夏休みです。今回は、お子さんたちの「自由課題研究」を応援するような形で、子供向け「報道される数字を一緒に考えてみよう」という趣向で記してみます。

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 世の中の大人の人は、多くが報道される数字をなんとなく読み流す傾向が強い。それは「もったいないことだ」という生活習慣を小さなときから身に着けるとよいです。

 日本各地のサイエンススクールでは、身の回りのデータを分析して予測するような課題を100年来、伝統的に続けているところが多いと思います。

 そうした学校の出題を模して、例えば新型コロナウイルス感染者数を考えてみましょう。

 東京都の7月末の感染者数は

7月26日(月) 1492
7月27日(月) 2848
7月28日(月) 3177
7月29日(月) 3865
7月30日(月) 3300

 こんなふうに変化していました。元になるデータはこのように(https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/)公開されています。こグラフにしてみましょう。

 7月29日をピークに、30日は減っていますね。今回の新型コロナウイルス感染症もやっと流行のピークを超えたのでしょうか?

 いや、残念ながらそうではなさそうです。日本全国の感染者数を見てみると

7月26日(月)  4690
7月27日(月)  7629
7月28日(月)  9573
7月29日(月) 10698
7月30日(月) 10744

 データはやはり、誰でも調べることができるよう公開(https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/data-all/#graph--infect-death__infect)されています。

 横ばいのように見えますが、残念ながら1日あたりの感染者数の最大値を更新しています。そして、この傾向は今後も2週間程度続くことが分かっています。その背景を考えてみましょう。

 今日の増加は先週の感染

 新型コロナウイルス感染症は、その病気に感染ってから発症するまで、少し時間がかかります。これを「潜伏期間」と呼びます。

 日本で流行している新型コロナウイルス「変異株」の潜伏期間は、2021年6月29日に公開された、国立感染症研究所のこの資料(https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2502-idsc/iasr-in/10467-496d06.html)によれば、

体温が37度を超えるのを「発病」と考えるなら:約4.8日
体温が38度を超えるのを「発病」と考えるなら:約5.48日

 つまり5日目で平熱以上になり6日目で高熱を発すると見て大きく外れない。こんなことも広く情報は公開されています。

 残念ながら日本の大人には、こうしたものを正確に調べる習慣が少ない。OECD(経済協力開発機構)の世界的な学力調査「PISA」によると、日本人はペーパーテストで出題され、予習してあると成績が良いけれど、学校で学んだ知識を生活に生かす力は劣っていることが指摘されています。

 日本の未来のため、今回もこのような形で教育的に稿をまとめている次第です。

 本題に戻りましょう。つまり「今日」の感染者数として報じられているのは、6日ほど前にウイルスをもらった人が発病して、統計に数字が表れている。

 実際には確率的に幅をもって分布しますが、ここでは簡単に「先週の感染実態」が今週の推移となって見えている事実を押さえて、先に進みましょう。

 加減算でなく乗除で変化する「感染者数」

 感染症報道では「東京は3日続けて3000人超え」などといった表現が用いられます。しかし、これはあまり、科学的には意味のない数字です。

 社会的には意味があります。科学と社会、何が違うのでしょう?

 毎日3000人ずつ患者さんが増えると、病院のベッドがそれだけいっぱいになる。あるいは隔離施設が満員になる。そういった「社会的な問題」があります。

 だから大人は、患者の数を「足し算」「引き算」で表現したがります。

 しかし、実際の新型コロナウイルス蔓延は「掛け算」「割り算」つまり「比」で変化します。

 それを表す「実効再生産数」という言葉も、調べればすぐに正確な説明が出てきます(https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2502-idsc/iasr-in/10465-496d04.html)。

 使っているのは高校生以上の算数はなく、かなりシンプルな話しか出て来ません。図にすればこんな形(https://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/2021/6/496d04f01.gif)で、比の値が1より大きければ患者は増える。

仮に倍率1.2で2回感染を繰り返せば 1.2×1.2 = 1.44

5回掛け算を繰り返せば      1.2×・・・×1.2 ≒ 2.49人
10回掛け算を繰り返せば     1.2×・・・×1.2 ≒ 6.19人
20回繰り返せば         1.2×・・・×1.2 ≒ 38.34人

 市中にいる患者の数が増えれば増えるほど、その増加「率」からして急激に増え続けてきます。

 1人増えた、4000人を超えた、超えなかったで一喜一憂しても、病院のベッド数手配は大変になりますが、病気自体の科学的な評価から考えると全く意味はありません。

 2021年8月、それが現実のものになっており、都内であれば1週間前に1000人ほどだった新規感染者数が4000人ほどに増えている。

 しかし「7月26日の増加」は、実は6日前「7月20日頃」の「感染」が、いまになって目に見えてきているだけのこと。

 走り始めたジェットコースターと同じで、もう止める方法はどこにもない。

 7月29~30日にかけての「発症者数」推移は7月23~24日にかけての「感染者数」推移を反映しているはずですが、そこに「減少」を示すような兆候があったでしょうか?

