(舛添 要一:国際政治学者)

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 連日五輪競技が展開され、日本選手の活躍に列島が沸いている。しかし、無観客での強行開催であり、国民に自粛を求めるという緊急事態宣言下である。政府は、一方で世界的なイベントを開催しながら、他方で国民には行動制限を課すという矛盾した対応をとっている。そのせいか、緊急事態宣言の効果も無く、人出は期待したほどは減っていない。

日本選手の活躍に沸いても菅政権への不満解消されず

 それも原因であろう。このところ新型コロナウイルスの感染が急拡大している。7月29日にはコロナ感染者は、東京都が3865人、神奈川県1164人、埼玉県が864人、千葉県が576人、首都圏を合計すると6469人という驚くべき数字になった。大阪府も932人、沖縄県392人、石川県でも94人と多く、全国で10699人である。

 30日も東京都コロナ感染者3300人と、先週の金曜日1359人)よりも1941人も増えている。また、重症者も88人である。極めて厳しい状況が続いている。収束の展望が全く見えない。

 夏休みで人出も増え、デルタ株感染が急速に拡大しているようである。

 そこで、政府は埼玉、神奈川、千葉、大阪に緊急事態宣言を発令し、北海道、石川、京都、兵庫、福岡を対象にまん延防止等重点措置を講じることにした。国民は様々な規制に馴れてしまって、緊張感がなくなっている。

 国民に自粛を求める一方で、五輪の熱狂があり、心理的にはバランスがとれない。夏休みやお盆の帰省もあり、人の流れを止めるのは容易ではない。

 頼みの綱はワクチン接種であるが、ここに来て供給不足からか、接種のペースが落ちている。特に、コロナの流行が顕著な大都市圏での接種の遅れが目立っており、菅政権に対する不満が高まっている。

下がり続ける支持率

 メディア世論調査を見ると、菅義偉内閣の支持率は下げ続けている。7月23〜25日に行われた日経新聞世論調査では、内閣支持率は34(-9)%と、政権発足以来最低を記録した。また不支持率は57(+7)%で、この数字は単に菅内閣発足後のみならず、2012年12月以降で最も高い。

 政府のコロナ対応については、「評価する」は36(−3)%、「評価しない」は横ばいで58%であった。また、ワクチン接種計画に関しては、「順調だと思う」が29(−9)%、「順調だとは思わない」が65(+6)%である。

 4度目の緊急事態宣言については、効果が「ある」が25%、「ない」が70%であり、残念ながら現実はその通りになっている。全国で感染の爆発が起こり、歯止めがかからなくなっている。東京では、デルタ株が全体の77%まで増え、感染力が強いため、ワクチンの接種スピードが追いついていないのである。

「1日に100万回」のワクチン接種という菅首相の号令で、接種は一気に進んだが、現在は全国の自治体や職域接種を行う企業や団体に必要な数の配分が行われず、接種予約をキャンセルせざるをえない状況になっている。接種予約ができずに不満を持つ都市住民が増えている。そのような実態を菅首相は理解していないようである。官僚が報告する数字のみを鵜呑みにして、実態を見ない弊害が内閣支持率の低下に繋がっている。

党の機能低下で民意掴み損ねるようになった官邸

 自民党が長い期間政権に就いてきた理由は、民意をきちんと掴んでいたからである。町村議会から国会まで議員を務める自民党政治家たちが、選挙区の有権者の声を謙虚に聞き、政策に反映させてきた。そして、自民党の政務調査会の各部会で徹底した議論を行い、その結果を政府の政策とするという政策形成プロセスが機能していた。しかし、最近は党の存在が薄れ、首相官邸が全てを仕切るようになっている。

 そうなったのは、安倍長期政権下であり、「政高党低」と言われる状況が生まれた。私が厚労大臣であった20072009年の頃は、事情は逆で、「党高政低」であった。たとえば、党の厚労部会でまとまった方針に厚労大臣が反対するのは困難であった。

 同時に、党の政務活動には積極的に評価すべき点もあり、官僚機構にがんじがらめにされる大臣に援護射撃を行い、補完・支援をする役割を果たすこともあった。たとえば、薬害肝炎訴訟問題の解決には、厚労族の重鎮議員たちにずいぶんと助けてもらったものである。

 ところが、今は、部会での議論がニュースになることもなくなり、官邸の意向の追認機関に成り下がってしまっている。マスコミが部会の活動を報じないのは当然で、ニュースにする価値がないからである。個々の議員にしてみれば、官邸の考え方と異なる政策を部会で提示すれば、反主流派と見なされ、出世の道が閉ざされてしまう。

 官邸の意向を忖度するのは、高級官僚に限ったことではなく、自民党国会議員もそうなのである。選挙に立候補する際には党の公認が必要だが、公認権を持つのは官邸であり、金とポストの配分もそうである。河井克行・案里事件を見ると、そのことがよく分かる。

 その傾向は小選挙区制度の下ではより顕著になる。かつての中選挙区制では、自民党の派閥間で激しい競争が繰り広げられ、その過程で政策についての議論も深められ、多様な意見を包含する包括政党(catch-all-party)となったのである。それが、自民党が政権を維持できた理由でもあった。

