◆「赤木ファイル」が明かした新事実

―― 森友学園をめぐる公文書改ざん問題で自死した近畿財務局職員の赤木俊夫さんが残したファイルが開示されました。赤木ファイルをどう受け止めていますか。

福島伸享氏(以下、福島) 森友問題では、なぜ国有地が安くなったのか、その過程でどのような意思決定が行われたのかという核心部分は未だ闇に包まれたままです。

 一部のメディアは赤木ファイルの開示で真実が明らかになるのではないかと期待値を高めていましたが、赤木さんは国有地の売却に関わった人ではありませんから、赤木ファイルでもその部分は明らかになるとは元々思っていませんでした。

 赤木ファイルの新事実は二つあります。一つは、赤木さんが改ざんの作業過程を記した「備忘記録」の存在です。赤木さんが改ざんに抵抗した証になっています。

 もう一つは、2017年2月16日財務省から近畿財務局(近財)へ送信された「290217福島議員」という題名のメールです。この日、私が財務省に翌日の予算委員会の質問通告を行ったことをうけて、「福島議員への宿題返し」として、私が要求していた国有地の売却に関する決裁文書を出さないようにするという内容でした。

 このメールの開示にあたっては、公人たる財務官僚の名前は黒塗りされている一方、現在は一私人である私の名前は黒塗りにされていない。財務省の身内びいきは腹立たしい限りですが、ここから公文書改ざんが始まり、赤木さんがそれに関わっていくことになったことを思うと忸怩たる思いです。

―― このメールの翌日17日、福島さんは衆議院予算委員会で、安倍総理から「辞任」発言を引き出します。

福島 当時、私は民進党の国対副委員長で、衆議院予算委員会の委員でもあったので、安倍政権の構造的な問題を明らかにしようと森友問題を取り上げたのです。

 しかし昭恵夫人が森友学園の名誉校長になっている事実について「総理はご存じでしょうか」と質問しただけで、安倍総理は突然「私や妻が関係していれば、総理大臣国会議員も辞める」と繰り返し強弁したのです。ここから森友問題は総理の進退を懸けた大事件になったわけです。

◆安倍前総理の「辞任」発言

―― 2月26日には財務省から近財へ「【重要・作業依頼】」という題名でメールが送られ、決裁文書から昭恵夫人の発言等を削除するよう指示が出ています。

福島 安倍総理の「辞任」発言が飛び出した2月17日から、財務省が改ざんを指示した26日までの10日間で、決裁文書の改ざんが決定されたということです。

 おそらく財務省2月17日以降に決裁文書を見て仰天したはずです。そこには昭恵夫人の発言はおろか、籠池氏と撮った写真まで添付されていたわけですから。安倍総理は関わっていなくても、昭恵夫人が関わっていることは明白です。財務省2月16日メールで「実害がなさそうなら、追って、提出」などと書いていましたが、「実害」どころか「これでは内閣が潰れてしまう」と、さぞかし焦ったことでしょう。

 決裁文書を見た財務省は、直ちに官邸に報告したはずです。総理の進退が懸かった「昭恵夫人案件」であることが明らかになってしまうのですから。私は官僚時代に佐川宣寿理財局長と仕事をしたこともありますが、自らが責任を負わないように細心の注意をしていましたから、一人で公文書の改ざんなんて大それた決断を下せるような人物ではありません。

 いずれにせよ、この10日間で財務省と官邸の間で改ざんが決定されたことは間違いありませんが、その経緯は未だ明らかになっていません。

―― 安倍総理ツイッターで「赤木氏は明確に記している。『現場として(森友学園を)厚遇した事実はない』この証言が所謂『報道しない自由』によって握り潰されています」などと述べています。

福島 赤木さんが土地取引には関わっていない以上、赤木ファイルに「現場として厚遇した事実はない」と記されていても、その証明にはなりません。「現場」にいなかったのですから。

 赤木ファイルでは2017年2月以降の財務省と近財のメールのやりとりが記録されていますが、財務省はそれ以前から近財や官邸とメールなどでやりとりをしていたはずです。安倍さんがそこまで言うなら、財務省に指示して森友学園に関するメールを全て開示させるべきです。たとえ「消去した」としても、技術的に復元は可能なはずです。総理だけではなく国会議員も辞めることになるかもしれませんが、少なくとも昭恵夫人が関わっていた事実は認めるべきです。

