幽霊をいると信じる人は多い。事実アメリカ人の45%が幽霊を信じていると回答しており、イギリスのエジンバラ大学には、幽霊、幽体離脱、サイコキネシスなどを本気で研究しているゴーストハンター養成コースがある。
幽霊を見たという目撃情報は世界各国で報告されており、古代から幽霊にまつわる伝承は数多く残されている。人の魂は肉体の死後もべつの世界で生きていると信じる文化も世界中に存在する。
人々は今も昔も幽霊を信じ、接触、交信を試みている。果たして人類は幽霊の存在を証明することはできるのか?ここでは、科学的見地も踏まえながら、幽霊探しに奮闘する人々の軌跡を見ていくことにしよう。
死者の魂がこの世に残っているという考え方は古くからある。聖書からシェークスピアの『マクベス』に至るまで、数多くの物話に登場していて、怪談という民俗学のジャンルまで確立されている。
幽霊を信じることは、臨死体験や死後の生活、霊との交信など、関連する超常現象信仰の大きな流れの中のひとつだ。
幽霊を信じることは、愛する故人がもう見守ってくれない、困ったときに一緒にいてくれないことを信じたくない人たちの慰めになるのかもしれない。
古くから行われていた幽霊探し
昔から人は、霊と接触しようとしてきた、あるいは霊と交信したと主張してきた。例えば、ヴィクトリア時代のイギリスでは、上流階級の女性たちの間では、友人たちとお茶をした後、自宅の居間で降霊会をもよおすのがブームだった。ケンブリッジやオックスフォードなどの名門大学でも、幽霊の証拠を探すことを目的にしたゴーストクラブが作られた。
1882年、もっとも有名な心霊現象研究協会が設立された。協会の調査員だったエレノア・シジウィックという女性がのちに会長になり、元祖女性ゴーストハンターと考えられている。
1800年代後半のアメリカでは、多くの霊媒師が死者と話したと主張したが、のちにハリー・フーディーニのような懐疑的な調査員によって、詐欺であることが暴露されたりした。
テレビドラマがきっかけで誰もが幽霊を探す時代に
こうした幽霊探しが世界的に広く注目されるようになったのは、わりと最近のことだ。これは、230のエピソードがオンエアされたリアリティテレビシリーズSyfyケーブルTVシリーズ「ゴーストハンター」の大ヒットによるところが大きいが、結局、幽霊の確固たる証拠は見つからなかった。Ghost Hunters: Haunted Staircase Creaks at Night (Season 1) | A&E
このシリーズは、多くのスピンオフ番組や類似番組を生み出した。なぜ、こうした番組の人気が出たのか、その理由は素人でも幽霊を探すことができることが前提だったからだ。
一般人である主役のふたりが、霊の証拠を探すという内容だが、制作者側の意図は、幽霊を探すのに、専門家や科学者である必要はないということだ。
必要なのは、自由になる時間、暗い場所、電気店で手に入れることのできるいくつかの小道具だけ。根気強く調査を続けていれば、原因不明の光や音がもしかしたら幽霊の証拠かもしれないというわけだ。
説明のつかない現象であることが、逆に人々を惹きつける
心霊現象が起こったと断定できる基準が曖昧なことが、死後の世界に関する神話がこれまで以上に人々にもてはやされる理由のひとつだろう。科学的に幽霊を評価するのが難しいのは、ドアが勝手に閉まる、あったはずの鍵がなくなる、廊下にやけに背筋が冷たくなるスポットがある、死んだ親戚の姿を見たといった、驚くほど多岐にわたる現象が幽霊の仕業とされているせいだ。
社会学者のデニースとミシェル・ワスクルが、心霊体験者から聞き取りを行い、2016年に『Ghostly Encounters: The Hauntings of Everyday Life』(テンプル大学プレス)という本を出版した。
この本にはこう書かれている。
インタビューした多くの人たちは、実は自分が本当に幽霊と遭遇したのか確信がなく、このような不思議な現象がありえるかどうかも不確かなままだということがわかった。それは、幽霊だと言われている従来のイメージと近いものを見ていないだけのことだ。それでも、なにか日常とはかけ離れた、説明のできない、不気味で、謎めいた異様なことを、多くの人が体験したことだけは確かなのだ
幽霊、心霊現象の定義は統一されていない
