吐血・嘔吐を繰り返し、食事はおろか水分を摂ることすら困難となり、体重が約20キロも激減――。名古屋出入国在留管理局(名古屋入管)の収容施設に拘束中、著しい健康状態の悪化にもかかわらず適切な治療も受けられないまま、今年3月6日に死亡したスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさん(当時33歳)だ。

その経緯は国会でも、野党の議員らが上川陽子法務大臣や入管を厳しく追及したものの、全容は未だに明らかにされていない。こうした中、ウィシュマさんが亡くなる直前、今年3月4日に彼女を診察した精神科医A氏が、来日中のウィシュマさんの遺族と弁護士らに面会して、診察時のやり取りについて証言した。

そこから浮上してきたのは、あくまでもウィシュマさんの健康状態の悪化を「詐病」と決めつけようとする入管の姿勢こそが、彼女を死に追いやったという疑いだ。(ジャーナリスト・志葉玲)

A医師は「収容施設から出したほうが良い」と伝えたという

A医師による、ウィシュマさんの診察は今年4月に法務省・入管が公表した中間報告書でも言及されている。

「病気になることにより仮放免してもらいたい心理が作用するなど心因性の障害を生じさせている可能性がある」というもので、A医師が書き、名古屋入管に提出した「診療情報提供書」にも「詐病の可能性もある」と書かれた。

だが、A医師がウィシュマさんの遺族や弁護士らに語ったところによれば、ウィシュマさんを病院に連れてきた入管職員に「支援者から『病気になれば仮放免(※)してもらえる』と言われた頃から心身の不調を生じている」と言われたために、A医師もそう受け取ったのだという(支援者側は入管職員の主張を否定)。

(※)筆者注:一定の条件の下、収容施設外の生活を許可されること

また、ウィシュマさんの症状について「いろいろ検査したが、内科的には問題がない」と入管職員から報告を受けていたものの、「体は大丈夫と言われたわりにはぐったりしているように見えた」として、A医師は入管職員に「(入管の)収容施設から出してあげたほうが良い」と伝えたのだと言う。

しかし、その後、ウィシュマさんは仮放免されず、診察から2日後に亡くなってしまった。

指宿弁護士「入管は"詐病"と扱っていた疑いがある」

A医師の証言で明らかとなった入管職員の言動に、ウィシュマさんの支援者や遺族を支える弁護士らは「やはりそうだったのか」と憤った。

ウィシュマさんが収容されている間、面会を続けていた支援団体「START」(外国人労働者・難民と共に歩む会)のメンバーの1人、千種朋恵さんは「私たちSTARTが、ウィシュマさんに『病気になったら仮放免してもらえる』とそそのかした事実はありません」と入管側の主張を強く否定する。

法務省・入管は現在、ウィシュマさん事件の最終報告をまとめているところで、関係者へのヒアリングをおこなっており、STARTメンバーからも6月17日に聞き取りをしている。

だが、それは「(ウィシュマさんが)体調不良になることで、仮放免許可申請が通りやすくなるという認識はあったか?」「(ウィシュマさんに)どんな表現で伝えたのか?」など、STARTがウィシュマさんを"そそのかした"との筋書きに誘導するかのような聞き方だったという。

ウィシュマさんの症状について、入管側がA医師に「内科的には問題ない」と伝えたことに対して、ウィシュマさんの遺族を支援する弁護士の1人、指宿昭一弁護士も「悪質だ」と批判する。

「ありとあらゆる検査をしたような言い方ですが、実際には内科については、胃カメラによる検査しかおこなっていません。血液検査も1カ月前のもので、(健康状態が極めて深刻な状況だった)直近のものではありませんでした。『詐病』として扱い、ウィシュマさんに治療を受けさせず、死ぬ寸前までギリギリの状態に追い込むことで、帰国させようという意図が入管側にあったのではないか。そう疑わざるを得ません」(指宿弁護士

八方塞がりだったウィシュマさんを「追い詰めた」

ウィシュマさんが昨年8月に名古屋入管に収容されたきっかけは、通っていた日本語学校の学費を払えなくなり、留学生としての在留資格を失ってしまったことだ。母国であるスリランカに帰国できなかったのは、当時はコロナ禍で母国への定期便が飛んでいなかったことや、帰国すれば、当時交際していた男性から危害を加えられるおそれがあったからだ。

いわば、八方塞がりだったウィシュマさんを、名古屋入管は、ただただ追い詰めることしかせず、彼女を自分たちで引き取って入院させるというSTART側の働きかけも受け入れなかった挙げ句に、最悪の事態を招いてしまった。

「ウィシュマさんを死なせてしまった責任を私たち支援団体のせいにしたり、彼女は『詐病だった』と死者の尊厳を傷つけたりするのでしょうか?」。千種さんは現在、法務省・入管がまとめているウィシュマさん事件の最終報告の内容を危惧する。「もし、そうなら絶対に許せません」(同)

前出の指宿弁護士も「最終報告は、責任の所在を曖昧にしようとするのかもしれません」と語る。「体調不良の原因が分からず、対応のしようがなかったという不可抗力的な主張になるのではないでしょうか?」(同)

ウィシュマさん事件の真相究明をめぐっては、STRATを含めた支援団体や、全国の学生・市民の有志で「ウィシュマさん死亡事件の真相究明を求める学生・市民の会」が結成され、亡くなる直前の監視カメラの映像や解剖所見などの重要文書の開示すること、医療放置の責任を認め遺族に謝罪すること、2007年以降17人が亡くなっている入管施設内での死亡事件の再発防止の徹底することを求めて署名(※)を集めている。

すでに4万6000人以上が賛同している(7月26日現在)。こうした声に法務省・入管は真摯に向き合うのだろうか。

(※)「#JusticeForWishma 名古屋入管死亡事件の真相究明のためのビデオ開示、再発防止徹底を求めます」
https://bit.ly/3rHCQB1

ウィシュマさん死亡、入管は「詐病」扱いで追い詰めた――支援団体が批判