空港の滑走路といえば、とにかく長くまっすぐ伸びています。大空港ともなれば、これが何本も設置されるため、スペースも広大に。そこで滑走路を円形にする案もありますが、実現の可能性はあるのでしょうか。

そもそも滑走路はどんなものがいいのか

空港の滑走路といえば、とにかく長くまっすぐ伸びています。飛行機で離着陸するときはごく一瞬ですが、一般的に長さは数km単位で、とても気軽に歩ける距離ではありません。多くの便が発着するメガ・エアポートとなれば、同じ方向に何本か滑走路があり、それとは違う向きにまた何本か滑走路が伸びています。それゆえ、必要な敷地も広大です。

旅客機の技術も発達していますし、何本も滑走路を並べるくらいであれば、いっそ道路の「ラウンド・アバウト」のように滑走路を円形にし、離着陸できないのでしょうか。もちろん、今までこういった民間航空用の空港は存在しませんが、実はオランダ航空宇宙センターでは「円形滑走路プロジェクト」の研究が進んでるそうです。

そもそも円形の滑走路で事足りるのでしょうか。ここで旅客機の滑走路に必要な条件から見ていきます。

まず当然のことながらジェット旅客機の離着陸には、“長い”滑走路が必要です。とくに大きな空港を設計する一つの要素として、どのような機種を使用するかを考えます。現在だけでなく、将来就航が想定される機種も含み、それらが無風状態で離陸できるかという観点から滑走路の長さを想定するのです。

この滑走路長を考えるとき、大空港での一般的な基準のひとつに「ジャンボ・ジェット」ことボーイング747の就航、というものがあります。747の長距離路線で乗客を最大に乗せた、最も重い状態での運航を前提に、必要な離陸滑走路長が設定されたケースが多いようです。ちなみに、かつては超音速旅客機コンコルド」の就航が想定されたこともありました。また、離陸決心速度(V1)前で、急遽離陸中止を決断した場合でも、滑走路をオーバーランしないことが求められるため、ギリギリの長さではなく一定のマージンを加えます。

一方で、ジェット旅客機の着陸には、離陸よりは短くても問題はないものの、やはり相応の長い滑走路が必要です。着陸滑走路長については、実はボーイング737エアバスA320といった200席以下のジェット旅客機でも、ボーイング747エアバスA380などの超大型旅客機でも、離陸滑走路長ほど著しい差はないとされています。

着陸速度は、着陸前の機体重量によって決まるのですが、機種によってできるだけ大きな変化が生じないよう設計されています。大きな機種には、強力なエンジンの逆噴射装置を搭載しており、機体の重量を支えるためタイヤの数も多いのでブレーキの効きも良くなります。ANA(全日空)が公表しているデータによると、離陸滑走距離はエアバスA3803470m、ボーイング737-700が1610mと倍以上の差があるのに対し、着陸滑走路距離はA380が2320m、737-700が1520mとなっています。

そのため、たとえば成田空港では、離陸をA滑走路(4000m)、着陸をより短いB滑走路(2500m)にするよう、管制官から指示されることも多いようです。

滑走路設置条件から見る「円形滑走路」

滑走路の配置を決める際、大切なポイントが方角です。設置想定地域の年間の風向きは必ず調査して、滑走路の方向を決定します。原則として、飛行機向かい風の状態で離着陸するからです。

飛行機が空中で浮かんでいるためには、空気との相対速度が重要です。離陸するには、たとえ自動車などで使う「対地速度」が速くても、必要な空気との相対速度(対気速度)が一定に達しなければ離陸できません、このとき最も有利なのは、正面から風を受けることなのです。もちろん、風が後ろから吹いている背風という状態でも、旅客機は運航しなければならない場合がありますが、背風のときには、より長く滑走路を走り、よりスピードを上げて浮き上がらなければいけません。

前出したオランダの「円形滑走路」の計画は、設置スペースが少なくて済むだけでなく、風がどんな方向に吹いていても効率的な方角から着陸できること、また、離陸後に航空路に乗るための旋回などが必要なくなることで、エコな運航や時短を実現できるとうたっています。

一方で、これを実現するには、課題も考えられるでしょう。

まず、航空管制の課題があります。旅客機は原則としてフライトの最初から最後までのほとんどすべての場面において、管制官の指示のもと動きます。離陸すると、管制官から目的地の近くまで飛行ルートと飛行高度を指示され、目的の空港に近づくと、設定された着陸方式に従って、管制官の指示を受けながら空港に着陸します。その最大の目的は、航空機の安全な運航を常に維持するためです。もちろん、パイロットが管制官に要望を出し、調整できる可能性がありますが、これは周りに他機がいないなど、限られた条件下での話です。

空港からの出発方法はSID(標準計器出発方式)、着陸方法はSTAR(標準計器到着方式)という決まりが、空港ごとに定められています。その内容は印刷物としてまとめられ、誰でも見ることができますが、これがパイロット、航空管制官といった飛行機をコントロールする方々にとってのルールブックです。滑走路が円形だと、その経路がほぼ無限に広がってしまうことになります。安全運航をいつでも保持できるという観点からすれば、選択肢が多すぎることは、かえって混乱が生じるおそれがあります。いまの直線の方が良いといえるのかもしれません。

機内の人から見るとどのような違いがある?

パイロットの負担から見ても、直線の滑走路の方が好ましいといえるでしょう。離着陸は「魔の11分間(critical 11 minutes)」といわれるように、その作業量も、精神的なプレッシャーも最も大きくなる場面です。オランダの案では、滑走路が円の内側に向かって傾斜が付いており、離着陸はできるとのことですが、もしこのなかで滑走路が傾いている、降りても曲がっているとなると、そのぶんパイロットの作業量やプレッシャーが増えることになります。その面においても、直線進入に軍配が上がるでしょう。

また乗客から見ても、滑走路が直線であれば、シップを傾ける必要がないため、乗り心地や快適性も確保されます。

とはいえオランダの研究は、環境への影響や騒音抑制にメリットもあり、実用化されれば革新的な内容となることは間違いありません。運航についても、もしかすると今後ますますAI(人工知能)などが発達して、より効率的で、これまで以上に安全な方法が実現し、これまでの運航の方式に革命が起きるのかもしれません。

現実として、航空業界に携わる方々は、これまでにも従来の概念が覆るような運航技術を数多く生み出してきました。ただ、筆者個人的には、最後に命を預けるのはパイロットと航空管制官でありたいものです。

成田空港を離陸する旅客機(乗りものニュース編集部撮影)。