東京オリンピックの閉会式にあたる8月8日が告示日の横浜市長選挙が加熱している。カジノ誘致に反対したため、自民党市連は自主投票を決め、苦戦が予想された予定候補の小此木八郎前国家公安委員長に強力な応援団がついた。


■菅首相は小此木氏を支援

小此木八郎

横浜を“シマ”とする菅義偉首相の応援である。 7月29日発行のタウン誌で、菅首相は小此木氏と対談し、「全面的かつ全力で応援する」と表明したのだ。さらに、公明党は党としての推薦を見送ったものの、公明党市議全員が小此木氏を応援することを決めた。

いわば、自公相乗り候補の様相を呈してきた。自民党市議の一部は現職の林文子市長を応援するものの、菅首相の圧力もあり、切り崩され、表だった応援をしづらくなっている。


■山中元教授は「野党統一候補」に

山中武春

一方、立憲民主党が擁立した横浜市立大学の山中竹春元教授も巻き返しを図っている。日本共産党は推薦依頼がなかったから推薦は出さないものの、党をあげて応援することを決めた。連合の推薦も得て、社民党新社会党も応援する。

横浜市選出で立憲民主党の代行代表である江田憲司衆院議員が連日、張り付いて、山中氏と街頭に立っている。3日の会見で社民党福島みずほ党首も応援入りすることを明らかにした。ひょっとしたら、立憲民主党枝野幸男代表が入ることもあり得る。

■ハマのドンも支援

藤木幸夫

横浜政界に絶大な影響を持つ”ハマのドン”こと、横浜港ハーバーリゾート協会の藤木幸夫会長(91)も3日、日本外国特派員協会で会見し、山中氏を「いい男だ」と述べ、支援を表明した。

ただ、「私は(小此木)八郎の名付け親ですよ」「当選するのは八郎でしょう。そりゃ、当選しなきゃしょうがない。(小此木氏の)母からも毎日のように手紙が来るし」と付言したのだが……。

「カジノの是非を決める横浜市民の会」が昨年、住民投票を求めて署名活動を行い、19万筆(対象となる横浜市の有権者約313万人の内の約1/20)の署名を集めたが、運動を担った人たちの多数は山中支援にまわっている。

菅首相の地元ということもあり、小此木氏が負けたときの政権に与える打撃は計り知れず、まさに、国政選挙並みの選挙になってきた。


■ボランティア集まる田中康夫

長野県知事だった田中康夫予定候補のもとにはボランティアが全国から多数かけつけ、盛り上がりを見せる。

田中氏が阪神大震災の時に、被災直後から現地でボランティア活動を行い、神戸空港反対運動の先頭に立ったため神戸からも、あるいは長野県知事を6年務め先進的な改革を行ったがゆえに長野からも支援が集まっている。

田中氏は他陣営に比べるとネット選挙を最も積極的に活用。公選はがきもあえて出さず、ポスター貼りもボランティアが担うという。林市長も現職故の意地を見せ、カジノ誘致賛成派から支持を得て、どぶ板選挙を展開。

■4つどもえの情勢

林文子

横浜市長選挙には9人が立候補予定だが、筆者が先日、当サイトに記事を投稿した時と情勢は変わり、田中康夫 vs 林文子市長の一騎打ちから、小此木 vs 田中 vs 林市長 vs 山中の4つどもえの様相だ。

同選挙には他に、前神奈川県知事の松沢成文氏、横浜市議の太田正孝氏、元衆院議員の福田峰之氏、水産仲卸業社長の坪倉良和氏、弁護士の郷原信郎氏も出馬を表明している


■山中元教授を攻撃するフェイクニュースが拡散

選挙戦が過熱するあまり、卑劣なネガティブキャンペーンフェイクニュースガセネタが飛び交っている。一番被害にあっているのが野党統一候補の山中竹春元教授だ。

写真週刊誌「FLASH」(光文社)は今週号で「横浜市長選『野党統一候補』がパワハラメール…学内から告発『この数年で15人以上辞めている』」という記事を配信・掲載。

山中氏がパワーハラスメントアカデミックハラスメントを常習的に行っていて、それが原因で15人以上の職員・秘書・同僚が辞めたという衝撃的な内容だ。

個人情報保護法が施行され、名誉毀損の賠償額がつり上がったために、週刊誌が飛ばし記事を載せることは少なくなった。

訴訟リスクを回避するためである。FLASH記事を一読後、山中元教授が属したのは小さな研究室だから15名以上も辞めたというのには疑問を持った。

15人以上辞めたというのは元同僚のA氏の発言によるものだけだし、記事の告発者は3人しか出て来ないし、自民党サイドの一部が地元で流している情報と同じだし…と疑問も。

