もしも結婚相手に借金があったら、別れるのか一緒に返していくのかは悩ましい問題です。弁護士ドットコムには、事前に借金がないことを彼女に確認したものの、それがウソだったという相談が寄せられています。

相談者は交際していた彼女との間に子どもができ、プロポーズして結婚することになりました。しかし、両家の親に挨拶も終えた後、彼女から借金100万円があると打ち明けられました。

妊娠が発覚する以前から、相談者は彼女に「借金はないよね?」と確認していましたが、彼女は嫌われたくない一心で借金があるとは言えなかったようです。

その後、家族も巻き込んで話し合った結果、婚約破棄に至った相談者。果たして、相手に借金があり、それを隠していたという理由で婚約破棄した場合、慰謝料はもらえるのでしょうか。木下貴子弁護士に聞きました。

●彼女の行為に違法性があるか?

——婚約破棄の慰謝料はもらえますか

今回婚約を破棄したのは、「借金があるかどうか確認した際に、ない」と言った婚約者に借金100万円があったという理由です。この理由の場合、相手方の行為には違法性があり、慰謝料は発生すると考えられます。

慰謝料とは、違法、不法な行為をされたことにより被った精神的な苦痛に対して請求できるお金のことです。そのため、慰謝料がもらえるためには、今回の婚約破棄が相手方の違法行為によって生じ、これによって、あなたが精神的な苦痛を生じた、と言えるのか、が問題になります。

慰謝料は、その客観的行為の性質と、それを行った際の主観的な意思によって、発生するかどうか(違法性が認められるか)、発生した場合の金額が異なります。

今回のケースでは、その両面において、軽視できないと思われます。客観的行為面で言うと、「借金の有無」は、例えば、趣味についてウソをつく、などと比べた場合に、社会一般的な人にとって結婚を決める際に重要な要素と考えられるからです。

交際と異なり、結婚することは、「家族」になるという合意であり、経済的な状況は、これから一緒に子供を育て、生活をしていく家族になるのかどうかを決める際に重要な要素でしょう。

●積極的に事実と違うことを伝えたことは、違法と判断される

——女性が嘘をついたこともまずかったのでしょうか

「ウソ」をついた、という点も慰謝料が認められる方向に働きます。

主観面についても、尋ねられていないことについて、消極的に借金について言わなかったり失念していたりしたのではなく、明確に相談者から尋ねられたのにもかかわらず、積極的に事実と違うことを伝えたことは、違法と判断される要素です。

家族社会学で、「家族」は、「成員相互の深い感情的かかわりあいで結ばれた、幸福追求の集団である」とされますが、婚姻前から「ウソ」をつかれた場合、相手の言動について信頼がなくなってしまい、その後の深い感情的かかわりあいを結ぶことは困難となります。これを許して夫婦になることは難しいでしょう。

もっとも、相手は借金があるということなので、その回収は難しい場合もあるでしょう。また、妊娠中とのことですので、相手が出産後、認知をすることになれば、養育費の支払いをしなければいけない義務が発生することには注意が必要です。

【取材協力弁護士】
木下 貴子(きのした・たかこ)弁護士
離婚・親権・養育費の分野で1000件以上の案件を扱う。「離婚後の親子関係の援助について」「養育費」をテーマに講演。離婚調停での「話し方」アドバイスブックはこれまでに2万人以上が利用している。著書「離婚調停は話し方で変わる」「離婚回避・夫婦関係修復につなげる話し方の技術」がAmazon法律部門他ランキング第1位獲得。
事務所名:多治見ききょう法律事務所
事務所URL:https://tajimi-law.com

パートナーに「借金100万円」があったらどうしますか? 嘘をつかれ、婚約破棄を考える男性