地方自治体の議会・首長等や地域主権を支える市民等の優れた活動を募集し、表彰する「マニフェスト大賞」。今年で第16回を数える同大賞の応募が、7月1日から始まりました。過去の受賞者に、応募した取り組みの紹介や、受賞して感じたことなどを綴っていただきます。今回は、2020年(第15回)に優秀政策提言賞を受賞した岡山県学童保育連絡協議会です。

学童保育と作業療法士の連携事業

 1年半前の2020年3月の新型コロナウイルス感染防止のために、「学校一斉休校」の社会を支えるために学童保育は原則開設となった。社会のインフラとして、一躍注目された「学童保育(放課後児童健全育成事業)」。全国各地でそれぞれの状況に合わせて誕生し、法制化されても、保育園や幼稚園、小学校に比べ、まったく脆弱な制度のままである。少子化で子どもは減っているのに、利用児童数はうなぎのぼり、現在131万人の子どもが利用している。

 ニーズの高まりにより、「拡大」には注力されてきたものの、施設、処遇、開設時間など「保育の質」は後回しになっている現実。保護者OBの私は、「発達障害等の配慮の必要な子どもへの対応」に悩んでいる指導員へのサポートがないことが気がかりだった。ある時、「アメリカの学校には作業療法士がいて子どもの支援をしている」と聞き、ならば、学童保育に導入してはどうかとひらめいた。

 早速、岡山県学童保育連絡協議会として、「2016年度岡山県備中県民局協働事業」に「地域的でチームで長い目で―発達障害があっても、自分らしく生きられる備中地域づくり」というテーマで応募し、採択された。早々に「行政との協働」という願ってもない形で、岡山県作業療法士会の全面的な協力を得て、今まで誰も考えたことのない「学童保育×OT(作業療法士=Occupational Therapist の略)」の試みをスタートした。

学童保育と作業療法士の連携事業

 コンサル(現場指導)やOTによる指導員向け講座で、この事業の有効性を確信した。ならば、継続「目指せ!施策化!」と議員視察依頼、マスコミ取材、SNS、書籍発行、学会発表などありとあらゆる方法で、発信を続けた。補助金や助成金でチャレンジできるのは1年、長くて3年だから。初コンサル後の倉敷市議会では、議員質問があり、翌年4月には学童保育の担当課に「人事異動」で作業療法士資格の職員が配置されるというスピードだった。

 なんとかして施策にしたい、そのために全国の学童保育関係者や作業療法士にこの取り組みを知ってもらわねばならない。翌年は、岡山県全域への展開とともに、独立行政法人福祉医療機構(WAN)の社会福祉振興助成事業に応募し、採択。ここから3年間毎年応募し、行政施策を目指して、あの手この手の大作戦を繰り広げた。

 早々に厚生労働省雇用均等・児童局少子化総合対策室長へも要望書を届けに行ってみたりもした。2018年7月には、岡山県の単県事業で「岡山県放課後児童クラブ学びの場充実事業」(県1/2、市町村1/2、政令市、中核市を除く)が創設され、OTコンサルにも活用できることとなり、行政の予想外のアイディアとスピードに驚くばかり。また、国の方でも「巡回アドバイザー制度」ができ、作業療法士の活用も可とのコメントももらえた(が、まだ手を挙げたところはない模様 2021年6月現在)。

 しかし、常に「子ども領域のOTが少ない」「コンサル経験がない」という声が出る。現在、日本のOT資格者は約10万人で、このうち子どもに関わるのは数%と言われている。「やばい、こんな勢いで進むと、絶対、OTが足りなくなる」と考え、経験あるOT(指導)に、現場を経験したいOT(育成)が同行するという形での現場実習や、別分野のOT向け子どもOT育成講座を実施した。岡山県で集中的、試験的に取り組んだものをWAM助成事業で全国へと広げていくスタイルで。

