”日本の原爆研究”を背景に、3人の若者たちの決意と揺れる想いを描く青春グラフィティ「映画 太陽の子」が、8月6日に公開された。この物語の軸となる3人から、原爆開発の極秘任務を受けた石村修役を務めた柳楽優弥と、未来を見据える幼なじみ朝倉世津を演じた有村架純に、撮影秘話から今熱中していることまでたっぷりと語ってもらった。

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■「戦争の話ではあるが青春がしっかり描かれている」

――脚本を読んで、強く惹かれた部分を教えてください。

柳楽:僕の勉強不足だったのですが、かつて日本で原子の力を利用した新型爆弾の研究が行われていたということに、まず驚きました。あとは戦争の話ではあるのですが、その中にも修たちが過ごした青春がしっかり描かれていたので、本当にいい脚本に出会えたなと感じましたね。

有村:戦時中を描いているのですが、戦時中の描写自体はあまりなくて。当時、実際は貧困だったり食料不足だったりとつらい状況がたくさんあったと思うのですが、そういった生活の部分はあまりリアルに描かれていません。その時代に生きた若者たちの生き様を中心に据えたヒューマンよりの脚本だなと思い、ひかれました。戦時中のお話だけど、青春のすごくきれいな輝きもあって、そのバランスがとても上手くとれているんですよね。

■「みんなが達成感があるシーンになった」

――海のシーンがとても印象的だったのですが、どのように3人で作り上げていったのでしょうか?

有村:リハーサルしましたよね?

柳楽:そうそう、しましたね。

有村:みんなびちょびちょになるシーンだったので、だいたいこの位置でいざこざがあるとかこんな感じでというリハーサルだけで、テストをやらずにそのまま本番でした。あとはスタッフさんたちもみんなで一緒にお芝居をしながら撮っていった感じでしたよね?

柳楽:まさに。その通りです。

有村:(笑)。すごく朝方でしたよね? 夜中の3時とか暗いうちから海に行って、日が少し昇ると共にスタートして…という感じでした。

柳楽:そうですね。すごく早朝だったんですけど、カット数が多かったわけではなく、海の中と後ろから一連で撮っていく感じだったので、3~4時間くらいで終わりました。朝日が顔を出し始めたところを狙っていたので、舞台の本番みたいな失敗できない緊張感はしっかりありましたね。海に入っていくと、想像以上に引き波の力がものすごく強くて。海の中に入っていく裕之(三浦春馬)を追いかけるのですが、中々助けにいけないんですよ。その撮影の翌日に、現場でそのシーンをモニターから流していたので、みんなが達成感があるシーンになったんだなと思いました。すごく団結した感じがしましたね。あと、海のシーンの撮影をしていた場所にハチの巣があって、架純ちゃんが「あ、ハチの巣だ!」って言ってて…。

有村:すっごく大きくて…懐かしい。

柳楽:本当に大きくてまん丸なハチの巣だったんですよ。あれ架純ちゃんが言ってくれなかったら、誰かがハチに刺されてたんじゃないかな? 砂浜からぴょーんとハチが出てくるような場所で。架純ちゃんが気づいてくれたのは、グッジョブすぎました。そんな思い出があります(笑)。

■「黒崎さんから学ぶことがたくさんある」

――本作の撮影を通して、役者として新たに気付いたことや黒崎博監督からかけられた言葉で印象的なものがあったら教えてください。

柳楽:学ぶことがたくさんありすぎて…。まずこの史実を背景にした物語に生きる人を演じているという時点で、歴史を学んでいけるんですけど。事前に調べきれないこともたくさんあるので、撮影を通して気付かされることや新しく知ることが多かったです。キャラクターとして作品に参加しやすい環境も作ってくださったので、本当に物語の中で生きることができました。僕たちは実際には戦争を経験していないけど、その恐怖をリアルに感じましたね。

有村:私は「ひよっこ」(2017年NHK総合)でも黒崎さんとご一緒していて、リスペクトも信頼もしています。この作品で再びご一緒して、改めて黒崎さんの誠実さというのが、味として作品に反映されているなと感じました。作品のことを本当に誰よりも考えている方だから、役者たちも信じて付いていける現場です。パッケージだとかインパクトだとか、そういう表面的なことではなくて、自分が作っていきたいモノは何かを常に考え、真摯に向き合っておられるので、その姿勢から自分を正されるというか。黒崎さんはしっかりと取材をされるなど、この作品に何年も携わられてきていて、これを映画化したいという熱い思いをお持ちでした。恥ずかしながら私は、この脚本を読むまで、日本が新型爆弾を作っていたという事実があることは知らなかったのですが、教科書でも習わなかったような部分を僕は作品にしたいんだという監督の熱量に、自分も何か出来たらいいなと思い、参加させていただきました。人間としても役者としても同じ作り手としても、黒崎さんから学ぶことはたくさんあります。

柳楽:僕は黒崎監督とは初めてご一緒したのですが、監督の熱量やエネルギーが、みんなに響き伝わっていき共鳴していくのを感じました。本当に信じて頼れる方だから、いてくださって心強かったです。そんな監督が、「研究者たちの生き様を映したいのはもちろんあるんだけど、ただそこにしっかり青春や日常があったんだよ。僕はそれを描きたい」とおっしゃっていたのが、すごく印象に残っていて。研究しているところだけではなくて、みんなにそれぞれの生活があって、日々を丁寧に過ごそうとしている、そんな彼らの強さや境遇に負けない気持ちにフォーカスを当てたいんだということを知って、撮影に臨めてよかったです。

■「ちょっと今、自分を野放しにしています」

――修にとっての“科学”と“実験”のように柳楽さんと有村さんが今熱中していることや情熱を注いでいることはありますか?