■藤木氏らへも質問

だが、上記の理由で週刊誌が真っ赤なウソを書くことはないと思い、特派員協会で藤木会長に記事の感想をぶつけた。

2日に開かれた日本共産党小池晃書記局長の会見では記事をもとに、田中角栄首相の頃から政界を取材する大御所・堀田喬カメラマンも質問した。小池氏は「事実関係を山中陣営や立憲民主党に聞いている」と述べるにとどめた。

しかし、筆者が事実関係を調べたところ、完全なフェイクニュースだと確信するに至った。


■大学ハラスメント委員会に告発事案は0件

山中竹春

まず、文部科学省の指示に従って、各大学はハラスメントに関するガイドラインを作成・実施し、ハラスメント委員会を設けている。山中元教授が務めた横浜市立大学も例外ではない。

むしろ、公立大学だから、私立に比べてハラスメント対策はより厳しい。筆者の取材に大学側も「ハラスメント対策は厳正に行っている」と答えた。

ところが、大学側・大学関係者にあたったところ、驚いたのだが、「ハラスメント委員会に山中元教授を告発したケースは1件もない」というのである。パワハラ常習者ならばハラスメント委員会に告発されるし、深刻なケースであれば山中氏に処分が下っている。

■告発者はハラスメント加害者との情報

告発され、ハラスメント委員会が「問題なし」と判断したのであれば、大学が握りつぶしたという言い分が成り立たないこともない。

だが、告発自体がゼロなのである。これはハラスメントはなかったと言ってもいいのではないか?「ないこと」を証明することは悪魔の証明と言い、不可能であるが、大学ハラスメント委員会への告発は確認できないのである。

さらに筆者の取材に応えた大学関係者は、「記事で山中氏を告発した同僚こそが問題児でハラスメント(加害者)で辞めた」という驚愕の事実を語った。

これは推測だが、元同僚は私怨から山中氏の悪口を週刊誌や敵対者にリークし、記事にさせたのではないか? そう勘ぐられても不思議はあるまい。


■告発記事で賠償金550万円の事例も

同様に大学内の対立・私怨を週刊誌に売って記事にさせるも、報じたメディアが巨額の賠償金を命じられたケースもある。それは同志社大学のことだ。一審、二審で事実関係が確定されているため、実名で記す。

同大学の渡辺武達教授(当時)が対立していた同僚で、「実名報道」批判で有名な元共同通信記者の浅野健一教授(当時)が学生にセクハラを行っているというガセネタ週刊文春リーク

週刊文春は2005年11月24日号で報じた。浅野氏は、弁護人としてロス疑惑の三浦和義氏を無罪にしたり、最近ではカルロスゴーン元日産社長の弁護をした”やり手の”弘中淳一郎弁護士を立て、名誉毀損文藝春秋社を提訴した。

2008年2月27日、京都地方裁判所は「記事の一部は真実ではなく、原告の社会的評価を低下させた」として、文春に275万円の支払いを命じた。

2009年5月15日、大阪高等裁判所は「真実と認めるに足りる証拠はない」とし、記事中のほぼすべての記述について真実性を否定。一審・京都地裁判決での賠償額275万円から倍の550万の支払いを同社に命じる判決を言い渡した。判決はこれで確定した。

おそらく、山中氏も訴訟すれば浅野氏のように勝訴する可能性が高いと思われるが、判決は選挙よりはるか先であり、賢明な対応とは言えまい。


■選挙にはガセネタがつきもの

選挙には特定の候補を誹謗中傷するフェイクニュースガセネタはつきものである。2006年の長野県知事選挙では再選を目指す田中康夫知事(当時)が公文書破棄を県職員に命じたという虚偽を信濃毎日新聞が連日報道し、田中氏は落選。

そもそも命令はなかったし、公文書なるものも多数の職員が共有しているものであり破棄を命ずる理由もなかった。しかし、それが分かったのも田中氏が落選した後である。

山中氏は公式サイトで反論しているものの、一般には見られていない。だから、繰り返しになるが言う。山中竹春氏がパワハラアカハラした事実はないし、それはフェイクニュースだ、と。