医師を志す者であれば人体の構造を十分理解する必要があり、医学生は実習で遺体を解剖して人体の仕組みを学んでいく。ところがナイジェリアの男子医学生が実習で目にした遺体は、長年の付き合いがあった旧友だった。彼は悲しみを抑えきれず実習室を飛び出したという。『The Daily Star』『BBC News』などが伝えている。

このほど英メディア『BBC News』が、ナイジェリア小説家兼ジャーナリストとして活動するアダビ・トリシア・ヌワバニさん(Adaobi Tricia Nwaubani)から受け取った手紙の内容を伝えたところ、多くの関心が集まった。アダビさんは度々同メディアにナイジェリアの現状について寄稿しているが、今回はナイジェリアで医学生だった男性の内容が綴られていた。

今から7年前のこと、当時26歳の医学生だったエンヤ・エブさん(Enya Egbe)はナイジェリアカラバル大学で解剖学の実習授業を受けることになっていた。実習室の解剖台には3体が横たわっており、エンヤさんら学生は3つのグループに分かれて解剖台の前に集まった。

ところがエンヤさんは自分のグループに用意されていた遺体を見て驚きの声をあげ、泣きわめきながら実習室を飛び出してしまった。遺体は7年以上もの付き合いがある友人のディヴァインさん(Divine)だったそうで、エンヤさんはのちに「僕たちはいつも一緒にナイトクラブに行っていたんです。彼の右胸には2か所、銃弾の痕がありました」と当時を振り返っている。

エンヤさんのこの悲痛な偶然の出会いが、ナイジェリア医学部の献体が不足していることと、一般の人が警察の暴力の犠牲になっていることが浮き彫りになった。ナイジェリアで医学生の解剖用の遺体は、政府管轄の死体安置室にある引き取り手のないものや死刑囚が使われることもあるそうだ。

医学専門誌「Clinical Anatomy(臨床解剖学)」における2011年の発表によると、ナイジェリアで解剖に使用される遺体の90パーセント以上が「警察によって銃殺された犯罪者」だという。

エンヤさんと同じく解剖の実習に参加していたオイファ・アナさん(Oyifo Ana)は、泣きながら実習室を出て行くエンヤさんの姿を見てこのように思ったそうだ。

「私たちが授業で使用していた遺体のほとんどに弾丸が残っていました。でも一部の遺体は犯罪者ではないのかもしれないと思った瞬間、私はとても気分が悪くなりました。」

その後、エンヤさんはディヴァインさんの家族に連絡したが、夜間に友人と出かけたディヴァインさんは自宅に戻る途中で警察に連行されてしまったそうだ。家族はディヴァインさんを探すために近隣の警察署を訪ね回っていたが、幸いにもエンヤさんから連絡をもらったことでディヴァインさんの遺体を自宅に引き取り、埋葬することができたという。

ナイジェリアでは警察官の暴行による被害が後を絶たず、暴行を受けて死亡するとそのまま遺体安置所の施設がある大学の医学部へ解剖用として警察が直接持ち込むこともあるそうだ。その際に警察は故人の身分証明書を大学側に提示したり、家族に連絡を入れることは無いとのことだ。そのためナイジェリアでは昨年、警察の行為を非難するための大規模なデモが行われている。

なお後日、家族の訴えによりディヴァインさんを死に追いやった数人の警察官が解雇された。

一方でエンヤさんは友人の変わり果てた姿を目にしたことで大きなトラウマを抱え、解剖実習室に入ろうとするたびにディヴァインさんがドアのそばに立っているような気がしてならなかったそうだ。そのため何週間も実習を受けることができず1年留年してしまったというが、大学を無事に卒業したエンヤさんは現在、デルタ州の病院の研究室で働いているとのことだ。

画像は『The Daily Star 2021年8月2日付「Medical student flees class in tears after realising dissection body is his friend」(Image: Enya Egbe)』のスクリーンショット
(TechinsightJapan編集部 MasumiMaher)

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