山梨大学の科学者によってポストに投函された封筒の中には、フリーズドライされたマウスの精子が入っていた。その精子からは健康な赤ちゃんが無事誕生したそうだ。
彼らが考案した薄いプラスチックシートに挟んで精子を保管する方法なら、ハガキに張り付けたり封筒に入れて送ることができる。
ガラス瓶が壊れて貴重な遺伝子が台無しなんてこともなくなるし、大量の精子をたった1冊のアルバムに収めて保管するなんてこともできる。
簡単かつ低コストで、しかも大量に精子を保存できる方法として、『iScience』(8月5日付)に掲載された研究で紹介されている。
精子の保存は、さまざまな分野で求められている技術だ。たとえば家畜の人工授精、絶滅危惧種の保全、あるいは宇宙での実験などを行うには、遺伝子を長期間しかも再び利用できるような形で保存しておく必要がある。
従来のやり方は、低温で精子を凍らせるというものだった。しかし、そのためには液体窒素や大量の電力が必要で、維持費が馬鹿にならない。また万が一、停電が起きてしまえば、精子はすべて台無しだ。
フリーズドライした精子をプラスチックシートで保存
そこで山梨大学の研究グループが考案したのが、精子をフリーズドライ(凍結乾燥)する方法だ。フリーズドライされたマウスの精子は、常温の引き出しの中でも1年もつし、国際宇宙ステーションでも長期間保存することに成功している。しかしフリーズドライにも欠点はあった。それは保存に小さなガラスびん(アンプルびん)が必要だったことだ。
アンプルびんはちょっとしたことで破損してしまう。またほんの少ししか精子が入らない割にはかさ張る。国際宇宙ステーションに送ろうと思えば、たっぷりと緩衝材を詰めなければならないので、大きな荷物にちょっぴりの精子といったことになる。
そこで若山照彦教授や大学院生の伊藤大裕氏らのグループは、アンプルびんではなく薄いプラスチックシートでフリーズドライ精子を保管する方法を考案した。
プラスチックシート自体は精子に有害だ。そこで、まず精子を薬包紙(実験の結果、これが一番使いやすく、受精能力が高かったとのこと)の上でフリーズドライする。それからそれを2枚のプラスチックシートで挟んで圧着する。
たったこれだけで、常温なら3日間、マイナス30度の冷凍庫であれば3か月間保存した後でも、しっかりメスを妊娠させることができる。
A.従来のガラスアンプル(中央)とシート(右)で保存した凍結乾燥精子。B.シートを名刺入れやアルバムに入れれば、1冊で大量のマウス系統を保管することができる。C.シートから回収した精子を卵子内へ注入(顕微授精)。D.3ヶ月間シート保存した精子から生まれたマウスの赤ちゃん。E、F.シートをハガキに貼り付けたり封筒に入れれば、ポストで簡単に郵送できるようになる / image credit:University of Yamanashi
薄いプラスチックシートで保存するので、大量の精子を写真のアルバムのようなものに収めて保管することもできるし、封筒に入れたり、ハガキに貼り付けて手軽に郵送することもできる。
実際に研究グループは、封筒に精子入りのシートを入れて山梨から千葉まで郵送。こうして届けられた精子からは元気なマウスの子供が産まれている。
封筒で郵送された精子から誕生したマウス / image credit:University of Yamanashi
ただし現時点では、常温だと数日しか保存することができない。今後の目標は、常温で1か月以上保存できるようにすることであるそうだ。
References:Mailing
viable mouse freeze-dried spermatozoa on postcards: iScience / 山梨大学プレリリース / written by hiroching / edited by parumo
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