現在公開中の映画『イン・ザ・ハイツ』は、2008年にブロードウェイで上演され、トニー賞4部問、グラミー賞ミュージカル・シアター・アルバム賞を受賞した大ヒットミュージカルの映画化。あまりの人気にチケット争奪戦が社会現象となったミュージカルハミルトン」の作詞作曲と主演、『モアナと伝説の海』(16)の楽曲制作、『メリー・ポピンズ リターンズ』(18)でガス灯の点灯係のジャックを演じた多才の人、リン=マニュエル・ミランダが最初に手掛けたミュージカル作品だ。

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今回は、原作&ピラグエロ(デザート屋台主)役で出演するリン=マニュエル・ミランダ、原作と映画化の脚本の両方を手掛けたキアラ・アレグリア・ヒュデス、『クレイジー・リッチ!』(18)でオールアジアキャストハリウッド映画を全米No.1にしたジョン・M・チュウ監督、そしてキャストアンソニーラモス(ウスナビ役)、メリッサ・バレラ(ヴァネッサ・モラレス役)が参加したインタビューをお届けする。

■「物語の核心を突いた、映画としての新たなアプローチが必要だった」(ジョン)

――ミュージカルとして愛されてきた名曲の数々をスクリーンに甦らせるのは、どんな体験でしたか?

ジョン・M・チュウ(監督)「僕の仕事のすべては、映画のなかで語られる事柄をしっかりと話せる役者を見つけることでした。それはセリフに限らず、演技、歌、パフォーマンスとしてではない身のこなし方などです。出演者たちと初めて会った時、彼らが持ち寄ってくれたものは“リアリティ”でした。リン(=マニュエル・ミランダ)の音楽は、彼自身が育った街や愛を言葉にしたものだから、とてもリアリティがある。それを出演者たちは本能的に理解して翻訳し、可能な限りの方法で表現してくれました。ブロードウェイで上演された舞台版と比較するのではなく、物語の核心を突いた表現をすることに焦点を置きました」

――良いミュージカル映画とはどんなものでしょうか。そしてその見解をどのように『イン・ザ・ハイツ』に応用したのでしょうか。

リン=マニュエル・ミランダ「好きな作品は必ずしもオリジナルミュージカルを一対一で翻案したものではありません、例に『キャバレー』を挙げましょう。ボブ・フォッシーは舞台作品を映画化する際に非常に自由な発想で、映画版ではテーマをより凝縮したものにしています。そして今回の試みでは、この素晴らしい脚本を書いたキアラ(・アレグリア・ヒュデス)の功績が大きいと思っています。2幕構成のミュージカルを3幕構成に見事に変換するという、信じられないほどの勇気を持ってこの映画化に取り組んでくれました。私としては、停電のシーン(ウスナビとヴァネッサが遭遇する場面)で曲の一部を追加で書けたことが大きな喜びでした。キアラ、舞台の特性を生かした演出について、少し話してもらえますか?」

キアラ・アレグリア・ヒュデス「映画化にあたり、私は大好きなミュージカル映画を思い浮かべました。壮大なビジョンミュージカルナンバーと共に、率直にささやくような会話ができる、親密な瞬間が並存しているようなものを。ジョン(・M・チョウ監督)と私は、リンのミュージカルをどれだけ広げられるか、またどれだけ人間らしさを表現できるかについて、何度も意見を交換しました。そしてダイナミズムを生み出すために、常に極限を追求しながら脚本を練りました」

――世界中の観客が映画館を出たあとに、この映画からなにを感じ取ってほしいと考えていますか?

