国立感染症研究所は2021年8月2日、「新型コロナウイルス感染症に関する国立感染症研究所ホームページの不適切な引用について」と題した文章を公式サイトに掲載し、誤った形で情報を切り取らないよう要望した。

「健全な社会の議論を歪めてしまう」

文章は脇田隆字所長名義で掲載された。

感染研では、新型コロナウイルス関連の情報を日々発信しているが、記事やSNSメールマガジンなどで不適切な引用が散見されるという。具体的には、情報を都合の良い形で切り取り、「科学的な議論の範囲を逸脱した解釈」をされた事例があった。

引用自体は歓迎するものの、「元々の内容を大きく変えたり、自らの主張に都合のいいように一部の文言だけを切り出して使用することは、当所が誤った内容を発信している印象を与えるだけでなく、科学を踏まえた健全な社会の議論を歪めてしまう」と強い懸念を示し、正確な引用を要望している。

ツイッターでは、感染研の指摘に該当するとみられる情報が複数見つかる。例えば、7月21日に発表した調査報告書「新型コロナワクチン接種後に新型コロナウイルス感染症と診断された症例に関する積極的疫学調査」の一部を引用し、「もうこれでわかりませんか?このワクチンに有効性なんてないという事です」と注意喚起する投稿は1000件以上リツイートされている。

投稿者は、

ワクチン1回目接種後のみならず2回目接種後14日以降においても、一部の症例では感染性のあるウイルスが気道検体中に検出されたことから、二次感染リスクも否定できないことがわかった」

などの箇所にみずから赤線を引いて自説を主張しているが、感染研は報告書で「本報告は、海外における臨床試験や複数の観察研究で示されている、日本において承認されている新型コロナワクチンの高い有効性を否定するものではなく、今後ワクチンの効果に関するエビデンスを蓄積することが重要である」との見解も示している。

そのほか、感染研の同じ発表を引用し、「国立感染症研究所も7月21日、『ワクチン接種効果無し』と、発表しました」「ワクチン接種者にも二次感染を否定できない(中略)ワクチンを受ける意味はまったくない」などと投稿する別のツイッター利用者も見つかる。

感染研の発表全文

感染研の2日の発表は以下の通り。

新型コロナウイルス感染症COVID-19)は、ウイルスゲノムの変異を繰り返しながら世界中に広がっています。日本国内でも数次に渡る流行を経験し、感染管理や行動自粛、ワクチンなど様々な対策が実施されているものの、2021年7月29日には1日当たりの国内のCOVID-19患者の報告数は過去最高を記録しました。
当所では、このような状況の中で、可能な限り最新の、信頼がおける情報やエビデンスを国内外から収集・分析し、国民の健康、安全を守るために情報提供を行っているところです。ところが昨今、当所からの情報の一部を切り取り、科学的な議論の範囲を逸脱した解釈をしている内容の記事、SNSメールマガジン投稿などが散見されます。
本所から発出される文章は、多くの研究者が専門家としての責任と理念のもと、時間をかけ、熟考したうえで作成、掲載しています。文章全体を精読し、正確な内容を理解していただいたうえで、リンクを伴った引用等を通じて議論いただくことは歓迎します。しかし、元々の内容を大きく変えたり、自らの主張に都合のいいように一部の文言だけを切り出して使用することは、当所が誤った内容を発信している印象を与えるだけでなく、科学を踏まえた健全な社会の議論を歪めてしまうことを強く懸念しています。
今後も当所は、市民の皆様の健康と安全の維持に寄与するために、より早く、より分かりやすく、より有益な情報を発信していきます。多くの皆さまに正しい情報が届き、活用していただくことを願っております」
国立感染症研究所戸山庁舎(写真:アフロ)