柳楽:いっぱいあるんですけど…。

有村:いっぱいありそう。

柳楽:お味噌作り。米麴とかを準備して、大豆を潰すところから始めています。お味噌は自分の菌が少し入る方が、食べたときにより身体にいいらしいんですよ。だから、素手で直接大豆を揉んで、今はまだ寝かしている途中です。免疫アップで身体に良いみたいなんで、オススメですね。

有村:へぇ~! すごい。私は今、インテリアを一気に新調しようかなという計画を立てています。一人暮らしを始めてから、結構何年も家具を変えていなかったので、そろそろ変えてもいいかなと思って、いろいろなところで見たり注文したりしているところです。その時間が楽しいんですよね。

――世津は一人だけ未来を見て生きていましたが、2人が今後挑戦してみたいことや5年後、10年後こうなっていたいなど、目指している未来はありますか?

有村:私は最近は目標を立てなくなってしまって。前までは目標がないとダメだと思っていて、本当に小さなことでも目標を立てていました。たとえば、一つの現場で出来なかったこと、「これが出来なかったから次はちょっと意識してやろう」とか、本当に些細なことなんですけど、それを達成できなかったとき自己嫌悪にかられてしまうことに気付いて…。

柳楽:あー…それはイヤだね、ダメだ。

有村:これちょっと身体に毒だと思って。

柳楽:自己嫌悪は毒ですね。いらないいらない!

有村:ちょっと今、自分を野放しにしています。目標は大事なんですけどね、今は休憩中です。

■「ハードルを下げて幸福度を上げる作戦を決行中」

柳楽:僕は、ハードルを下げて幸福度を上げる作戦を決行中です。

有村:おぉ~! 期待しないということですか?

柳楽:そう。コロナ禍では、出演作品が決まっていても、いきなり延期になってしまうことがあったので。その度にガッカリするので、期待しない生き方をしたいなと。でも結局無理で、すごく期待しちゃうんですけどね(笑)。だから、期待しちゃダメだと言い聞かせて、また期待してを繰り返してます。期待について、架純ちゃんはどう思いますか?

有村:うーん…私はあまり期待しないタイプの人間なんですけど、期待しないっていうのは、ダメージを少なくするために自分を護ってる、傷付かないように生きているだけとも思うんですよね。だから、期待をして傷付く選択を出来る方も素晴らしいなと思います。

柳楽:僕の場合は選択というよりも、期待を止められないだけなんだけどね(笑)。どうすればいい⁉

有村:期待をして裏切られたときは、小さい挫折というか心が折れる瞬間でもあるから。

柳楽:もうボッキボキ(笑)。

有村:でも、その方が人間力が鍛えられて良くないですか?

■「僕、ピアノを習い始めて…」

柳楽:あぁ~確かに! 人としての成長ね。あと僕、2カ月前くらい前からピアノを習い始めて、久石譲さんの「summer」や坂本龍一さんの「戦メリ(戦場のメリー・クリスマス)」を弾いてるんですけど。タララララ~タラララララタララ~♪って。

有村:へぇ~

柳楽:最近はあまり外に出られないので、家の中で出来ることを増やそうと思って。

有村:久石譲さんの「あの夏へ」って聴いたことありますか? 映画「千と千尋の神隠し」(2001年)の曲なんですけど。

柳楽:あぁ~! わかるよ。

有村:あれを弾いて欲しい! 良い曲ですよ。

柳楽:おっ! 次の目標が決まった。弾こう!

有村:いいですよね、ピアノ。でも、何で急に?

柳楽:ジャズアルバム出したいなと、ふと思って。

有村:え!?

柳楽:(笑)。うそです。

■「世津を架純ちゃんが演じることによって説得力が増す」

――お互いの印象や役者としてすごいなと思うところは?

有村:私は一視聴者として柳楽さんの作品をたくさん拝見してきたので、ストイックな“映画人(えいがびと)”というイメージだったのですが、とっても柔らかい方でした。柳楽さんは口数が多いわけではないんですけど、お話するとすごく真摯に向き合ってくださって。それは作品に対しても、ご自身の役に対しても同じで、地続きなんですよね。現場で、オンオフのスイッチが見えないと言いますか。意識されてないのかもしれないのですが、ずっと修でもあり柳楽さんでもあるような感じがしました。とにかく集中力が素晴らしかったです。

柳楽:ありがとうございます。僕は、架純ちゃんと共演させていただく度に、本当に心強いなと感じます。それは多分、人間性だと思うのですが。世津に通じる芯の強さと言いますか、世津のセリフには作品として重要な言葉がたくさんあるので、架純ちゃんが演じることによって説得力が増すなと。架純ちゃんを見ていると「女性としての強さとは、こういうことなのかな」と思うほど、尊敬するところがたくさんある方ですね。…完璧だなって。

有村:ありがとうございます(笑)。

取材・文=戸塚安友奈

柳楽優弥×有村架純/撮影=玉井美世子/スタイリスト=長瀬哲朗(UM)(柳楽)、瀬川結美子(有村)/ヘア&メーク=佐鳥麻子(柳楽)、尾曲いずみ(STORM)(有村)