を揺さぶられました(それでも映像規制はあったため、AT-X以外では黒塗りのシーンも多かったのですが)。

 

物語の舞台は、都市部から離れた片田舎・奥木染。不慮の事故で両親を亡くした春日野悠(CV:下野紘)は、双子の妹・春日野穹(CV:田口宏子)と、父と縁のあるこの地を訪れて、2人きりで生活することに。そこで、かつての幼なじみである天女目瑛(CV:阪田佳代)、新たな友人として、ヴィオラをたしなむお嬢様の渚一葉(CV:小野涼子)らと出会います。

 

“女の子同士の衝突”が目撃されたのは、物語後半のこと。悠を巡り、幼なじみのお姉さん・依媛奈緒(CV:いのくちゆか)と穹が、したたかな“口撃”で、いかに相手を出し抜かんとする恋のバトルを繰り広げるのです。ここでは恋愛アドベンチャーゲームらしく、奈緒と穹のそれぞれの担当回で“分岐ルート”的な描写が設けられたこともありました。複数のエピソードの中で、まったく同じかのように見えるシーンが挟まれても、その後に奈緒が因縁のあった穹と和解するルートもあれば、分岐ルート時点で今度は穹が奈緒をクレバーにやりすごすなど、あえて視聴者の既視感をうまく利用するギミックも見られました。

    

ちなみに穹は物語終盤、悠とは越えてはならぬ一線を越えるのですが、同時に周囲からその関係を知られてしまいます。最終的に2人は、その土地で出会ったヨスガ(=縁)を断ち切り、電車に乗って新たな世界へと旅立つのですが、これは現実世界で新天地に向かっているのか、あるいは天国への道のりなのか……。兄妹が結ばれるエピローグのはかない美しさや、 “白色”を基調としている作品全体の色調を含めて、まるで白昼夢を観ているかのような感慨を味わえる一作です。

 

 

<ライター紹介>

一条皓太(いちじょうこうた

 

フリーライター。1995年生まれ。東京とベルリンで育つ。ポテンシャルとバイブスだけは神に愛された級のシティボーイ。主に、アニメ/声優さん楽曲とヒップホップ、高校生たちの恋愛模様についての想いを綴ることで、寒い夜や暗い日々にも灯りをともしている。

Twitter:@kota_ichijo


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ぶつかり合うほどに燃え上がる! 「女子同士の衝突アニメ」5選!【アキバ総研ライターが選ぶ、アニメ三昧セレクション 第14回】