このようにして、幽霊を見たと主張する多くの人たちは、従来、幽霊だと認識されているものを必ずしも見ているわけではない。実際には、それぞれがまったく違う体験をしているかもしれないが、唯一共通しているのは、それが簡単には説明できないものだったということだ。
個人的な体験と、科学的な証拠はべつの問題だ。幽霊を調査することの難しさは、幽霊とはなにかという定義が統一されていないことも原因のひとつだ。
幽霊とは、なんらかの理由であの世に行く途中で迷ってしまっている死者の魂であると言う人もいれば、人の心がこの世に投影されたテレパシーのような存在だという人もいる。
ポルターガイスト、地縛霊、英霊、シャドーピープルといったさまざまな幽霊のタイプを独自のカテゴリーに分けて考える人もいる。
もちろん、これは妖精やドラゴンなど違う種族を想像して作りあげられたもので、人がいて欲しいと望むのと同じだけ、幽霊の種類はたくさんある。
そもそも幽霊とは?
幽霊に関しては、もともと多くの矛盾がある。例えば、幽霊は物質なのか否か? 固い物体をするりと通り抜けられるとか、ドアを勢いよく閉めたり、部屋の向こうに物を投げたりできるのか?などなどだ。物理の論理や法則からすれば、それはどちらか一方でしかない。幽霊が人間の魂だというなら、なぜ彼らは服を着て、帽子や杖、ドレスといった魂などなさそうな無機物と共に現れるのか?幽霊列車、幽霊自動車、幽霊馬車などの話は言うまでもない。
もし、幽霊が殺され恨みを晴らせなかった死者の魂なら、どうして未解決殺人があるのか? 幽霊が霊媒師と交信できるのなら、殺人者はすぐにわかるはずではないか?
疑問は次から次へと出てくる。幽霊だというあらゆる主張には、それを疑う論理的な理由があるのだ。
確実に幽霊であるという証拠は発見されていない
ゴーストハンターは、多くの独創的な手段を使って、霊の存在をとらえようとし、その際に霊媒師もよく利用される。あらゆるゴーストハンターは、科学的に調査していると主張するが、ガイガーカウンター、電磁場(EMF)検出器、イオン検出器、赤外線カメラ、高感度マイクなど、ハイテク科学機器を使用するためにそう見えるだけかもしれない。
しかし、こうした機器をもってしてもなお、実際にこれは絶対に幽霊という証拠を見つけたことはない。
幽霊がいると炎が青くなると何世紀も信じられていたが、現在では、このような伝説を受け入れる人はほとんどいない。
現在のゴーストハンターが幽霊の証拠だとしている兆候の多くは、今後数世紀たったら、同じように時代遅れの誤まったものとみなされることだろう。
幽霊は科学的に検知、記録できない
幽霊の存在が証明されていないのは、単に霊の世界をつきとめるための適切な技術がないからだという研究者もいる。しかし、この説もまた正しいとはいえない。幽霊が存在していて、私たちの普段の物理的な世界に現われ、写真、フィルム、ビデオ、録音機器などに記録されるか、そうでないかのどちらかなのだ。
もし本当に幽霊がいて、科学的に検知、記録できるのなら、それは確実な証拠になるはずだが、いまだそれは実現していない。
幽霊が存在しているのに、それが科学的に検知、記録できないのなら、幽霊の証拠だとされている写真、ビデオ、音声などの記録は、幽霊ではないのかもしれない。
基本的に矛盾した数多くの説があり、科学的根拠も乏しいため、何十年にもわたって、ゴーストハンターが奮闘してきたにもかかわらず、幽霊の確証がひとつも見つかっていないのも驚くことではない。
最近のスマホの"心霊アプリ"の発達のせいで、一見不気味に見える映像をでっちあげて、SNSでシェアすることがこれまで以上に簡単になった。そのため、心霊研究家が事実と虚構を見分けることがますます難しくなっているのも確かだ。
死を乗り越えた肉体的エネルギーは検出できない
幽霊の存在を信じる人の多くは、個人的な体験から信じることが多い。例えば、育った家の中に愛想のいい霊が当たり前のように住みついていたり、ゴーストツアーや地元の幽霊スポットで、怖ろしい思いをしたといった体験だ。しかし、大半の人は幽霊の存在を裏づけるものは、現代の物理学と変わらないハードサイエンス(化学、物理学、生物学、天文学など)で見つけられると考えている。
アルベルト・アインシュタインは、熱力学の第一法則に基づいて、幽霊の存在を示す科学的根拠を提唱したと広く言われている。
エネルギーが作られず、破壊されることもなく、形が変わるだけだとしたら、死んだとき、私たちの体のエネルギーはどうなるのか? 幽霊のようなものになりうるのだろうか?