 7月23日とは、いうまでもありません「東京オリンピック」開会式が開かれた4連休の2日目で、24日は週末の土曜日、私の見る都内各所でも、人流はむしろ増え、朝方小雨の降ったところもあるようですが、4連休は概してお天気。

 感染が縮小する要因はかけらほども見えません。

 ではなぜ、東京の感染者数は3865から3300に激減し、日本全国では漸増しているのでしょう。

 実は、その理由そのものの最中、7月30日、午後の東京でこの原稿を書き始めたのです。答えは「雨」それも「台風8号」による強い雨が、見かけ上の感染発覚数を減らしたことが考えられます。

 お天気一つで上下する数字

 7月30日、私は都内文京区東京大学構内で、研究室に導入するIKEAの棚の配送を待っていました。

 台風8号が変化した温帯低気圧による激しい雨と雷のなか、運送屋さんが運び込んでくれました。

 これは今日、東京の最多記録更新はないな・・・と察して余りあるものがありました。感染者数の記録は、感染の疑いのある人が検査を受けに来てくれて数字が出てきます。

 例えば検査キットが払底すれば、それ以上の数字は出ません。また、検査を受けに来てくれる人がいなければ、数字はいつまで経ってもゼロのままです。

 コロナの新規感染者うんぬんという数は、お天気一つでも上下しうる数なのです。1人とか2人といった差に目くじらを立てても、統計的には意味がない数字です。

 同時に患者さんを収容するベッドの数などとしては、一人あぶれても大変なことになる数字でもありえます。

 東京では、強い雨のために、新規感染者数は伸びないだろうと予測がつきました。日本全国ではどうかと見ると、少しの増加だという。

 では、日本全国の新規感染者数の変化はどうかと、公開情報を調べてみると

 こんなふうに地図の上にデータを分布(マッピングといいます)して、観察してみましょう。

 図の左はNHKが発表した7月29日、日本新記録が更新された日の全国都道府県別の新規感染者数。

 図の右は同じく7月30日のものに、29日との新規感染者数の増減を書き加えたもので、緑の数字で「増加」赤い数字が「減少」を記してみました。

 こうしてみると、赤い数字が日本列島を南西から東北に向けて、ひとつながりに繋がっていることに気がつきます。

 沖縄、宮崎、高知から、兵庫、大阪の近畿圏、東海地方から東京都、栃木、福島、山形から北海道まで、断続的な細い線、帯のように。

感染者数減少」ベルトが走っていることが分かるでしょう。

 これと、やはりこれも公開情報である、気象庁の雨雲レーダーデータと比較してみると、少なくとも近畿以東の大幅な「見かけ上の感染減少」地域と、雨雲の分布が、よく一致していることが見て取れます。

 大人の観点できちんと関係を見るなら「相関分析」など統計の手法を使って精度の高い議論も可能ですが、ここでは「そうか、報道で1日1万人を超えた超えないとか、アナウンサーが数字だけ取り出して何か言っても、背景を見なければ深いことは言えない、その程度の数字なんだ!」と理解してくれる未来あるティーンが増えてくれれば、何よりと思います。

 私の研究室では「動くウイルス雨雲レーダー」という、感染症リスクを雨雲のように時々刻々変化するリスクとして考える「ハザードマップ」を2020年の春からずっと検討しています。

 こういうものは、すべてゼロから手作業で考えて構築していきます。

 多くの先行研究は公開されていますから、調べればよいし、分からないことがあれば、専門家に問い合わせて確認します。

 しばしば、私たちの第一印象は間違っていますから、随時誤りは修正していきます。

 私もまたかつて、サイエンス・スクールで学び、中学高校生として、国立博物館の研究員さんに教えてもらいました。

(私は地質学のクラブで研究を率いる最初の経験をさせてもらいました。千葉県銚子市で後輩が掘り出したアンモナイトは、新種だということで博物館にもっていかれてしまったりもしました・・・)

 身の回りにあるもの、誰もが見ている同じ世界に全く違う観点から光を当てることの面白さを教えてもらいました。

 東大に着任して23年になりますが、幽かな縁のある学生さん、一人ひとりの知的好奇心に残る何かをその人自身が見つけ出せるようになる場を作るようにしています。

 そこで重要なのは、お仕着せの通り一辺倒、ワンパターンの講義ではなく、一人ひとりの学生の準備や好奇心に応じたテーラーメイド、その子のためだけに考えてあげる対話型の実物教育、それが本物の教育という学統を、伝えるようにしています。

 そんな一例として、身近な数字「コロナ罹患者」を扱ってみました。

 こういう内容を「大学受験に役立たない」と考えるらしいモンスター・ペアレントもいるように、高校に奉職する旧友から漏れ聞きます。

 しかし、それは全く違います。例えば東大に入ってから伸びる学生と、完全に止まってしまう学生(も残念ながら存在するので)を分ける最大の違いがこのあたりにあるのです。

 社会に出てからは、もっと顕著です。

 もしお子さんの本当の意味での生涯の幸せを考えるのであれば、安っぽい例題解答丸暗記ペーパーテストで知性を曇らせるのでなく、目の前の現実に正しくサイエンスの刃をもって切り込んでいゆくことの価値を親子で確認していただくのも、意味のあることだと思います。

 今回は「夏休み」でもありますので、珍しく100%大学教授屋の立場から記しました。7月30日

追記 実際の7月末の感染者増は以下のようになりました。

 雨天や週末に伴う検査数の変化で、見かけ上の数が減っていますが、真の感染者数は図で直線で示したライン「より上」にあると考えた方が安全です。

 直前は「加減算」実際の感染は「乗算」式で増えていくので、そのように見積もります。

 また日本全国は・・・

 同様で、すでに7月末時点で1日1万5000人のライン付近にあることを念頭に置いた方が、病床数などを見積もる上では安全です。

 7月23~24日には莫大な数の感染が発生しているはずです。それが天候など一時的な理由で見えなくなっている分を含め、8月第1週には、かつてない記録的な感染者数のジャンプが見られるリスクが懸念されるでしょう。

 東京都5000人/日、全国は15000人/日にいつ到達するかが、チェックポイントと思います。

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