最先端を行くベンチャー代表から学ぶ連載「ベンチャー社長に聞くタイムマシン経営学」。今回は、社内の誰も気が付かない領域までコスト削減の対象にするサービス「COSTON(コストン)」を運営する株式会社アイキューブ(東京都世田谷区)の麹池(きくち)貴彦代表に話を伺った。あなたの企業にも、コストの中に眠る「真水の資金」があるかもしれない。(企業取材集団IZUMO:正木 伸城)

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1000品目超を精査し、コスト削減対象を抽出

 新型コロナウイルスの感染拡大により、様々な企業にとって生産性と収益性の向上は急務になっている。そんな中、全社的なコスト削減に着手している企業も多いことだろう。しかし、印刷物や水道光熱費、賃料、消耗品の購買費、採用コストなどの削減にやみくもに手をつけていても一筋縄ではいかない。

 知識がないのだ。アイキューブの麹池貴彦代表が語る。

「多くの企業に“本当は削減できるコスト”が眠っています。たとえばECショップなどが支払っているクレジットカードの決済手数料は削減できますが、意外と知られていません。社員の健康診断費用もコスト削減の対象になります。直近では売上60億円規模の企業が決済代行手数料一品目だけで年額約1000万円の経費を削減できました。コスト削減の対象になる品目は、実は1000以上あり、その多くが“知られていない”だけなのです」

 同社は、総勘定元帳(=すべての取引を勘定科目ごとに記録していく帳簿)を元にあらゆる品目を網羅的に精査、コスト削減につなげていく。賃料や地代や光熱費など、一部分を削減対象にするコンサルは他にもある。だが、事業の隅々まで削減対象の品目にし、一気通貫でコスト圧縮ができる会社は、麹池代表いわく「他にないはずです」という。

「当社は一般にイメージされるコンサルティングも行いますし、DX(デジタルトランスフォーメーション)への対応のコンサルティングも行っています。そんな中で、コスト削減のニーズが急増しているのです。中でも当社の強みは、削減対象のコスト品目数『1000』の数字にも象徴されるように、クライアントが『こんなところまで』と感じてくださるほどに、全方位的に、事業の細部に至るまで課題設定ができるところにあります」

取引先の変更は「最後の手段」

 麹池代表が具体的なコスト削減のフローを説明する。

「まずは総勘定元帳を拝見し、支出を精査していきます。すると大抵、100品目程度はコスト削減が可能な項目があるので、これに優先順位をつけていきます。大きくコスト圧縮できるものもあれば、削減額が小さいものもあります。すぐに結果が出せるものもあれば、結果が出にくいものもあります。クライアントの事業計画など、お客さまの事情によって優先度合いも変化します。そこで、ここから最適な優先順位を探っていくのです」

 アイキューブの強みは、約1000項目の適正価格を知っていること。時には相見積もりもとりつつ交渉するから、サプライヤーは対応せざるを得ない。

 ただし、簡単に事が進まないケースも多い。サプライチェーンの中には顧客企業と懇意の企業も多いのだ。

「長い付き合いの中で、お互いが相手に発注する互助的な関係ができている場合もあります。すると『そのサービスならこの会社の方が安いから変えましょう』と提案しても現実的ではないことがままあるのです。また、サプライチェーンには、さまざまな事情で他に代えがたい企業が含まれている場合も多く、これも安いからと単純に他に乗り換えるわけにはいきません」

 コスト削減の「最大化」が、顧客の事業の「最適化」につながるとは限らないのだ。これを同社はどう解決するのか。

「実はそこからが当社の“技術力”です。これは最近手掛けた案件ですが――顧客が懇意にしている地場のサプライヤーから、別の大手サプライヤーへの変更を提案したところ、地場のサプライヤーから“受注がなくなったら当社は経営危機に陥ってしまう”と悲鳴があがりました。顧客企業との取引の過程で大量の在庫を抱えているというのです。一方、顧客企業からも“この会社を何とか生き残らせてあげてほしい”と相談を受けました」

 情に左右されてばかりではビジネスはできないが、情を無視してもビジネスは成り立たない。アイキューブはサプライヤーからも損益計算データ等を取り寄せし、在庫処理の落としどころを探っていった。そして最終的には地場のサプライヤーの在庫処理もサポートすることにより、この会社を守りつつ顧客に利益をもたらしたという。

「我々は基本的に『コストを下げる』というより『コストの最適化』を行っているんです。例えば、東京本社と大阪支社、名古屋支社が同じものを購入しているのに別のサプライヤーへ発注している、といった場合がよくあります。この発注を1社にまとめ、スケールメリットをつくり出せば値下げ交渉に応じてもらえる確率は高くなります。無理に値下げを要望するより、最適化の方法を考えたほうが、リバウンド──価格を下げたもののすぐ値上げされることが少ないのです。もちろん発注先の変更を盾に強く値下げを要望する場合もありますが、これはあくまで最後の手段だと考えています」

コスト削減でDXの推進も

 麹池代表によれば、2020年度の引き合いは2019年度の約10倍になったという。顧客企業の売り上げが大きければ、削減できる経費も大きくなる。総勘定元帳から抽出した品目すべてに手を入れ、数億円単位の削減を行った例もあるという。

「たまに、顧客企業から“もう充分にコスト削減していますよ”と言われることもありますが、実際に手をつければ、まず下がらないことはありません。そして、浮いたお金は純粋な利益になります。このキャッシュを成長投資に回せばどうなるでしょう。実は、お客さまに最も喜ばれる点がそこなんです」

 現在は、コロナ禍によりDXへの対応を迫られる企業も増えている。間接経費の削減により「真水の資金」を捻出できれば、より多くの投資も行える。また、麹池代表いわく、コスト削減でSDGs持続可能な開発目標)に対応できることもあるという。ある企業の産業廃棄物が別の企業の製品の原料になる場合があるのだ。

 ちなみに同社のコスト削減は成果報酬型。コストが下がらなければ、クライアントからアイキューブへの支払いは発生しない。さらに大きな特徴は、「両手仲介」を行わないこと。クライアントからコスト削減費用をとり、新規クライアントを紹介したサプライヤーからもお金をとる「両手仲介」を行えば利益は増えるが、それでは、アイキューブ自体がクライアントのコスト源になるからだ。

 最後に、今後の展望について麹池代表に聞いた。

「今まで様々なコスト削減企業がありましたが、今後はワンストップになっていくはずです。例えば当社は間接経費の削減だけでなく、業務自動化のために仕事の棚卸しをしつつ業務プロセスを見直し、結果として経費を削減することもできます。コスト削減で生まれた真水の資金を使ってDXを推進するというのなら、DXへの投資の最適化もサポートできます」

 一般的にコスト削減は、現場に「取引先の変更」「業務プロセスの見直し」といった仕事を強いる場合がある。しかし、これにより捻出した資金によりDXが進み、現場の仕事量が減るとしたら、現場は喜ぶはずだ。麹池社長のビジネスモデルは「単なる経費削減でなく、今は“攻めの経費削減”が必要とされていますよ」という警鐘なのかもしれない。

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アイキューブ・麹池貴彦代表(写真中央)と、同社のコスト削減サービス「COSTON(コストン)」の担当者