◆真相解明のチャンスを自ら捨てた野党

―― 森友問題の真相はどうしたら解明できますか。

福島 トゥー・レイトだと思います。いまさら国会の場で森友問題を追及しても真相を明らかにすることはできません。野党が政府に資料を出させるためには、予算成立を担保にして「資料を出さなければ、期限までに予算を通さない」と交渉するしかありません。

 しかし安倍総理が進退を懸けた2017年から2021年までの5年間、野党は一貫して期限内に予算を通してきたのです。自身の進退を懸けた安倍総理もすでに辞任しています。もはや手遅れです。

―― なぜ野党は予算審議を止めてでも資料を出させようとしなかったのですか。

福島 当時の野党には国会審議を通じて本気で安倍政権を倒すという度胸も覚悟もなかったということです。「野党はスキャンダル追及ばかりだ」と批判されますが、総理大臣スキャンダルを追及するなどという大きな返り血を浴びるようなことをやる度胸はなかった。だから野党は震え上がって及び腰になってしまったのです。

 ここで日付に注目してください。2月16日メールでは「これを理由に福島議員が予算を止めるのは勘弁してほしい」と記されていました。財務省はこれを恐れていたのですから、予算審議を止めれば資料を出さざるを得なかったでしょう。しかし、民進党国対はそうした戦術はとりませんでした。

 2月26日メール財務省は改ざんの指示を出しましたが、その翌日に私は再び予算委員会で質問に立ちました。2月中に衆議院で予算案が可決すれば、憲法の規定で参議院の審議のいかんに関わらず予算案は年度内に成立します。この日が、年度内に予算案を通すギリギリのタイミングなのです。

 本来ならば、野党はこの時点で「資料を出さない限り、予算の採決には応じない」と強硬策に出るべきだったのです。総理が進退を懸けた問題である以上、政府が資料を出して総理の潔白が証明されない限り、予算を成立させないというのは当然のことです。

 だからこそ、私は2月27日に国会で質問に立った時、森友問題を追及した上で「きょう採決することなく、この問題に関する集中審議を開くよう」求めたのです。

 しかし、その時もうすでに与野党の国対で握っていて、午後には衆議院予算委員会で予算を採決することを認めてしまっていた。その結果、年度内の予算成立が確定して、政府は参議院でも資料をなかなか出そうとしなくなりました。当時の野党は与党と妥協して、自ら森友問題の真相を解明する最大のチャンスを捨てたのです。

◆「吏道」を廃れさせた安倍・菅政権

―― たとえ真相が解明できないとしても、公文書改ざんが重大事件である事実は変わりません。

福島 公文書は国家の歴史そのものです。決裁が終わって保管庫に置かれた瞬間、公文書は官僚や政府のものではなく国民の財産になります。現在の国民だけではなく過去や未来の国民にとっての財産になるのです。

 戦前の時代は公文書を最終的に決済するのは、天皇陛下が直々に任免を認める認証官の仕事でした。戦前の官僚は天皇の代理として、御名御璽の代わりに決裁を行っていたのです。この精神は今も変わっていません。天皇は「おおきみ」というように「公」の象徴です。だから戦前も戦後も、日本の官僚は天皇に象徴される「公」に仕える存在であり、それゆえ公文書の決裁とはそれほど重いことなのです。

 だから公文書を改ざんするとは、天皇に象徴される「公」を裏切り、官僚としての存在意義を否定する自殺行為です。だからこそ、赤木さんは公文書の改ざんは「死に値する」と思い詰め、自ら命を絶たれたのでしょう。「どうしてそんなことで死んでしまうのか」というような声もありますが、「吏道」とはそういうものなのだと思います。

 天皇に象徴される「公」に仕えるべき官僚を、権力者の私的な都合で使役した、それによって「吏道」を廃れさせた。それが安倍政権の最も重い罪だと思います。

 私が森友問題を調べるきっかけになったのも、若手官僚からの悲鳴でした。私のもとには複数の省の若手官僚から「昭恵夫人からの無理難題に困っている」という声が寄せられ、中には昭恵夫人から直接電話で無理難題の要求をされた官僚もいました。