 田中角栄不祥事で失脚すれば、「クリーン三木」が登場する。野球に喩えれば、多様な球種を持つ投手が何人もいて、ピンチのときには投手を交代することが容易だったのである。それが、擬似政権交代のイメージをもたらし、自民党政権への支持が揺るがなかったのである。

右傾化に同調しない議員が党に居場所を失うようになった安倍政権

 ところが小選挙区制になり、安倍一強体制が確立すると、国会議員やその候補者は一斉に安倍晋三の下に馳せ参じる。安倍に対抗する勢力はカネとポストにありつけず、勢力を削がれ、孤立してしまう。こうして、反主流派の主張は黙殺され、切磋琢磨して政策を作り上げるという機能が低下してしまったのである。

 そのような体たらくになっても、野党が非力で分裂し、カリスマリーダーも存在しないために、自民党が政権を維持できている。それがまた、改革への意欲を失わせるという悪循環に陥っているのである。政権交代の可能性がほとんどない状況は、政権党を堕落させる。

 しかし、公明党支持層の支援がなければ小選挙区で勝ち上がれないほど、自民党の足腰が弱っている。

 政策については、安倍の右傾化路線が主流となり、新人もそれに同調しないと候補として公認されないような状況になってしまった。しかも、安倍の極右政策は日本会議のような保守系団体が強力に応援している。こうした保守系団体は選挙に積極的に動員をかけるのみならず、SNSで反対派を炎上させるような動きもする。いわゆるネトウヨである。

SNSでの支持求めますます右傾化強める政治家たち

 いまやSNSが選挙運動の一形態をして認められるようになり、世論形成に大きな影響を及ぼすようになっている。SNS誹謗中傷された女子プロレスラーの木村花さんが自殺に追い込まれるような悲劇も生まれている。右翼路線は、匿名性を利用して実態以上にその影響力を強めている。世襲議員で盤石な地盤でも持たないかぎり、政治家SNSでの反応に敏感になる。幻影を現実と誤解して、SNS上で喝采を得るために、極右路線へと走っていくのである。

 広島への原爆投下直後の降った「黒い雨」を巡る訴訟で、7月14日、広島高裁は原告全員に被爆者健康手帳を交付することを認めた。これに対して、菅首相は26日、上告を断念するという決断をした。

 私は、厚労大臣として、原爆症認定訴訟に取り組み、2009年8月に、認定すべき対象を大幅に拡大する決定を下している。それだけに、この問題には大きな関心を抱いているが、今回の判決は内部被曝の問題を含め、科学的、専門的観点からは問題も多い。厚労省の立場からすれば、上告するのは当然である。

 しかし、原告が高齢化していることや、広島県広島市の意向も踏まえて、菅首相が政治的な判断を下したのである。最大の背景は、全メディア世論調査で、菅内閣発足以来最低という内閣支持率の低下である。ここで、高齢の原告たちに冷たいというイメージが拡散すれば、さらなる支持率低下を覚悟せねばならない。

 しかも、広島は河井克行・案里事件の現場である。河井案里議員の当選無効に伴って4月に行われた参議院再選挙では、自民党の西田英範候補が立憲民主党の宮口治子候補に敗れている。秋までには解散総選挙がある。菅首相としては、その広島で自民党への反感を買う上告という政治的判断はできなかったのである。

保守反動路線はネトウヨの支持を集めても広範な世論の支持は得られない

 もう一つ訴訟がらみの話をすると、夫婦別姓を認めない民法や戸籍法の規定が憲法違反であるかどうかが争われた家事審判の特別抗告審で、6月23日最高裁大法廷は合憲という判断を下した。「社会情勢の変化を考慮しても判断を変更する理由はない」として、2015年の判決を踏襲している。そして、「選択的夫婦別姓の可否は国会が判断すべきだ」としたのである。

 選択的夫婦別姓は国際的潮流であり、法律で同姓を強制している国は日本のみである。しかも、婚姻により姓を変更することから生じる不利益は個人のみならず、企業をはじめ社会全体が被っている。経済界もまた、制度変更に積極的である。

 また、世論も選択的夫婦別姓が過半数を占めている。たとえば、今年4月の朝日新聞世論調査によれば、賛成が67%、反対が26%である。世論の動向に敏感であれば、自民党は積極的に制度変更へと舵を切らねばならない。しかし、安倍右傾化路線が貫徹する中では、「日本の家制度を崩壊させる」などという戦前のような主張がまかり通っている。

 私は、自民党の第一次憲法草案(2005年10月28日)を書いたが、「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立」という憲法24条には手を触れず、戦前の家制度回帰を拒否した。しかし、2012年4月27日に公表された第二次草案では、「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される」と家族を前面に出す復古調となっている。

 これは時代の流れに逆行するものである。この保守反動路線はネトウヨには拍手されるかもしれないが、広範な国民の支持を受けることはできない。選択的夫婦別姓の導入に国会で主導的役割を果たすことが、国際社会の中で日本が孤立しない道であるし、また若い世代の支持を調達することにも繋がる。この問題もまた、自民党の感度低下を示す象徴的な例である。

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