アンソニーラモス「この映画は、どんなことがあっても、前進し続けるコミュニティの人々を描いていると思います。そして、その過程であらゆる瞬間に喜びを見出していくのです。だからこそ、この映画が実際にワシントンハイツで撮影されたことに感謝しています。この映画では、コミュニティの躍動を感じ、人々の息吹を感じ、バイクに乗って店にやってくる人々を実際に感じられるのです」

「第一に、映画を観た皆さんが生きることにワクワクし、外に出ることにワクワクし、再びお互いにつながることにワクワクすること。そして第二は、自分がどこから来たのかというストーリーを、世界や自分のコミュニティの中で人々と共有することに興奮を覚えてほしいと思います。この2年間、人々は様々な意味で挫折したり、夢にも思わなかったようなことを経験したりしていますが、この映画の登場人物たちを通し、小さな希望のかけらを感じてほしい。 そして、人々が映画を必要とするいま、登場人物の一人一人がなにかを夢見て、どんなことがあっても、その夢を追いかけようとする粘り強さを感じてもらいたいです」

――およそ20年前にあなたが書いた物語がスクリーン上で甦った映画の、どんなところに満足していますか?

リン=マニュエル・ミランダ「この物語を書き始めた時の自分は、いまの私と精神的に近い場所にいたと思います。それは大学2年生の時のことです。ニーナは家や学校に居場所がないと感じていて、私も人生において多くの場所でそのように感じていました。キアラと一緒にそのような疑問と格闘し、その疑問をキャラクターに反映させることで、このようなコミュニティと反響し続ける家族を生み出したのです。実は、この素晴らしいチームの演技を実際に見るまでは、私にとって映画化は現実的なものではありませんでした。初めて試写を観た時に、オープニングナンバー(『In The Heights』)のラストショットで、ストリートでみんなが一生懸命踊っているのを見て気付きました。初めてアメリカに渡ってきた私の祖先がこのシーンを目撃したら、喜びの悲鳴を上げることでしょう。この作品全体が、本物のストリートへのラブレターでした」

――このミュージカルスクリーンに再現するうえでの最大の課題はなんでしたか?

ジョン・M・チュウ「課題は…キアラとリンが見ている世界のビジョンに応えるには、世界はまだその域に達していないということでした。そんなリンと私の間で最も共通していたのは、“夢”についてです。私はワシントンハイツの出身ではありませんが、寝室でいつか映画監督になることを夢見ていた時、その夢は実現不可能なものに思え、できるはずがないと感じていました。ボデガでのウスナビのシーンのように、彼を哀れに思ったり同情したりするのではなく、コミュニティの存在が『その窓を壊しなさい、もっと大きな夢を見なさい!』と挑発してくるプレッシャーは身に覚えがあったんです」

――オリジナル版のミュージカルクリエイターとして、新しい世代の映画版キャストが『イン・ザ・ハイツ』に注ぐものをどうご覧になっていましたか?

リン=マニュエル・ミランダ「それこそが、この映画の魔法のような部分です。『イン・ザ・ハイツ』のミュージカルスコアを書き始めた時、私はニーナと同じ年齢でしたが、いまではケビン(ニーナの父親)の年齢のほうが近くなり、その間のすべてを経験することができました。そして、私は撮影中毎日、喜びに満ちてワクワクしていました。というのも、これらの曲を書いた時に、自分たちがどのような状況にあったかを覚えているからです。 妻に恋をしている時に、ニーナとベニーのラブソング 『When you're home』を書いていました。そして、家族のなかで唯一ここにいない祖父へのオマージュとして、ピラグエロ役を演じました。祖父の眼鏡を首にかけ、ポケットには祖父のカウボーイ小説を入れ、撮影に祖父を連れて行ったんです。オープニングダンスナンバーは8分間に及ぶシーンですが、ストリートでの撮影日は1日しかありませんでした。誰もが最善を尽くして撮影に臨んでくれて、彼らを心から誇りに思っています」

――世界で起きているパンデミックによって、この映画は当初の公開予定よりも遅れて上映されることになりました。このタイミングについて、どう思いますか?

メリッサ・バレラ「この映画の制作から公開には本当に長い時間がかかりましたが、いまこそが映画のメッセージを伝える完璧なタイミングだと思っています。私たちのコミュニティがこの映画を自分たちの映画だと感じ、自分たちの存在を誇りに思い、祝福され、映画が皆さんのところまで届いていることを実感できる絶好の機会なのです。この映画を観た人々が、私たちが映画に注いだ愛を感じてくれることを願っています。あなたたちのためにこの映画を作ったのです。これから映画を観てくださる皆さんのために」

取材・文/平井伊都子

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