 安倍・菅政権に一貫する問題は、公私の区別がなく、それゆえ「公」に仕えるという自覚もない人間が「公」を司る立場に就いているということです。だからこそ、総理の周辺から森友・加計・桜、東北新社など公私を混同したスキャンダルが絶えない。私はこういう本質的な問題を提起するために、森友問題の質疑に立ったのです。

天皇陛下一人に「公」を背負わせてはならない

―― 安倍・菅政権の下で、天皇に象徴される「公」が崩れている。その中で6月24日宮内庁の西村泰彦長官は天皇陛下東京五輪の開催が感染拡大につながらないか「ご懸念されていると拝察している」と発言しましたが、菅総理は「個人的見解」としています。

福島 「個人的見解」なんてことはありえません。それは会見の場で記者から「発信していいのか」と確認された西村長官が、「オンだと認識しています」と言い切っていることからも明らかです。「拝察」発言は、西村長官が天皇陛下と綿密に打ち合わせた上で、懐に切腹用の短刀を忍ばせるような思いで述べたものだと思います。

 もし菅総理が西村長官の個人的見解にすぎないと言うならば、天皇を政治的に利用したとして今すぐ更迭すべきですよ。西村長官はその覚悟で発言したはずです。それができないならば、自ら総辞職すべきです。

 そもそも、こういう発言をさせてしまったこと自体が問題なのです。菅総理はこの会見の2日前、天皇陛下に直接内奏しています。そこで天皇陛下のご懸念を晴らすことができなかったからこそ、わずか2日後に西村長官が「拝察」発言をせざるをえなかったのでしょう。菅総理はその時点で自ら総辞職すべきです。

 天皇陛下は「拝察」という形で、憲法に違反しないギリギリの範囲内で、ご自身のお気持ちを伝えられたのだと思います。その意味では上皇陛下が譲位のご意向を伝えたお言葉に匹敵するものと受け止めています。

 しかし一部の人がはしゃいでいるように、陛下は「東京五輪の開催に反対だ」と仰っているのではないでしょう。憲法上、「拝察」という形でもご自身が五輪開催の是非について判断を示すことを正しいとは思われないはずです。そうではなく、日本の在り方そのものに関わる本質的な問題を伝えようとされたのではないか。

 コロナ禍が始まってから、天皇陛下はほとんど国民の前に姿を現していません。一部には批判もありますが、それはひとえに国民を思う陛下のお気持ちから来るものです。陛下は自分自身が動くことで多くの関係者が動くことになり、それによって感染する国民や亡くなる国民を一人たりとも出してはいけないという思いで、この一年半を過ごされてきたのだと思います。

 しかし、天皇陛下東京五輪の開会式に出席して、開会宣言を述べることになっています(※取材は五輪開会式前)。「四大行幸啓」をはじめとする天皇と国民にとって大切な行事に出られていない状況で五輪開会式だけに出席すれば、国民よりも五輪貴族を優先したことになりかねない。そんなことをしたら天皇と国民の紐帯はどうなるのか、日本の独立はどうなるのか。

 今回の「拝察」発言は、そういうことまで考えられた上での、「このままでは天皇と国民の紐帯が守れない」という陛下の叫びであり、「なぜ皆さんはそのことに思いを致さないのですか」という陛下からの問いかけではないか。しかし、まだ日本人天皇陛下の「ご懸念」を本当の意味では受け止められていないと思います。

 いまの日本は、天皇陛下がお一人で「公」をすべて背負うような状況になっています。それでも天皇陛下は憲法上の制約がある中で最大限できることをされて、その身をもって国民との紐帯を守り、「この国の在り方はずっと変わらない」という歴史的事実を示し続けて下さっている。私たち国民は、そういう天皇陛下のお心にもっと思いを致さねばならない。「公」を回復するためには、天皇陛下お一人に「公」を背負わせるのではなく、国民の側からも天皇との紐帯を大切にすることが必要だと思います。    

<聞き手・構成/杉原悠人 記事初出/月刊日本2021年8月号より>

ふくしまのぶゆき●前衆議院議員 元経済産業省官僚

【月刊日本】
げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。

―[月刊日本]―


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