―[負け犬遠吠え]―


ギャンブル狂で無職。なのに、借金総額は500万円以上。
それでも働きたくない。働かずに得たカネで、借金を全部返したい……。

マニラのカジノで破滅」したnoteが人気を博したTwitter上の有名人「犬」が、夢が終わった後も続いてしまう人生のなかで、力なく吠え続ける当連載は58回目を迎えました。

 今回は派遣先で哲学者になったお話です。


◆新しい派遣先での人間関係

 日が長くなった。名も知らぬ同僚と知らない土地で夕飯を探していると、暗くなる前に店が閉まり始める。

 まだ日が出ていると油断していたが、すでに19時を回っていた。気がついたら1日が終わる。夏はいつだって間に合わない。

 単発や短期のアルバイトにおいて、知らない人とすぐに打ち解ける能力はかなり重要になってくる。最初の数回のうちは「短い期間だから誰とも関わらなくてもいい」と思っていたが、蓋を開けてみれば結局人間関係は存在する。

 パチスロポーカー、株や転売もそうだ。情報を得るため、自分の居場所を守るためには外面を大事にしなければならない。それぞれが一匹狼のつもりでも、集まればコミュニティになってしまう。

「以前は何の仕事をしていたんですか?」

会社員ですね、コロナを機に退職しまして……」

「私もです」

 この一年、短期の現場で何度となく繰り返してきた会話だ。ほとんどが嘘である。僕が働くような場所は求人サイトで調べたくらいでは出てこない。歴戦の派遣戦士のコミュニティの紹介でなければ潜り込めない。

◆派遣同士の哀しき「差し合い」

 お互いにそれを知りつつも、さも派遣アルバイト初心者のように振る舞いながら相手の出方を伺う。一度「出来る」ことが判明したが最後、共に動いている間の責任は全て持たなくてはならなくなる。

 派遣の上級者同士のこうした空中戦は格闘ゲームの「差し合い」に似ている。例えば親しくなって相手の素性を知り、経験者であることを吐かせることは「差し返し」と呼んでいる。

「この機械の動かし方は知ってますか?」

「いや、説明は受けたんですが触ったことはなくて……」

 ガソリンで動く発電機を前に、お互いに全く引かない。紐を引いてスイッチを入れるだけだ。

 この会話の本質は責任の所在のなすりつけ合いだが、目の前で起こっているのは初めてテクノロジーを前にした猿同然の不毛なやり取り。この会話を雇い主から見られでもすれば、すぐに使えない人間と判断されて次の仕事を失うだろう。その前にどちらかが折れる必要がある。

とりあえず動かしてみますか、つけちゃいますね」

 今回は僕が折れた。相手は「まさか知らないフリをしていたのか?(笑)」と言わんばかりにニヤついている。知らないなら手元をちゃんと見ろバカ。

◆時間だけが過ぎてゆく

 自分の作業が何を作っているのか、何の役に立っているのか、何もわからないまま時間と体力が減っていく。暇によって引き延ばされた時間がゆっくりと進むのを見守る。

 もう30分経ったかな?と思って時計を見ると、5分しか経っていなかった。これが15時間続く。仕事がなくて家でダラダラしている時に感じる時間と同じ物だとは思えない。

「もう28歳になってしまった、人生は短い。何か成し遂げなければ」

 という漠然とした1時間と、金のために暇を潰さなければならない1時間が進む速さは、体感にして4倍くらい違う。あれほど惜しかったはずの時間をこんなにも捨てたい。金がなくなると頭が悪くなるとよく言われるが、正しくは緩慢になるのかもしれない。

 ただ時間が過ぎるのを待つだけの生活が繰り返されると、思考が遅くなる。遅くなると徐々に会話についていけなくなり、最終的には

「なあ、おい、今の聞いてたか?」

「はあ? 何言ってるかわかんねーよ!」

 という厳しい叱責を浴びる状態になりかねない。指示を理解する頃には次の発言が始まっていて、しばらくしてから言葉のリリースに制限時間のないSNSなどで文章にして返す。相手はいない。ストレス解消のために空中にボールを思い切り投げてしまうだけだ。

 仕事場で見られる目線が若者から大人になっていくにつれて、そうなりつつある。

 こんな事を考えながら何も生み出さない十数時間をやり過ごす。

生きるとは……なんだ……?」

 1日が終わる頃には立派な哲学仙人になっていて、自分が世界一物を解っている人間になったような気になる。

「おい! 何モタモタしてるんだ! 早くバスに乗れ!」

 能ある鷹は爪を隠す。やれやれ、慌ててたって金は生まれないぞ。

 こうしてバスに乗り込む全員がお互いに少しずつ見下し合い、地獄の空間が出来上がる。仕事を語る者、夢を語る者、ラーメン道を語る者。それぞれが精神と時の部屋で研いできた自己満足しのぎを削る。

◆太陽がもったいないな……

 終業後のバスの中、仕事から解放されたにも関わらず窮屈な席で揺られているうちに魔法は解け、哲学仙人たちは底辺労働者の自覚を取り戻していく。

「なんだこの人生は。酒がないとやってられん」

 そのあまりの高低差に耐えられなくなり、自傷として酒を欲してしまう。ビールが美味いのは、苦い人生の味がするからだ。

 僕はとても慎重な人間なので、一人になるまで魔法は解かない。

 バスから降りると、ドッと疲れる。割り当てられた部屋に入ったと同時に服を脱いで布団に横たわるが、乾いた汗でベタついた肌が布団に引っかかって気持ち悪い。このまま寝てしまうか、シャワーを浴びに行くかを天秤にかけて、結局、浴びることにした。シャワーを浴びるという選択が後に失敗だったことはない。浴びて損するシャワーなし

 15時間も炎天下にいると、身体の表面はパリパリに焼かれ、内側も遠熱調理を受けたように熱くなっている。シャワーを浴びただけなのに、サウナと水風呂を往復してととのわせたかのような錯覚に陥る。

 随分水分と塩分を失ったことに気づき、無性にラーメンが食べたくなる。

 部屋から出ると全く同じ思いの労働者がたまたま数人外に出ていたので、無言も気持ち悪いから「何か、食べに行きますか」と声をかけた。あれほど無言の戦いをした相手も、今は等しく惨めだ。

 街の飲食店の多くが閉まっていた。まだ明るいから17時くらいだと思っていたが、19時30分を回っていた。そこで初めて自分たちもコロナ禍の餌食になっていることに気づく。「しばらく昼営業のみ」の貼り紙を見つけては肩を落とした。

 せっかく夏なのに、余った太陽がもったいないな、と思った。

文/犬

【犬】
フィリピンカジノで1万円が700万円になった経験からカジノにドはまり。その後仕事を辞めて、全財産をかけてカジノに乗り込んだが、そこで大負け。全財産を失い借金まみれに。その後は職を転々としつつ、総額500万円にもなる借金を返す日々。Twitternoteカジノですべてを失った経験や、日々のギャンブル遊びについて情報を発信している。
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