人がコミュニケーションを取る際、「声」と同じように重要な役割を担っているのが「表情」です。喜怒哀楽をはじめ、元気なのか、体調が悪いのか、表情を使って多くの情報を発信していきます。しかし、今はコロナ禍でマスク着用が義務化されています。表情が分かりにくいことから「感情が伝わりにくい」とも言われています。

 しかし、マスク着用をしていても好業績を達成する人たちがいます。そのような人たちの多くは「声」に注目しているといいます。今回は「声」の専門家として活動する秋竹朋子さんに「声の活用方法」について伺います。近著に「年収の9割は『声』で決まる!」(清談社Publico)があります。

マスクによる情報不足を「声」でカバー

 ビジネスシーンにおいても、仕事ができる人はもれなく表情の見せ方が上手で、相手の表情を読み取る能力にもたけています。

 しかし、現在、新型コロナウイルスへの対策として、フェーストゥーフェースのコミュニケーションには「マスク」が必須になっています。これでは、表情から発信・受信できる情報の量はごくわずか。

 こうした社会状況の中で、きちんと気持ちを交わし合い、効率性を落とさず、トラブルなくビジネスを進めるためには「声」や「話し方」が一層重要になります。

 マスクによって表情が見えづらい状況での「声」の役割は、メールやSNSでの「絵文字」の存在と似ているかもしれません。

 メールやSNSなどのネットコミュニケーションはとても便利な一方で、細かな感情が伝わりづらいという面があります。怒っていないのに不機嫌そうに映ったり、淡々とした文面が冷たい印象を与えてしまったりと気持ちの行き違いが生まれてしまうことも。

 各種の絵文字ネットスラングと呼ばれる独特な表現は、文字だけでは伝わりきらない喜怒哀楽を補ってくれます。もちろん、ごく細かな感情までは伝えきれませんが、文章の後に「笑っている顔の絵」が入っているだけで、少なくとも好意的な反応であることは分かりますよね。

 表情で気持ちを伝えられないのは寂しいことですが、今はマスク越しでも聞き取りやすく、感情が乗った「声」でそれを補い、コミュニケーションの質を落とさないことが大切。

 ビジネスの面から見れば、今、この状況での「声」の重要性に気付いた人から、ピンチをチャンスに変えることができるといってもいいでしょう。こんなときだからこそ、「声」はライバルに差をつけるための「武器」になるのです。

ビジネスシーン以外でも求められる「声」

 実は、ビジネスシーン以外でも「声」は重要視されています。経営者や政治家に求められているリーダーシップや説得力に「声」は欠かせません。

「たいしたことを言っていないのに妙に説得力があると錯覚してしまうのは『声』がいいからです。いいことを言っているのに伝わらないのは『声』の問題です。性格や習慣化された仕事の進め方は簡単に変えられませんが、『声』は簡単に変えられます。『声』が変わるだけで、仕事の成果が変わることが実証されているからです」(秋竹さん)

「プレゼン、スピーチ、電話応対、営業、接客など、ビジネスのあらゆる現場では人と人とのコミュニケーションがつきものです。そのコミュニケーションの中心となるのが、『声』を使った対話です。できる人は『声』が最強のビジネススキルだということを知っています」

 あなたは、「声」の問題で機会を逸しているとしたらどう思いますか。秋竹さんは「声」によって仕事上のミスや誤解を招いていることに気付いていないことが多いことを危惧しています。一方で、「声」を磨いたことで成功した人たちもいると指摘します。

「印象が薄い、感じが悪い、暗い、聞き取りにくい、早口という問題を抱えて、私のスクールに来る人の多くはそれらのことを他人に指摘されています。電話で伝言をお願いしたのに間違って伝わり、相手に迷惑をかけてしまったとか、『はい?』と聞き返されて嫌な気持ちになったなどの経験、ありませんか?」

「『声』が原因でトラブルにつなかっているケースは意外にあるのです。いい『声』で話せば、話す言葉に説得力が増し、好感度が上がったり、人から信頼されたりと効果が得られます。『声』が仕事の成果を左右するのは、もはや当たり前のことなのです」

エキスパートは「声」を操ることができる

 高い成果を収める人に共通していえるのは「声」が魅力的だということ。大きい声・小さい声を絶妙に使い分けている人が多いと秋竹さんは言います。例えば、強調したいこと、「ウリ」や「メリット」などを伝えることには少し大きめのトーンで話し、しっかりと理解させたい場合にはあえて、ささやくような小声で話すこともあります。

 ほとんどの方が「声は生まれつきだから変えられない」と思い込んでいます。しかし、これは大きな間違いのようです。ピアノをひける人や野球が上手な人が生まれつき上手だったわけではありません。ピアノをひきたいと思ったら、最初はピアノの先生に習うように、「声」について悩みがあれば専門家に習うことも一考かもしれません。

 あなたは「自分の声」に自信がありますか。

コラムニスト、著述家、明治大学サービス創新研究所客員研究員 尾藤克之

「声」が成功の近道に?