「黒服の男性に案内され、ソファに座ってしばらく待つとスタッフの女性が席のところへ歩いて来ます。30年以上通っていますが、この瞬間が一番ドキドキしますね。暗い店内では音楽が大音量で流れていて、ミラーボールがたまに反射して眩しいんですよ」(ピンサロ常連の50代男性)(全2回の1回め/後編を読む)

 ピンクサロン(ピンサロ)は、法的にはキャバクラなどと同じ「店員の接待が可能な飲食店」である。店内での流れは以下のようなものだ。

 来店した男性は申し訳程度のついたてに仕切られた席に誘導されると、そこへ店員の女性が近寄り、2人はすぐに“自由恋愛”に落ちる。すぐに2人は体を絡め女性は服を脱ぎ始め男性の服も脱がされていく。行為はエスカレートしていくが本番行為はなく、客の男性は女性の口や手の中で果てる——。

 男性が店に払う金額の相場は30分3000~7000円ほど。軽食やアルコールメニューもあるが、頼む客はほとんどいない。

 訪れた男性客と女性スタッフが“自由恋愛”で性交に至るソープランドなどと異なり、低料金の風俗として全国の繁華街に数多く存在している。

警視庁が踏み切った“異例”の摘発

 警視庁は今年5月から都内のピンサロを2店舗相次いで摘発した。この摘発は「極めて異例のものだった」と全国紙社会部記者が説明する。

「摘発されたのは、上野の『マジックバナナ』と、巣鴨駅近くの『曙』の2店鋪です。5月に行われた『マジックバナナ』の摘発では、店の経営者や店長、女性従業員、さらに客を入れた計6人が公然わいせつ容疑で逮捕されました。7月に行われた『曙』の摘発では、女性経営者らが同容疑で逮捕されています。『他人に見える場所でわいせつな行為をしていた』というのが摘発の理由です。ピンサロと言う業態が生まれてから50年以上が経ちますが、警視庁がピンサロ店に対して、公然わいせつ罪を適用して摘発したのは史上初のことです」

マジックバナナ」の関係者で、警視庁に逮捕された男性は匿名を条件にこう話す。

5月22日の昼過ぎに、突然10人以上の警察官が入ってきました。お客さんは少ない時間帯ですが、数人はいらっしゃいました。警察官に『(周りの人から)脱いでいるところが見えますよね、公然わいせつに該当します』と言われ、その場で逮捕されました。この業態はどこの店でも同じですし、うちはむしろ席の間の仕切りなども1メートルほどあり、見えにくい方なのですが……」

 当時、店内には数名の客がおり、客と応対していたスタッフの女性は全裸だったという。

「たしかに女の子が全裸になることはありますが、この店に限ったことではありません。そもそも長いこと今の形で営業してきましたから。おそらくうちの店が悪質だったということではなく、東京オリンピックを控えた警視庁の“一罰百戒”的なパフォーマンスだったのではないでしょうか。ついてなかった、としか思えません」(男性関係者)

 摘発を担当した警視庁の保安課は摘発の理由として「全裸でサービスするよう店側が女性に指示していた」、「店内が明るく周囲から見えやすい状況だった」と発表し、摘発された2店舗の“悪質性”を強調しているという。前出の社会部記者が解説する。

東京オリンピックの開催にあわせて、警視庁が都内の繁華街を中心に『盛り場対策』に力を入れているのは事実です。今回のピンサロ摘発もその一環で、ある幹部は『目玉施策のひとつだ』と発言していました。ピンサロ店が、飲食店の許可をとっているものの実態が風俗サービスを提供している店であることは、警視庁は当然百も承知です。公然わいせつ罪で摘発することはいつでもできましたが、これまでは“グレーゾーンにあたる”として黙認していました。上層部の方針で一気に“見せしめ”に方針転換したんです」

5年で売り上げ14億6000万円の人気店

 上野の風俗関係者によると、「マジックバナナ」は上野駅周辺で唯一営業している人気ピンサロ店だった。、これまでも何度も行政指導を受けていたが、そのたびに店名を変えるなどして、営業を続けていた。しかし摘発後は店のシャッターは閉まったままで営業が再開される気配はないという。

「『マジックバナナ』の売上は、ここ5年ほどで約14億6000万円にのぼっていたようです。ピンサロ自体が斜陽産業なことに加えてコロナ禍もありましたが、同店だけは行列ができることもある人気ぶりでした。上野は自粛要請を無視して営業していた店舗が多かったので、周囲で食事や酒を飲んで盛り上がった客がそのままの勢いで来店してたのかもしれません」(同記者)

 摘発されたもう1店舗の「曙」も巣鴨では人気の店だった。利用経験がある男性はこう語る。

「巣鴨のピンサロは“安かろう悪かろう”という店が多いけれど、『曙』は優良店だったので常連も多く抱えていましたね」

「客も逮捕されるのか」

 摘発ではピンサロ経営者や女性スタッフだけでなく男性客も逮捕された。ネット上では「客も逮捕されるのか」「運が悪すぎる」などと言った書き込みが多数投稿されるなど驚きをもって受け止められた。

 風営法に詳しい行政書士の前場亮氏は、ピンサロ業界の今後をこう予測する。

「ピンサロはキャバクラなどと同じ風俗営業1号の許可で営業しているため、個室が作れません。そんな中で堂々と卑猥行為が行われており、公然わいせつ罪は常に成立している状態です。なので、そもそも業態がグレーというより完全にブラックと言えるでしょう。経営者たちは、今回の摘発でよりリスクを感じているでしょう」

#2へつづく)

“花びら大回転”を生んだあの風俗が東京五輪で絶滅の危機「風俗嫌い」ノンキャリ女性警察署長が“トドメの一撃” へ続く

(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))

大塚駅周辺のピンクサロン Ⓒ文藝春秋/撮影・上田康太郎