 連携事業の開始直後から、沖縄県南風原町役場を皮切りに、大分、鹿児島、佐賀、宮城など全国の学童保育関係者から問い合わせをもらい、行政や地元の作業療法士会につないでもらった。今までに見たことのない「学童保育とOTの連携」始めること、つまり、「0(ゼロ)から1」を生み出すことを、助成金を活用してモデル実施し、市町村の施策にするということが現実のものとなった。こんなに早く進むとは驚き。みんなの共通の課題だったのだろう。

 「OT」という子どもを支える専門職の存在を知り、コンサルでつなぎ、学童保育指導員のスキルアップ、モチベーションアップを各地で実現することができた。地域により、とびついてくれた人は、学童保育、OT、議員、行政関係者とさまざま。既存の心理士巡回訪問に上乗せしてOT訪問(兵庫県明石市)、子どもの支援の町の施策として「OTの活用」(沖縄市南風原町)、独自予算で宮城県石巻市大阪府泉南市岡山県笠岡市大分県豊後大野市などなど地域に合わせた施策が実現した。もう一息だ!というタイミングでの新型コロナウイルス感染症。大変な現場状況の中、オンラインを素早く活用し、OT連携は途切れることなく、続いている。

 地元岡山県ではついに県単独事業を活用して、コンサルの実施を決めてくれた市が生まれた。コロナ禍でオンライン相談になったが。それをまた、地元紙が報道してくれた。学童保育関係者、OT、議員、行政担当者、マスコミ、さまざまな人がそれぞれに動いて、思い描いた未来が一気に現実のものになった。

学童保育と作業療法士の連携事業2

マニフェスト大賞を受賞して

 この賞のことは地元の議員さんに教えてもらった。全国の人に知ってもらいたい。特に議員さんに知ってもらいたい。山積している学童保育の課題の中では、「指導員への障害児対応のサポート」の優先順位は低いかもしれないが、確実に存在する課題。そして、モデル事業を通して一定の案が示せたので、議員さんが知って動いてくれれば、実現しやすいのではないか。

 ダメもとで応募したら、すごい、倍率の中、通ったー!地元紙には取りあげてもらえても、なかなか全国紙には載れないので、団体名と取り組み名が載るだけでも快挙。そして、地元の議員さんに改めてこの事業について知ってもらう機会となった。1回目は六本木ヒルズなど一生行くこともないだろうから、初期から一緒に取り組んだ指導員3人と出かけ、写真を撮りまくるお上りさんと化し、SNSで宣伝しまくったのであった。

 1回目の受賞の時は、共同通信社からの配信記事を見て、地元のテレビ局からの取材が実現した。新聞とはまた別の発信力があり、また大きな効果があった。岡山の場合、海を挟んだ香川県と同じテレビ局なので、後日、香川で講座を実施した時、このニュースを見ていてくださっていて、話がとても早かった。

 2回目の時は、オンラインでの開催だったが、交流会で何人もの議員さんと知り合え、資料を送らせてもらい、実際、議会質問をしてくださった。1回目も2回目も、地元の岡山市議も入賞しておられ、その方たちと同志的な気持ちも湧いてきた。

岡山県学童保育連絡協議会会長 糸山智栄

マニフェスト大賞の醍醐味

 マニフェスト大賞は「善政競争」という言葉が印象的だ。プレゼンの中に「あの市ができるなら、うちもできる!」があった。この考えで、どんどん発信して、真似していく。前例、先例、善例ということばも頻繁に使わせてもらっている。

 そして、1回目の時の交流会で、誰だかが「続けて出さないとだめだよ」とアドバイスくださり、1回目のエントリーで満足しそうだったが、翌年の2回目にも応募できた。感謝している。知らないたくさんのがんばりの出会いや積み重ねで社会はできているんだなと実感できるのがマニフェスト大賞。パクってパクってよりよい社会へ。いいとこどり(効率よい学び)のためにたくさんの知恵やアイディアを寄せ合おう!

 一気に施策化が進む予感、いや、確信。

■第16回マニフェスト大賞(応募は8月31日まで)
http://www.maniken.jp/manifestoawards/