一見、理にかなった仮定のように思えるが、基本的な物理学を掘り下げるまではそうではない。答えはしごく単純で、謎でもなんでもない。
人は死んだら、その体内にあったエネルギーは、すべての生物の死後エネルギーと同じように、周囲へと放出される。
エネルギーは熱という形で放たれ、残った肉体はほかの生物に食べられ(埋葬されずにそのまま放置されたら野生動物に、埋葬された場合はさまざまな虫やバクテリアなどに)、植物に吸収される。
ゴーストハンターが使う幽霊探知器で見つけられるような、死を乗り越えた肉体的エネルギーは存在しないのだ。
もし本当に幽霊がいても素人には探すことは不可能
アマチュアのゴーストハンターたちは、心霊研究の最先端をいっていると思いたがるが、実際には、民族学者の言う"オステンション(事実が物語となりうるように、物語は事実となりえる)"や"伝説のつまづき"に関わっているだけなのかもしれない。これは基本的に、幽霊や超常現象要素などの伝説を人々が語る(演じる)という形だ。民族学者のビル・エリスは、2003年の著書『Aliens, Ghosts, and Cults: Legends We Live』の中でこう指摘している。
ゴーストハンター自身もたいていは、真剣に調査を行い、超自然的な存在にあえて挑み、意識的にドラマチックな形で立ち向かい、安全な場所に戻ってくる。幽霊が本物で、まだ知られていないある種のエネルギーや存在物のようなものだとしたら、その存在は(ほかの科学的な発見と同じように)、専門家によるきちんと管理された実験で発見、実証されるはずで、週末深夜にゴーストハンターがカメラや懐中電灯を持って、廃屋を歩き回るといったことでは見つからない。このような活動は娯楽のためではなく、現実世界との境界を試し、定義するための真摯な努力なのだ
結局、不鮮明な写真や音、映像が山のように存在するというのに、幽霊の証拠は100年前と同じで、まともなものはなにも出てきていない。
ゴーストハンターが、幽霊の確固たる証拠を見つけられないのには、ふたつの理由が考えられる。
ひとつは、幽霊は存在せず、幽霊証言は心理学、誤認、間違いやデマなどで説明できるというもの。
もうひとつは、幽霊は存在するが、ゴーストハンターが科学ツールやそのための精神状態を備えていないために、立証するのに意味ある証拠を発見することができないから、というものだ。
最終的に、ゴーストハンターにとっては証拠などはどうでもいいのかもしれない。証拠第一なら、
幽霊調査はとっくの昔に放棄されているはずだ。
幽霊話で友人と盛り上がり、この世と未知のものとの境界を探る行為を楽しんでいるのだ。だがそれでも良い。とどのつまり、誰もが上質の幽霊話が大好きなのだから。
Top image:iStock / References:Are ghosts real? | Live Science / written by konohazuku / edited by parumo
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