台風接近など、鉄道の運行は大雨や強風により影響を受けます。では、定量的にどのくらいの風速・雨量を観測すると、鉄道は運休などの措置が講じられるのでしょうか。ただ、近年は「計画運休」も実施される傾向にあります。

風による運転見合わせの基準

2021年7月28日(水)、台風8号が東北地方太平洋側に上陸する見込みです。強風や大雨により鉄道が運転を見合わせることはしばしばありますが、それはどの程度の風雨を基準にして判断されるのでしょうか。

強い風が吹けば、列車が風で煽られたり、施設が損傷したりするなどの危険が生じます。鉄道会社は運行の可否を判断するため、線路脇などに設けられた風速計が基準値を超えているかどうかを確認します。

JR在来線の場合、瞬間風速20m/s以上で列車の速度制限を行います。そして25m/s以上で運転を見合わせます。新幹線についても20m/s以上で段階的に速度制限、運転見合わせが行われます。

私鉄などの場合は、瞬間風速25~30m/s以上で運転見合わせとする会社が多く見られます。例えば西武鉄道京急電鉄は25m/s以上で速度制限、30m/s以上で運転見合わせです。主に横浜市内で地下鉄を運行する横浜市交通局は、25m/s以上で地上区間の運転を見合わせます。台風銀座とも呼ばれる沖縄県モノレールを運行するゆいレールでは、15m/sで速度制限、25m/sで運転見合わせです。

なおひとつの目安として、瞬間風速がおおよそ20m/sになると電線が鳴り始めることが多くあります。20m/sは成人でさえ立っているのが困難な暴風。電線の揺れが大きくなってきたら、「電車が止まるかもしれない」と家路を急いだほうが良いかもしれません。

雨の場合は風のようにシンプルにはいかず…

大雨によっても鉄道の運行は影響を受けます。土中の水分が多くなると、線路の地盤が流出したり、崖崩れなどが起こったりする可能性があるためです。また川を渡る区間がある場合は、増水の程度によっては運休を余儀なくされます。

降雨による速度制限、運転見合わせの基準は風速のようにシンプルではなく、線路の環境やそれまでの経験によって対応が決められます。具体的には、線路が崖崩れのリスクある山間部を通るか、切通しなどによる法面があるか、先述したように川を渡る区間があるかなどで、過去の災害や事故発生状況とも照らし合わせます。

落石防止柵や鉄橋などには、雨量計や監視カメラ、センサ類が設置され、有事の際には運転指令所や走行中の列車などへ緊急通報がなされる仕組みを備える路線もあります。

なお降雨量で判断する場合は、1時間あたり40mm以上、継続300mm以上の雨で運転見合わせになるケースが多いようです。もちろん沿線の環境に応じた対応となり、例えば山間部を通る西武秩父線の一部区間では、30mm/hで速度制限、50mm/hまたは継続250mmで運転見合わせとなります。

2018年9月の台風24号以来、首都圏の鉄道各社は台風接近などに際し、事前に運休を告知する「計画運休」を本格的に実施しています。これは予報値を元にした判断であり、上述してきた規制値が必ずしも基準になっていません。何としても運行しなければならないという時代から、利用者にも理解を求めつつ「安全第一」で行動するという考えが、広く定着してきているといえそうです。

大雨の中を走る電車。写真はイメージ(画像:写真AC)。