五輪で感染する人が増えています。この問題を考えてみましょう。

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 7月23日、開会式をどのように行ったのか、私は公務(コロナウイルスのゲノム検索などです)缶詰の間にすべてが終わり、全く状況を知りませんが、大会初日の24日の朝時点で、国内と海外合わせて17人の新たな感染が明らかになっています。

 内訳は、海外からの選手が1人、海外からの大会関係者が1人、国内の委託業者14人、合わせて17人という、残り1人がよく分からない発表になっている。

 7月1日に大会組織委員会が発表を始めてからの累計感染者数は123人に上るとのこと、決して少ない数ではありません。

 東京五輪の選手総数は1万1000人ほど、パラリンピックが4400人ほど、来日する関係者を含めた総数は5万4000人程度、これに日本国内スタッフをどこまで数えるか分かりませんが、仮に母数を10万と考えると、100人の罹患者は0.1%のオーダー。

 他方、日本国内の2021年7月時点での罹患者は3万5000人ほどで、粗く人口比で考えると

3.5万/1億人 = 0.035%

 言いたいことがお分かりいただけるでしょうか? 

国内よりウイルス濃厚な「バブル」?

 当局は今回のオリンピックを「バブル方式」つまり泡の中に国外からの来訪者を封じ込め、仮に中で感染があっても外に漏れないとしています。

「バブル」というのは、バブル経済などではなく、2020年7月ディズニーワールドに180億円を投じて作られたアメリカプロバスケットボールリーグ、NBAの隔離施設に由来する名前とのこと。

 言うまでもありませんが、この「バブル」そのものが、清浄な環境でなければなりません。だから空港で水際対策を取っている・・・はずでした。

 さて、五輪参加者は、入念にPCRで水際抑止し、閉鎖空間で競技と事前にアナウンスされていたわけですが、蓋を開けてみると、実際はどうだったか。

 開会式の時点ですでに「五輪小空間」は、日本全国よりもコロナ罹患率が高いかもしれない。つまり「バブル内の方が 日本国より三密的」という、ありうべからざる状況になっている懸念がある。

 我々物理出身者は「フェルミ算」とよく言います。数字が出てくると簡単な暗算で「評価」する生活習慣を持ちます。

 それに従って暗算してみると、仮に五輪スタッフが20万人いたとしても、すでに感染者123人というのは、「国内感染率より高いじゃん」と即座に気づきます。当然びっくりするわけです。

 これから7月末、8月第1週にかけて、日本国内の感染「第5波」は、まず間違いなく過去最高の罹患者数を記録するでしょう。

 わざわざそれに歩調を合わせて(というのは、舛添要一さんによるとテレビ放送の権利料ビジネスの都合だそうです)、夏風邪ピーク期の日本でオリンピックを開催する。

 このとき、この「三密バブル」を含め、「五輪で感染する」という意味を複数の観点から考えてみたいと思います。

ウイルスはどこから来たか?

 スポーツと言っても様々です。テニスのように、握手以外は広いコートの端と端でラリーの応酬という競技もありますし、柔道のようにフルコンタクトで組み合う競技もある。

 サッカーなどは広いフィールドを駆け回るようにも思いますが、ボールの奪い合いでは飛び散る互いの汗がかかるような肉弾戦も展開されます。

 すべての競技を「一律」の「コロナ対策」で扱うことは、科学的には無理があるように思います。しかし、競技ごとの対策を細かく記すものは十分には確認できませんでした。

 あるのは「PCR」。でも、これは何度も書いているように、選手や関係者の「感染」を調べる検査ではありません。

 単に検体の中に含まれている遺伝子を増幅するというだけの、基礎医学的な実験手法であって、陰性と出た=即無罪放免、感染なし、などとは到底言えないものです。

 だから、幾度も入念に検体を採取して・・・と神経質にやっているわけですが、それでも取り漏らしはあり、何にしろ、選手の感染は毎日報じられています。

 7月21日には、初めて「感染による棄権」が発表されました。

 英国の五輪委員会は、女子クレー射撃、現在世界1位のアンバー・ヒル選手が、リオデジャネイロ6位の雪辱をかけて来日したものの、競技以前にコロナの来襲で、大会に参加できなくなったことを発表しました。

 クレー射撃という種目が、コロナ感染に関して、どのような特有のリスクを持つのか、あるいは持たないのか、私には分かりません。

 しかし、少なくとも選手、それも本命視されていた世界1位の選手が、ゲームではなくコロナで不戦敗という事態になっている。

 ここで注意しておく必要があるのは、同選手が来日しなかったとしたら、いまコロナに感染していない可能性が高いという事実です。加えて言うなら、英国はワクチン接種先進国です。

 それが、デルタ株、デルタプラス株の来襲で、感染率が再度急上昇しているわけですが、アスリートたちの「ワクチン接種率」という、もう一つ未知の要素があることを改めて私たちに突きつけているように思います。

 つまり、オリンピック・アスリートたちは「競技の最高パフォーマンス」を優先してコロナワクチンを接種していないハイリスク集団である可能性があるという、いままで注意されてこなかった側面があります。

 当然ながらJOCは、来日五輪選手や五輪関係者の「ワクチン既接種率」などを発表していません。そもそも、把握もしていない可能性があるでしょう。

 もう一つ別の競技の例を考えてみます。

 7月21日、チリ五輪委員会は、テコンドーの同国女子57キロ級代表、フェルナンダ・アギーレ選手が、多分強化合宿があったのでしょう、ウズベキスタンから来日し、入国に際してPCRで陽性、選手村には向かわず、そのまま隔離されたという、何とも悲しいニュースを発表しました。

 この場合は、ウズベキスタンでウイルスをもらい、成田でそれが発覚、国内で隔離という状態、かなり可哀そうなことになっている。

 と思ったら、テコンドーフルコンタクト競技、すぐまた陽性者が出ました。

 翌7月22日オランダ五輪委員会は、女子テコンドー67キロ級代表のレシュミー・オーミンク選手は開会式前日のPCRで陽性が出、「欠場」が決まったことを発表しました。

「ひざのけがも乗り越えて、ここまでやってきたのに・・・」

「突然終わり・・・」

 31歳のオーミンク選手が「これが私のキャリアの終幕」と述べるのを見、心苦しく思わざるを得ません。

ウイルス対策にプライバシーは通用するか?

 ここまで書いて、お気づきかと思いますが、ヒル選手は「英国委員会」、アギーレ選手は「チリ委員会」、オーミンク選手は「オランダ委員会」、各々の国の五輪委員会から発表があって、私たちはその実情に接しています。

 これに対して、東京オリパラ組織委員会は

「新たに陽性者となった選手について<国名や競技名などはプライバシーの観点から公開しない>」と表明している。

 これはダメです。社会的な意味で対策が立てられない。

 そもそも競技が始まれば、いるはずの選手がいないわけですから、そんなものすぐに分かります

 そしてこのSNSが高度に発達した時代、グローバル社会に棄権した選手名が知れるのはしょせん時間の問題です。それを日本の組織委員会としては「プライバシーの観点から」発表しないという。

 ここがよく分からない。例えば、テコンドーという競技は「プライバシー」ですか?

 あるいは英国選手団の一員として五輪で来日していることが「プライバシー」?

 用語の使い方が根本的に誤っているという以上に、問題を報道に即時的に流したくないという、典型的な「ワガクニの官公庁」に見られる、官僚的な「収拾策」のように見えます。

 しかし、これは「人のうわさ」の収拾策であって、「ウイルス感染」の収拾策、本質的な事態打開策ではない。

 本来は逆でしょう。

 本当にコロナ感染の事態を収拾したいのであれば、感染者の出た競技関係者、幅広適切に情報共有、さらなる悲劇を繰り返さぬよう、強化した対策を取るべきです。

 こうした「プライバシー重視」体質が、防疫に役立つとは、到底思えません。

 またぞろ小山田圭吾事件」の折の「倫理的に高い活動をしておられると考えている」同様、「高い管理水準で予防に務められているものと認識」か何かしたまま「プライバシー」優先になる。

 もっともらしいように見えて、実は大変ピントの外れた官僚題目を並べ、感染者の出た競技名などを報じず、確実に対策が後手後手になる方向に自ら進めて行く。

 まさに悪循環と言わざるを得ません。

 賢明な選手団は、早々に「選手村などより一般ホテルの方が選手の安全を図れる」と独自行動との報道も目にしました。

 これって何なのでしょう?

 バブル隔離のルールとの関係はよく分かりませんでした。

 そこまで、つまりおかしな「三密バブル」に押し込められるより、日本国内で自衛した方が安全と各国選手団やマネジメントから見られている、大会運営ということになりはしないか?

「こんな状況で五輪を開催したことは、果たして正しい選択だったのか?」と訴える、感染で棄権を余儀なくされた選手の言葉が、脳裏に焼きついて離れません。

 事態の推移を冷静に見守る必要があるでしょう。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  想定内だけどやはり辛辣、韓国メディアが五輪開会式を酷評・嘲笑

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